第66話 レジェンド大会について

 俺のその言葉で、半数の仲間がパチパチと拍手を返してくれた……もう言わなくても誰がしてくれて、誰がしなかったのかがなんとなく分かるよね。


「でも王子様、もう大会に出ても良いのですか?」


 真白ちゃんが優しい拍手をしながら、俺にそうやって聞いてくる。


「うん、俺達はもう十分にメンバーも集まったし、クランハウスだって建てられた。それに本の印税でポイントにもかなり余裕が出来たから、そろそろ大会に挑戦してみてもいいんじゃないかって思ったんだ!」


「なるほどー! とってもいい考えだと思います!」


「でしょでしょー?」


 まぁ真白ちゃんは、俺のやることなすこと全部同意してくれそうな所があるから……他のメンバーの意見も、ちゃんと聞いておく必要があるんだよね。


「蓮はどう思う?」


 俺は近くにいた蓮にも話を聞いてみた。そしたら蓮は、少々困惑気味に。


「いやお前……あれだけ目立たないようにって、ゲームを禁止していたじゃないか。ここでゲームを解禁する意味ってなんだよ?」


「うーん、そうだねぇ。俺の書いた本がベストセラーになって、生徒会長に喧嘩を売って、クランハウスを建てて、人気アイドルの朱里ちゃんまで仲間にしたんだ……もう相当目立っちゃっていないか、俺のクランは」


「ああ……そういやそうだったな」


 一応蓮は納得はしてくれたのか、ため息と一緒にそう呟いた。


「でもでも私、神谷君とは違ってゲームは下手くそだよ! 大会なんて、とてもじゃないけど出られないし、勝てる訳がないよっ!」


「ああ、それは大丈夫だよ。そんな藤野ちゃん達の為に、今日から公式大会に向けた練習をしようと思っていたからさ」


 俺は藤野ちゃんをなだめるように、そうやって答えた。別に心配せずとも、藤野ちゃんにだって輝けるゲームはきっとあるんだし……そもそも俺がいるんだから、そんなに怯える必要もないんだよ。


「えっ? それってずっと、その大会で行われるゲームの練習をやるってこと?」


「そーそーご名答。藤野ちゃんは鋭いねー?」


「そっ、そうかなぁ?」


 そんな二人の会話に、横から花音ちゃんが。


「でも神ちゃん、それってコスパ悪くない? ポイントを稼ぐ方法は、何も大会だけじゃないんだよ?」


「ああ、まぁ確かにそうだね。ポイントを稼ぐだけなら、他にいくらでも方法はある……でも俺が大会にこだわっているのは、それなりの理由があるからなんだ」


「理由?」


 そして俺はまたみんなの前にシュタっと移動して、何かのプレゼンでもするかのように、身振り手振りで説明をしだした。


「まず公式大会の優勝ポイントはめっちゃデカい。だから大会上位を取れたら、必然的にクランランキングも上位を取ることが出来るんだ」


「ランキング上位になると良いことあるの?」


「それはもう……更にポイントがっぽりよ」


 俺はにやけながら、手でお金のマークを作る……うん、何人かの笑顔が見れたのでよしとしよう。


「もちろん他にもメリットはあるけどね。クランの年間ランキング上位に入っていると、学園側から『レジェンド大会』ってやつの招待状が届くらしいんだ」


 それを聞いた蓮は、身体を乗り出して。


「ん、レジェンド大会? 聞いたことないぞ」


「俺も最近知ってさ。詳しいことはよく分からないが、とっても凄い大会らしいんだ。俺達も出てみたくないか!」


「いや……別に……」


「そんなぁ!」


 そんな中、朱里ちゃんは小さく手を上げながら。


「あ、私レジェンド大会についてちょっと知ってるよ。盛り上げ役として学園から呼ばれたもん」


「ええっ!?」


 俺は驚きつつ、この中で朱里ちゃんだけが二年生だということを思いだしていた。そっか、朱里ちゃんは俺らの知らない情報をたくさん持っているかもしれないんだな……とかなんとか考えている間に、朱里ちゃんは次の言葉を話していた。


「えっとねー去年のクリスマス頃のことだったかな。学園の人から声をかけられて、大きなステージの上で歌ったんだよー」


「いまいち見えてこないな……」


「うーんとね。まぁ要するにレジェンド大会は、他の学校で言う体育祭や文化祭みたいな立ち位置でねー。そのレジェンド大会が行われている間は、学園がお祭りムードになって、授業とかも全部お休みになるんだよー」


「えっ、なにそれ! すっごく面白そう!」


「まーもちろんメインはレジェンド大会だから、みんな生中継される大会に注目するんだー。それでさっき修一が言った通り、クランの年間ランキングトップ20のクランにしか出場資格がなくてね、様々なゲームで勝負して誰が本当に最強かを決めるって大会なんだー」


「……」


 それを聞いて俺は……俺は……


「……やべ、もう鳥肌立ってきちゃった」


「あはは、気が早いよ修一」


 確かにその通りだけど、本当に誰が最強かを決める大会だなんて、めちゃめちゃ興奮するじゃないか! ワクワクするじゃんか!


「それでその大会の商品とかあるのか? そんな凄い大会なんだから、キャンディー一年分とかあってもいいんじゃないか?」


 透子ちゃんのメルヘンな予想に、俺は思わず吹き出してしまいそうになる……たっ、耐えろ……ここで笑ったら、絶対に嫌われる……!!


 そんな俺のことなど気にせず、朱里ちゃんはサラッと。


「一般的には『ただのイベントだから、商品は少しのポイントだけ』ってされてるけれど……」


「けど?」


「噂によるとね。一位になったクランは学園長の部屋に呼ばれて、何でも願い事を叶えてもらえるとか、なんとか……」


 そこで俺がこらえていた笑いが、一瞬にして衝撃へと変換されてしまって。


「ええっ!!!? マジで!!??」


 今日一の大声を上げてしまった。


「……落ち着け神谷。噂なんてモンは当てにならないって、お前が一番知ってるじゃないか」


「へっ?」


 そこで蓮は珍しく俺から視線を逸らしながら、少しだけ言いにくそうに。


「僕だって、お前があの『Kamiya』だって知った時は、流石に落ち込んだぞ」


「あはは……それは悪かったね」


 蓮も『Kamiya』のファンだったのかな……それは悪いことしたカミねぇ……


「ま、まぁーとにかく! レジェンド大会に出て、優勝して、最強の座を奪うためには、公式大会で勝ちを重ねていく必要があるので! 早速今日の放課後から練習に励んでいこう!」


「あっ、まとめた」


「というか神谷君、今更だけど……来月の公式大会は、どんなゲームが行われるの? 私、何も知らないんだけど……」


 おっ、それは良い質問ですね!


「それはちゃんと調べてあるよ。来月は七月ということで『ウォータースプラッシュ』……要するに水鉄砲を使ったゲームが開催されるんだ!」

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