第72話 にゃはは、ウチは大砲やで
「ええっ!? ゆいにゃん、どうしたのその恰好!?」
今日も相変わらず、ケモ耳メイド服姿の花音ちゃんがそのセリフを言うのはちょっと面白い。……あ、ちなみに俺の服装は、何の変哲もないただの制服だよ。
それで藤野ちゃんはと言うと……自分が水着姿なのを再認識してとっても恥ずかしくなってしまったのか、両手で胸辺りの部分を隠しながら。
「……神谷君。もしかして嘘、ついた?」
震えた声で俺に尋ねてきたんだ。
「いいや。確かに俺はメッセージで『水着を(着ておけば濡れても動きが遅くなることはないし)着なきゃ大会に出られない(って程じゃないけれど、大半のチームは着て来るんじゃないかなって、勝手に俺は予想している)よ』とは送ったけれど……」
そこまで言うと、藤野ちゃんはキッと俺を睨みつけて。
「略し過ぎだよっ!!!! あーもーっ!! 神谷君のバカぁ!!!」
俺の肩を掴んで、ブンブン揺さぶってきたのだった。
「いやいや大丈夫だよ、ちゃんと似合ってるし……」
「違う!! そういう問題じゃないのっ!!」
「それに前、夏になったら水着を着てくれるって藤野ちゃん言ってた……」
「言ってない!! なんか歪曲されてるよそれ!!」
「あれれ、そうだっけ?」
確かにそんな感じのことを言ってくれた覚えがあったんだけど……もしかして俺の妄想でも混ざっちゃったのかな? だったら悪いことしたカミねぇ……
「にゃははーなーんだ、心配して損した。ちゃんと仲直り出来てるじゃんか……って神ちゃん! ホントにもう始まっちゃうよ!? 時計見て!?」
花音ちゃんの焦った声から、これ以上世間話を続けるのは難しいと判断した俺は。
「あーうん、りょーかい! それじゃあ藤野ちゃんもこれ装着してね!」
藤野ちゃん用に用意していた無線機とイヤホンを手渡すのだった。
「え、これは……?」
「蓮たちと繋がってる通信機だよ! あとこれも忘れずにね!」
そして俺は運営から配られた頭にポイが刺さったヘルメットを取り出して、三人とも装着した。これで準備は万端だ。
「よーし、頑張ろうね二人とも!」
「うう……早く着替えたいよぉ……」
「目指せ、チャンポン!」
それから間もなくして、大会開始の合図であるブザーが各自の端末から鳴り響いたのだった。
──
スタートしてから俺らは素早く、落ちている水鉄砲を拾うことに成功した。水の補充はルールで禁止されているため、最初に入っている水を使い切ってしまったらもうその武器は使えなくなるんだ。
だから水は貴重であり、落ちている武器はなるべく回収しておくのが大事なんだよ。
それで今の俺の手持ちは、精巧なドラゴンのイラストの描かれたピストル型の水鉄砲に水風船が一つ。何の
『お前ら、その草原を抜けた先の道路に一部隊敵が物資を漁っている。三人組の男で一人は強力な武器持ちだ。早めに仕留めろ』
蓮からの通達だ。蓮らは生中継映像やキルログ等を確認して、索敵をしてくれている。そして敵が近ければ、このように俺達に報告してくれるんだ。
……今更だけどこれ、すっごいチート級のサポートだな。こんな技を使っている以上、負けるなんてことは許されないよな。
「おっけー」
そしてここからは俺の腕の見せ所だ。まだ敵はこちらに気づいてないとはいえ、ここは遮蔽物の少ないフィールドだ。全員で正面から行くのは得策ではない。
「花音ちゃんは正面からちょっかいかけてて。俺と藤野ちゃんは回って行く」
だからここは鉄板の挟み撃ちでも仕掛けてみようか。
「ラジャー!」
「う、うん!」
花音ちゃんは言われるがまま、敵部隊の正面へと飛び出す。
「おーーい!! 君達ーー!! かかってこーいやぁ!! 」
「うわっ、何だあのメイド……?」
敵が気を取られている隙に俺と藤野ちゃんは、草原の方から距離を縮めていく。
「おい、何ビビってんだ! 早くやっちまうぞ!」「あ、ああ!」
男らは花音ちゃん目掛けて水を発射する……が、彼女はいとも簡単にそれらの攻撃をひらりと回避していった。
「にゃっははー! 当たらないねー?」
花音ちゃんは自他ともに認める、避けのプロである。回避に関しては、多分俺よりも強いんじゃないかな?
「チィ……! こうなったら!」
たまらず男は大きな銃に持ち変える。多分使うのを渋っていたんだろうけれど……判断が遅い。そして何よりも……想像力が足りないよ。
「ほい、まずは一人……」
至近距離まで近づいた俺は背後から水を発射し、男の頭にあるポイを打ち抜いた。
「なっ!?」
そしたら相手の端末から大きなブザー音が鳴った。これは自分がキルされた時になる音である。
「よし続けて、藤野ちゃん!」
「うん!」
そして藤野ちゃんも水を発射する。その勢いよく飛んでいった水は、奥にいた男のポイへと見事命中し、そしてその男の端末からもブザーが鳴り響いた。
「うがはっ!?」
「おおーやるねー藤野ちゃん!」
「え、えへへ……!」
もし外した時の為に、俺も一応構えていたんだが……その必要もなかったみたいだね。俺はクルクルと銃を回し、ポケットへしまう。
「くそっ、よくもお前ら……!」
そして残った一人の男は、俺に銃口を向けた。
「あれれ、そんなよそ見してていいの?」
「はぁ? お前は何を言って……」
「はいドーーン!!!」
その男の背後から、花音ちゃんがポイを打ち抜いた。これで相手の部隊は全滅だ。
「おっほほ、当たった当たった! これはクリップものだね……クリッピー!!!」
「クソっ……!!」
そして男らはポイを装着していたヘルメットを外し、武器を置いて足早に去って行った。負けた人は武器を置いて速やかに退場するよう、そうルールで決まっているのである。
「よしよし、順調順調」
「あ、神ちゃん、相手が良い武器落としていったよ!」
花音ちゃんの指す方には一際目立つ大きな銃が置かれてあった。俺はそれを手に取って、細部まで確認してみる。
「ほうほう……加圧式にスコープが付いた水鉄砲か。めちゃくちゃツイてるね」
今の装備のピストル型とは桁違いの威力を誇る武器だ。しかも相手に全く水を使わせなかったのはデカい。当然これを使わない手はないが……ここで決めなければいけないことが一つ。
「誰が持つ?」
俺が二人にそう聞くと、遠慮気味に藤野ちゃんが小さく手を上げながら。
「あの……神谷君、よかったら私に持たせてほしいな。えっと……私、とっても練習して……」
「分かった」
俺はそれを持って行って、藤野ちゃんに手渡した。
「え、ええ!? ちょっと、最後まで聞いてよ!」
「『それは私のものだ』の一言で良いんだよ」
「え、ええ? でもそれじゃあ素っ気ないんじゃ……」
「俺達は仲間だよ。短い言葉でも、しっかりと通じ合うんだってば」
「……!」
そこで藤野ちゃんはハッとした表情を見せて。
「神谷君……! あ、あのっ。この前はあんなこと言ってごめんね……?」
「大丈夫。続きは優勝後にゆっくり聞くからさ」
「……うんっ!」
藤野ちゃんは力強く頷いた。……彼女はとっても強くなっているな。もちろんそれは単なるゲームの腕だけじゃなくて、心の部分も含めてね。
藤野ちゃんはゲームが下手だって言ってたけれど、全くそうだとは思わないし、そもそも上手い下手なんて些細なことだ。俺は努力家で、とっても優しい心を持った君こそが、最強の称号に相応しいんじゃないかって思っているんだよ。
「よし、漁り終わったら素早くここから離れようか……」
「神ちゃん! なんか竹筒の水鉄砲を二つ発見したよー! これを両肩に装備すれば、ウチも大砲やで……」
「おお!! それは絶対いらない!!! 置いてって!!!」
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