第69話 神谷君には分からないよ
「……まぁこれで俺の実力は認めてもらったということでいいかな。それじゃあ残りの二名を同時に発表したいと思うよ」
俺は水鉄砲を片付けながら、そうやって言う。それで一応みんなは俺の実力に納得はしてくれたのか、これ以上何も言わずに俺の続きの言葉を待っていたんだ。
「それで俺と一緒に大会に出てくれる人物は……花音ちゃんと藤野ちゃんです! おめでとう! はい拍手!」
そして次の瞬間パチパチと、辺りは小さな拍手に包まれていった。
「おめでとうございます、お二人とも!」
「えー? ボクじゃないのかよー?」
「フン……これで自由な時間が増える」
「あはは、みんな大会頑張ってねー?」
惜しくも? 落とされてしまったメンバーは、拍手をしながら各々反応を示していた。蓮に至ってはただの負け惜しみのような気がするけれど……それより採用された二人の反応はと言うと。
「にゃははっ! やっぱり神ちゃんは見る目あるねー!」
選ばれて当然だと、自信満々にふんぞり返っている花音ちゃんに対して……
「……ええっ!? ど、どどどっ、どうして私なの!?」
藤野ちゃんは物凄く困惑していたのだった。そして藤野ちゃんはその表情のまま、急いで俺の元へ近づいてきて。
「ちょ、ちょっと神谷君!? 何で私を選んだの!? 透子ちゃんや真白ちゃんの方が、私なんかよりも絶対上手だったのに!!」
「いやいや。俺は藤野ちゃんがすっごい上手くなると思ったから採用したんだよ」
「ええ……? 上手くなるって……私が?」
心底信じられないとでも言いたげな瞳で、藤野ちゃんは俺に聞いてきた。
「そうだよ! この三人なら絶対に優勝することが出来るはずだよ!」
「でも……」
続けて何か言いたそうだったけれど、そこで藤野ちゃんは口は止まったんだ。
「んーよし、それじゃあ俺と藤野ちゃんと花音ちゃんは、これから放課後は大会の練習。他のみんなは大会前日までクラン活動はお休みね! あっ、もちろん練習に遊びに来るのは大歓迎だよ!」
「はーい」「分かりました!」
お利口な朱里ちゃんと真白ちゃんは返事をしてくれた。そして俺はくるっと藤野ちゃんと花音ちゃんの方へ向き直って。
「じゃ、そういうことで。頑張ろうね二人とも!」
目の前に手を差し出したんだ。そしたらすぐに花音ちゃんは手を重ねてくれて。
「ほらほら、ゆいにゃんも!」
「う、うん……」
戸惑いながらも藤野ちゃんも手を重ねてくれたんだ。
「よーし、それじゃあチーム神谷、絶対に優勝するぞ……えいえい、おー!」
「おっ、おー!」
「むーん!!!」
……そんなわけで今日の所は解散となったんだ。
──
それから一週間ほど時間が経った。もう大会までは片手で数えられるくらいには、日数が近づいていたんだ。それでも俺達は毎日欠かさず、水鉄砲の練習をしていって、腕を上げて……その中でも特に花音ちゃんは、凄まじい成長を見せたんだよ。
「ねえねえ、見て見て神ちゃん! ……スライディングジャンプ屈伸撃ち」
放課後の噴水前。花音ちゃんは俊敏に動き回りながら、次々に小さな的へと水を命中させていった。
「おお! キャラコンまで出来るようになったんだ! すごいよ!」
「にゃははっ! 神ちゃん、一度実戦形式でやってみない?」
「いいよ! でもまだ俺には勝てないだろうけどね!」
そうやって言いつつ、俺は噴水近くに置いていたポイを取りに行くことにした。
今更だけど、公式大会ではこのポイを頭に装着して、それが水で破れたら退場というルールになっているんだ。なんだかこれって、昔のバラエティー番組で見たような気がしないでもないけど……これ以上は、深く詮索はしないでおこう。
それで袋からポイを取り出している時……近くで藤野ちゃんが、大きな的に水を当てようとしている光景が目に入ったんだ。
様子が気になった俺はそっちへと駆け寄って、声をかけてみることにした。
「どう、藤野ちゃん? 当たるようになってきた?」
「……全然。ちっともうまくならないよ」
藤野ちゃんは低音ボイスで、ぶっきらぼうにそうやって答える。何だか彼女は、相当疲れているように見えたんだ。
「……そっか。でも焦らなくても大丈夫だよ。きっとすぐに上達するって……」
「上達しないから焦ってるんだよっ!!」
「……!!」
まさか藤野ちゃんに言い返されるなんて、これっぽっちも思っていなかった俺は、非常に驚いて……少しの間、声が全く出なかったんだ。
そんな俺をよそに、藤野ちゃんは続けて言葉を発していく。
「そんな呑気なこと言わないでよ! もう大会だって近いのに、私は止まってる的にも当てられないんだよ!? 花音ちゃんはあんなに上達しているのにっ!」
言いつつ藤野ちゃんは花音ちゃんの方を指さす……チラッとそっちを向くと、花音ちゃんがめちゃくちゃ素早いレレレ撃ちをしているのが目に入ったんだ。
「でっ、でもほら、上達の速度は人それぞれだから!」
「……じゃあ私はいつ上手くなるの? それともまだ私の努力が足りないのっ!?」
「ちょ、藤野ちゃん落ち着いて……!」
これ以上ヒートアップさせるのはマズいと判断した俺は、藤野ちゃんの肩に触れて気持ちを落ち着かせようとした……
「無理だよっ!!」
「……!!」
勢いよく俺の手は振り払われた。
その衝撃で俺は何も言えず、呆然と立ち尽くしてしまう……それで流石に藤野ちゃんも、多少の冷静さは取り戻したのか。
「あ………………ごめん……神谷君……」
小さな声で謝ってきたんだ。
「い、いや、それは全然大丈夫だけど……」
「……でもさ。何でも簡単にこなしちゃう神谷君には分からないよ。私みたいな才能の無い子の気持ちなんてさ」
「そ、そんなことは……」
『ない』と。『そんなことはない』と、はっきりと言い切れない自分にかなり腹が立ってしまう。
そんな俺を見た藤野ちゃんは悲しげな瞳で。
「うん、そうだよね。ごめんね。もう今日は帰るよ。疲れちゃったしさ」
「……」
「それじゃあね。神谷君」
そして藤野ちゃんは、遠く遠くに行ってしまったんだ。
俺はすぐにその後を追いかけたかったけれど……更に藤野ちゃんから拒絶されてしまうことに。藤野ちゃんらしくない、悲しげな視線を向けられることに、俺は物凄く怯えてしまって。自分の足が全く動かなかったんだ。
「…………俺は」
「ちょっと神ちゃん! 遅いよ……ってあれ、どうしたの? そんな泣きそうな顔してさ」
そこで花音ちゃんがやって来た。あまりにも俺の準備が遅かったから様子を見に来てくれたのだろう。
そんな花音ちゃんに向かって、俺は縋るように震えながら……いや、泣きながらこうやって言葉を吐き出したのだった。
「っ……花音ちゃん…………!! 俺、藤野ちゃんに嫌われちゃったかもじれな゛い゛よ゛!!!!!」
「は、はぁ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます