5章 大会挑戦編

第64話 クラン内自転車レース開催?

「────くん!! ────やくん!!」


 ……誰かの呼び声。そして吸い込まれそうなくらいに輝いている謎の光。これは何だか、あの有名なゲームのオープニングにそっくりじゃないか……もしかして俺はゲームの世界にでも転生してしまったのか……? これは困ったことになったぞ……


 ……いやいや、全然喜んでなんかないんだからね! ホントなんだからね!


「聞こえる、神谷君!? 早く起きてよ!! 今日も学校だよ!!」


 ……ん? 何か伝説に相応しくない単語が聞こえてきたよ。そんなもの、この世界には不釣り合いだよ。存在しちゃいけないんだよ。


「あるはずがにゃいんだよ……むにゃ……」


「何言ってるの、神谷君! 他のみんなはもう起きてるよっ!」


 その言葉と同時に、いつの間にか掛けられていたブランケットを剝がされた。そして朝の心地の悪い風(当社比)が俺の身体を襲ってくる。


「んっ、寒っ……! ……ってあれ、どうして藤野ちゃんがここに……?」


 細い目で正面を見ると、制服姿の藤野ちゃんが目の前に立っていた。いつの間に君は、主人公を起こしに来る幼馴染系ヒロインに変わったんだ……?


「神谷君、忘れたの? 昨日はずーっとみんなでゲームしてたじゃん!」


「……ああ、そっか」


 藤野ちゃんの言葉で、俺は色々と思い出す。確か俺らは、夜通しでボドゲをやってたんだっけ。それで俺が本気出して……蓮があったまっちゃって……それで……いつの間にか意識が飛んだんだよな。


 うん……だから眠いのは、全く不思議じゃないんだよな。だってほとんど寝てないんだもん。


「みんなご存じの通り、神谷君は朝に弱いんだ……だからあと十分だけ寝かせてくれないかな……」


「そんなこと言ってられないんだってばぁ! 時計を見てよ!!」


「…………は。ふぁ?」


 何とか細目で壁に掛かった時計を見てみると、針は八時と四十分を指していた……ちなみに、サイコー学園の授業は午前九時から開始される。


「……きっとこれは夢だ。二度寝しよう」


 絶対に無理だと悟ってしまった俺は、再び静かに目を閉じた。


「もーっ!!」


 そして瞳を閉じた俺には、藤野ちゃんの可愛い怒ったような声。そしてドタドタと複数人の足音が聞こえてきて。


「ゆいにゃんゆいにゃん、神ちゃん起こせた?」


「だめだよ! 全然起きやしないよ! 寝起き悪すぎだよ神谷君!」


「ほっとけ藤野。そんな奴、起こす価値も無いだろ」


「そうだそうだ! 遅刻すればいいんだ、こんなヤツ!」


 ……何だかボロクソに言われてる気がするけど。俺ってそんなに人望無かったの?


「そんな言い方はダメですよ、寝落ちしてしまった原因は、私達みんなにあるんですから! 王子様だけを責めるのは間違ってますよ!」


 この声は真白ちゃんか……ああ、やっぱり俺の味方でいてくれるのは真白ちゃんだけだよ。真白ちゃんなら『学校サボって、一緒に添い寝してくれないかって』頼んだら、即答で「いいですよ!」って言ってくれるんだろうな。


 流石に彼女の為を思って、口にはしないけどね。遅刻をするのは俺一人で十分だから。俺なんかに構わず早く行ってくれ……!


「しかし……」


「蓮さんだって、王子様に勝とうと、何度も連戦していたじゃないですか! 私たちを巻き込んで! だから王子様が睡魔に襲われてるのは、蓮さんのせいでもあるんですよ!」


「ぐっ! そっ、それは…………すまん」


 おっ、蓮が叱られてやんの。愉快愉快……


「あれー? まだ起こせてないのー?」


 おっと。次は朱里ちゃんの声かな……本当にみんな起きているみたいだな。


「そうなんだよー。こうなったら神谷君には悪いけど、力を使って……」


「あーそれはダメだよー。そんなことしたら修一が不機嫌になっちゃう。だからここは耳元でね……」


 そして近くでガサガサ音がしたかと思えば……俺の耳元から、優しい朱里ちゃんの囁き声が。


「今から三秒以内に起きたら、私が頭なでなでしてあげるよー?」


「──ッ!!??」


 アタマ、ナデナデ……朱里ちゃんの!?!?


