第70話 雨降って地固まる?
──
……それでも俺と花音ちゃんは必死に練習を続けて、エイム力を鍛えていった。でも……あの事件以来、藤野ちゃんは練習場所には一度も来なかったんだ。
もちろん同じクラスだから、藤野ちゃんと教室で顔を合わせることは何度かあったけれど……会話はしなかったんだ。いや、出来なかったと言うべきかもしれない。
自分が傷つけてしまった彼女に対して、どんな風に接したらいいのか、何を話したらいいのか……俺なんかが近づいていいのかが。全く分からなかったから。
そんな俺らしくない悩み事をずっと抱えていたもんだから、俺は元気を失って、すっかり別人みたいになってしまって……仲間や友達、しまいにはクラスメイトや教師からも体の心配をされてしまったんだ。
確かに前より腕は上達したけれど。それ以上に大切な何かが失われていくような、壊れていくような。そんな感じを覚えていた。
そしてそんな思いを抱えたまま……大会の前日まで時間は過ぎていったんだ。
──
「はぁ!? 藤野と喧嘩しただと!?」
ここはクランハウス。大会前だということで、久しぶりにクランメンバーが集合したんだけど……その中に藤野ちゃんの姿はなかったんだ。
それで今、その理由を蓮に説明しているところなんだけど……
「うん……俺……藤野ちゃんを怒らせちゃって……傷つけちゃって……」
「メソメソするな馬鹿! お前はリーダーだろ! もっとしっかり喋れっての!」
「……そうだね」
蓮は相当困惑しているようだった。他の仲間のみんなは、俺の元気がなくなっていることから『俺と藤野ちゃんの間に何かあったのだろう』と既に察していたようだから、そこまで驚く様子はなかったけれど。
「……チッ、じゃあどうすんだよ。あと一人ここから加えるのか?」
そして蓮は不機嫌そうに尋ねてきた。多分、蓮の怒りは藤野ちゃんにではなくて、俺に向けている物なんだろうな。
「それは……出来ない。俺は藤野ちゃんを含めた、あの三人で大会に出るんだ」
俺はそうやって答えた。そしたら蓮は目を見開いて。
「はぁ!? 馬鹿を言うな!! 現に藤野は練習にもここにも来てねぇんだろ!? それならもう、いないものとして扱うしかねぇじゃねえか!!」
「……」
蓮……流石にその言葉は聞き捨てならないよ。
「……いないもの、だと? ふざけんな……もういっぺん言ってみろよお前……!」
「ああ!? お前こそいつまで現実逃避してんだよ……!?」
「藤野ちゃんは大切な仲間だ!!!!」
「ならなんでその大切な仲間が何でここにいねぇんだよ!? いい加減受け止めて、とっとと次の策を考えろ、馬鹿が────」
「やめろっ!!!! オマエら!!!!」
突如、透子ちゃんが俺達の間に割って入ってきた。そして透子ちゃんは、俺と蓮の目を交互に向けて。
「これ以上傷つけあうのはやめろよ!! ボクらは仲間じゃないのかよ!?」
「……」「……」
そして端の方で俺達のやり取りを見ていた女子達も。
「そうですよ! 藤野さんがこの光景を見たら……きっと悲しみます!」
「そっ、そーだ、そーだ!」
「うん、そうそう。お互いの言い分も分かるんだし、もう少し穏便にいこうよ。きっと修一達なら出来るはずだってば」
「……」「……」
みんなの言葉で俺は落ち着きを取り戻す。そうだよ、いかなる時も冷静でいるのが俺の強みじゃないか。どうしてこんな単純なことを忘れていたんだ、俺は。
「ごめん。蓮。ちょっと俺、冷静じゃなかったよ」
「……僕も。済まなかった」
俺らは仲直りの意味を込めて握手した。そしてそれを見た朱里ちゃんは、ほのぼのと。
「ふーこれで解決したねー?」
「いやいや、根本的な所は何も解決してませんよ!」
「確かにそうだ……藤野がここにいないということは事実なんだからな」
「でもどうすれば……」
ここで話が詰まったころに、またまた透子ちゃんが大きな声で。
「あっ、あのなっ! 結奈には絶対に言うなって言われてたんだけど……実は結奈、こっそり練習していたんだよ。そっちの練習に行かなくなった日からずっとな」
「ええっ!?」
「ボクは結奈に呼び出されていたんだ。『練習に付き合って欲しい』って。だからボクはクランハウスの庭で、ずっと結奈と水鉄砲の練習をしていたんだよ」
「そうだったのか……」
藤野ちゃんは隠れて必死に頑張っていたのか。俺や花音ちゃんのレベルにまでついていけるようにって……! それなのに俺は自分のことばかり考えて、藤野ちゃんに何も声もかけずに一人で落ち込んでてって……本当にダメな奴だな俺は。
「結奈は怯えてる。でも必死に克服しようと頑張っていた。だから……明日、結奈は絶対に来るとボクは思うんだ」
透子ちゃんはそうやって強く言い切った。
「そっか。俺なんかが言えたことじゃないけれど……俺も藤野ちゃんが来てくれるって、心から信じてるよ」
きっと今の俺に出来ることは……透子ちゃんと同じように、藤野ちゃんを強く信じ続けるということだろうな。
「ええ、私も信じてます!」「ウチもだよ!」「私もー」
「……ああ。僕もだ」
蓮もそうやって言ってくれたのが、俺はとっても嬉しかったんだ。
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