第65話 Kamitendo Direct

 それから俺達は必死にペダルを漕いで、学園へと向かって行ったんだ。それで自転車レースが白熱したお蔭か、奇跡的に俺達は最初の授業に間に合ったんだよ。


 まぁでも……別に間に合ったからと言って睡魔が消えた訳じゃないので、授業の大半は寝ていたんですけどね。えへへ……


 ──


 そんなこんなで迎えた昼休み。俺と藤野ちゃんは誰もいない空き教室で待機して、二人何気ない会話を続けていたんだ。


「そういえば神谷君、レースの結果ってどうなったんだろうね?」


「あー。すっかり忘れていたよ」


 結局あの後俺は、最初に出発したスケボーの花音ちゃんを追い抜いて、一位でゴールしたんだ。そしてその後すぐに校舎に入って教室で寝ていたもんだから、後ろの順位は分からないままなんだよ。


 まぁ……藤野ちゃんがそうやって聞いてきたことから、大体の順位は予想できそうなものだけど。


「でも、みんなのジュース代くらいなら俺が払うし。別に順位をハッキリさせる必要もないんじゃないかな?」


 俺はただ単に勝負事に負けたくなかっただけであって、奢るのが嫌だった訳ではないんだ。だからまぁいい機会だし、みんなに日頃の労いを込めて、追加でアイスとかも奢ってあげようかなー、なーんて。


「ふふっ、そっか。神谷君は優しいんだね!」


 そしたら藤野ちゃんはキュートに微笑んでみせたんだ。やはりこの子は笑顔が一番似合うなぁ……ああ、額縁に入れて飾りてぇ……どこかの美術館に置いてくれませんかね……?


「あーいやいや、俺は好きな人にしか優しくしないんだよ?」


「……」


 しかし……俺がそう答えると、藤野ちゃんはさっきまでの笑顔からスンと真顔というか、無表情へと変わっていったんだ。


「え、えっと……? 急に黙るとちょっとコワイよ、藤野ちゃん」


「……いや、どうしてわざわざ自分から嫌われるようなこと言うんだろうなって」


「えっ、うそっ!? さっきの言葉そんなにキモかった!?」


「えっと……まぁ……うん……」


 そんな中、モゴモゴと言いにくそうな藤野ちゃんの言葉をかき消すように、勢いよく教室の扉がガララっと開かれて。


「王子様、皆さんを連れてきましたよ!」


「全く、人使いが荒いなぁ神ちゃんは」


 真白ちゃんと花音ちゃんが、メンバーのみんなを連れて来てくれたんだ。実はさっき二人には、クランメンバーをここに集めて来るようお願いをしていたんだよね。


 ……ちなみに今更だが、俺のクランに入ってくれた人は、他のメンバーの居場所がマップで確認できるようになっているんだ。


 だからリアルタイムで簡単に、メンバーがどこにいるかを探すことが出来るんだよ。まぁプライバシーがどーのこーので、基本他クランはこの機能をオフにしているらしいが……今の所、メンバーからはクレームは来ていないので、俺のクランはこの機能を使い続けているんだ。


 まぁ透子ちゃんとかはこの機能の存在にすら気づいていなさそうだけど。一々説明する必要もないよね! へけっ!


「ごめんごめん、ありがとね二人とも」


 俺はお礼を言いつつ残りのメンバーに目を向けると、いつものように蓮は不機嫌そうに。


「また僕らを集めて何する気だ? 昼休みくらい自由にさせてくれ……」


「何する気だ、じゃないよ! 本来は昨日、会議とか諸々やるつもりだったのに、ずっとゲームやってたから、今日も集まることになったんだよ!」


「はぁ? それはお前がだな……」


「いや、俺が悪いのは重々承知だけど、蓮にも責任はあるんだからな!」


 そこで蓮は、自分にも俺と同じ視線を向けられているのに気付いたのか。


「……わーったよ。それなら手短にな」


 きまり悪そうに頭を掻きながら、そう言ったのだった。


「もちろんそのつもりだよ。俺は蓮なんかより、忙しい朱里ちゃんの貴重な昼休みを奪っていることに申し訳なさを感じているからね!」


「……」


 そう言うと蓮は、目に見えてピキッた表情を見せたが、これ以上は何も言わなかったんだ。随分と成長したね、蓮キュン……!


「あはは、別に私は大丈夫だよ?」


 それで朱里ちゃんはおどけたように笑って見せたが、今日の朱里ちゃんはいつもより大変な目に遭っていることを俺は知っていたんだよ。


「でも朱里ちゃんが俺のクランに入ったってことが、既に学園新聞に掲載されていたし……きっと今日は質問攻めにあったんじゃないかな?」


 そう、俺のクランに朱里ちゃんが加入したことが、もうニュースとなって学園の生徒に知れ渡ってしまっていたんだ。


 まぁこれはいずれ知られることだろうから、特別隠したりはしなかったけれど……ここまで早い段階でバレてしまうのは、俺も予想外だったよ。


「あー。そういえばそうだね。確かにファンの子から色々と聞かれたけれど、『まだ詳しくは話せない』って言っておいたよー」


 でも俺の心配も杞憂で、朱里ちゃんは百点満点の対応をしていてくれたみたいだ。


「流石朱里ちゃん、ファンの対応には慣れているね!」


「あははーそれほどでもあるけど……でも、そういうのってどこから調べてるんだろうねー? 逆に尊敬しちゃうよー?」


「うんうん、確かにそうだねぇ」


 朱里ちゃんの言う通り、オタクって自分の好きな物の情報をいち早く知りたがるよなぁ。まぁもちろんそれは悪いことじゃないし、その気持ちもよく分かるけれど。


 でも公式側が困るような情報をリークするのはあまり感心しないぞ。それにしっかりと公式側から発表された情報や映像の方が一番盛り上がれるんだし……ってこれ完全にゲームの話だな。


「それでシュウイチ、話ってなんなんだよ? 放課後じゃダメだったのか?」


「ああうん、まあね。早速今日の放課後から活動しようと思っているからさ」


「活動って……?」


 俺がそう言うと、透子ちゃんだけでなく、他のみんなも疑問の表情を浮かべ出した。ふふふ、それじゃあそろそろ本題に入るとしますか。


「じゃあカミテンドーダイレクト、略してカミダイを始めましょう。クランの皆さんに新しい情報を直接、お届けします」


「な、なに言ってるんだ?」


「……何かのパロディだろ」


 こんな学園に通っているんだから、このネタは全員に伝わるものだと思っていたよ、俺は……まぁ気にせずに続けていくんだけどさ。


「それでまず君たちに報告しなきゃいけないことがいくつかあるんだけど……あ、ラインナップって言った方がいい?」


「どうでもいいから早くしろ」


「もー、つれないなぁ」


 何事も楽しむ気持ちを持っていないと、つまんない人生送ることになっちゃうよ? ほら……蓮はあの『海外の反応シリーズ』でも見て、リアクションの練習をするべきだよ。


「それじゃあせっかちな蓮くんのためにもう発表しますけど……」


 そして俺は一呼吸置いて……それっぽい手の動きをさせながら、こうやって発表したのだった。


「遂に来月から、俺達のクランも公式大会……つまり学園ゲーム大会に出場することになりました! はい拍手!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る