第71話 スク水美少女参戦!

 そして蓮は壁に寄り掛かったまま、続けて言葉を発した。


「というかそもそもだな……藤野がここに来てない理由って、お前がこんなにも落ち込んでいるからなんじゃないのか?」


「えっ?」


「うんうん。修一ずっとこーんな顔してたもんね?」


 朱里ちゃんは自分の顔を引っ張って、俺にオーバーな変顔を見せてくる。全く、せっかくの美少女が台無しだよ。


 そして真白ちゃんも二人に同意するように、こくこくと頷いて。


「ええ。本当に心配になるほど、最近の王子さまは元気がありませんでしたからね」


「え、ちょっと待ってくれ。藤野ちゃんは俺と喧嘩したから来てないんじゃ……?」


「それなら大会の練習なんかしないだろ?」


「おそらく藤野さんは、こんなに暗くなってしまった王子様と顔を合わせることが気まずいのだと思いますよ。藤野さんはとても考える人ですから」


「そっか……そうだったのか……」


 それを聞いて、俺は少しだけ項垂れる。そんな俺を見て呆れたのか、蓮が俺の方に近づいてきて……俺の肩を小突いてきたんだ。


「わっ」


「はぁーあ。しっかりしてくれよ、神谷。僕らが信じて着いてきたのは、こんな弱気なお前なんかじゃなかったはずだぞ?」


「……!」


 その蓮の言葉にハッとして、俺は今まで下げ気味だった顔をしっかりと上げた。そして仲間の表情をひとりひとり確認した。


「……」


「な、なんだ、シュウイチ?」


 うん……そうだよな。俺がこんな様子だと、みんなは優しいから心配してしまう。不安にさせてしまうんだ。でもそんなの、リーダーとして失格だ。


「……うん、そうだよね。俺は……俺はっ……!」


 だから。俺は本当にみんなが安心して、信頼できるようなリーダーになる必要があるんだよ。そうならないと大会にだって絶対に勝てないだろうし、藤野ちゃんだって安心して帰って来れないだろうから。


 果たしてそんなリーダーに俺はなることが出来るのだろうか。答えは…………もちろん『イエス』だ。だって俺は……


「……俺は、世界最強ゲーマーの神谷修一なんだ!! 女の子達にカッコ悪い所は見せられないから、絶対に負けるわけにはいかないんだよっ!!!」


 俺はそうやって大声で宣言しながら、高らかに人差し指を掲げたんだ。そしたらみんなは徐々に笑顔を取り戻してくれて。


「あ、いつもの神ちゃんだ」


「んふふっ! やっぱり元気な王子様が一番です!」


「騒がしくなれとは一言も言ってねぇっての……」


 いつもの平和なクランの雰囲気が戻ってきたような気がしたんだ。


 後は……このぽっかりと開いた、一人分のスペースを取り戻すだけだ。


「おおー修一、完全復活したねー。良かった良かった」


「うん! おかげさまで目が覚めたよ! ……それで、大会に出ないみんなにも手伝って欲しいことがあってさ! それをお願いするために集めていたことをすっかり忘れていたよ!」


「お前なぁ……」


「それでシュウイチ、手伝って欲しいことってなんなんだよ?」


「ふふふ、それはね……」


 ──


 そして大会当日。俺と花音ちゃんは、大会運営から指定された場所に降り立っていた。前にも言っていたと思うけれど、ゲームの開始地点は完全なランダムとなっている。


 それで俺達がいるここは……島の端っこの方にある草原地帯だった。正直言ってかなりハズレのスタート位置だけれど、それを嘆いたって仕方がないよな。


「神ちゃん……ゆいにゃんは」


「大丈夫。必ず来るさ」


 少しだけ不安そうにしている花音ちゃんに向かって、俺はそう答える。


 この俺達のスタート位置になっている場所は、既に藤野ちゃんにもメッセージで送っている。そして既読も付いている。だから場所が分からないなんてことは、ないはずだよ。


『……聞こえるか神谷、鳥咲』


 突如、俺の耳元から蓮の声がした。それを聞いた俺はマイクを口元に近づけて。


「聞こえるよ、蓮。隣にはみんないるんだよね」


『ああ。クランハウスに集まっている。言われた通り、大会生中継の映像もスクリーンに映してあるぞ』


「流石だね」


 そう。俺と花音ちゃんは、無線機とマイク付きのイヤホンを持ち込んで、クランハウスにいる蓮たちと連絡を取れるようにしていたんだ。


 何だか少し反則くさいが……ルールにそんなことは書いておらず禁止もされていないので、多分セーフだろう。


『あと数分でゲームが始まる。だがもしも藤野が来なければ……お前ら二人で戦うことになるだろう』


「分かってるよ。でも俺は……」


『信じてる、だろ?』


「へへっ……うん!」


『……はぁーあ、全く。お前の言いたいことが分かってきて嫌になるぜ……』


 耳元で蓮の照れくさそうな声が聞こえてくる。今の蓮の表情も目に見えてくるよ。


『……それでだな。おさらいをしておくが、今回の参加人数はかなり多い。本当に優勝を目指すなら、最後まで生き残るチャンピオンは前提として、二桁レベルのキル数が必要になる』


「うん、理解してるよ」


『それと一応伝えておくが、一番キルを取るとキルリーダーってのになって、倒した奴はボーナスポイントが与えられる。だから神谷、絶対に殺されるなよ』


「おお、蓮は俺がキルリーダーになるって確信してるんだね! 何だか照れちゃうな!」


『念のためだ馬鹿……』


「ねぇ神ちゃん! ホントに始まっちゃうよ!」


 隣で花音ちゃんの焦ったような声が聞こえてきた。もう本当にあと少しでゲームが開始されるのだろう……でも大丈夫だよ。


「きっと藤野ちゃんは恥ずかしがっているだけだからさ」


「え? 恥ずかしがってるって……?」


 そんな困惑している花音ちゃんをよそに、俺は周囲に向かって大声で呼びかけた。


「おーい藤野ちゃん! そろそろ出ておいで! 早く君の姿が見てみたいんだよ!」


 そしたらガサガサっと物音がしたかと思えば。


「…………」「えっ!?」


「へへっ! 会いたかったよ、藤野ちゃん!」


 草むらから、スクール水着を着た藤野ちゃんが飛び出してきたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る