 俺は反射的に飛び起きた。そして俺は朱里ちゃんに頭を差し出して。


「おーよしよし、えらいえらーい」


「クゥーン、クゥーン!」


 俺は犬になった。いや、


「完全に神谷を飼いならしてやがる……」


「うわ……キツ」


「ああー王子様ー! 頭くらい、私が毎日撫でますってばー!」


 俺が周りの聞く耳を持たずに、ずっとナデナデしてもらっていると、流石に痺れを切らしたのか、透子ちゃんは。


「……うおいっ!! いつまでしてもらってるんだオマエは!! 早く出るぞ!!」


「ええー? でも俺……顔も洗ってないし歯磨きもしてないし、シャワーも……」


「バカ! そんなの行って全部出来るだろ!!」


 透子ちゃんがキレながら言っているせいで、いささか信憑性が足りないが……実際、透子ちゃんの言う通りで、学園で全部事足りるのだ。売店に歯ブラシ売ってるし、シャワー室も自由に使えるからね。


「まぁそうだけど……」


 俺が寂しそうに同意すると、朱里ちゃんはナデナデしていた手を止めて。


「それじゃあ続きは学校でやろっかー? もちろん、誰にも見られない場所でこっそりとだけど……?」


「──っ行く!!!! みんな!! 早く出るよ!!!」


「……ホント調子の良い奴だな、お前……」


「一回神ちゃんは、ゆいにゃんに本気で怒られるべきだと思うにゃ……」


「……」


 全員から呆れられつつも、とりあえず俺達はクランハウスから出ることに成功したのだった。


 ──


「あっ、神谷君!自転車が三台しかないよ! どうするの!?」


 クランハウスの外。駐輪場には自転車が三台しか並んでいなかった。


 でもこれは何も不思議なことではなく、単に自転車で来たのが、俺と藤野ちゃんと真白ちゃんの三人だけだったということである。


「んー。走っても間に合う訳ないだろうから……二人乗りかなぁ?」


 遅刻と交通法違反を天秤にかけても、遅刻の方が罪が重いのは明白である。


「でも神谷君、ここには七人いるんじゃ……」


「ウチはスケボーがあるから大丈夫だよ!」


 そこで花音ちゃんが、スケボーを片手にやって来た。そういや花音ちゃんは生粋のスケボー少女だったっけ。


 そして人数が足りることに気付いた真白ちゃんは、テンションを上げて。


「二人乗りですか!? 私、王子様の後ろに乗りたいです!」


「うん……俺もそうしたいのは山々なんだけどさ。ここにチャリンコに乗れない、ロンリーボーイがいるんだよね」


 俺は蓮を親指で指す。


「……」


 その後、俺は自転車に跨った。


「どした? 早く乗れよ、蓮?」


「……これ以上ないくらいの屈辱だ」


 口ではそう言いつつも、他に方法がないのが分かり切っている賢い蓮キュンは、渋々俺のチャリの後ろに乗っかるのだった。


「あははっ、たまにはリーダーを頼れよ? れんれん?」


「うぜぇ……」


 そしてほぼ同時に、藤野ちゃんと真白ちゃんも自転車に跨って。


「透子ちゃん、私の後ろに乗っていいよ!」


「うう、結奈ぁ……ホントに優しいな、オマエ……!」


 透子ちゃんも藤野ちゃんの後ろに乗っかった。でも怖いのか、透子ちゃんは藤野ちゃんのお腹をギューっと抱きしめていた…………羨ましい。両方、羨ましいぜ。


「んふふー。じゃあ私は真白の後ろに乗ろうかなー?」


 最後に朱里ちゃんも、真白ちゃんの後ろに乗っかるのだった。


「ええっ!? あっ、あかりんが私に密着するなんて……ああ、すっごく柔らかいです! やばいです!」


「ふふっ、真白ちゃんが神谷君みたいな顔してるよー」


「真白ちゃん! もっと詳細に!! 柔らかさを具体的に!!!!」


 そんな感じで、俺達が真白ちゃんに注目してると。


「じゃあ一番最後に来た人が、全員にジュースを奢るってことで! お先!」


 そう言いながら花音ちゃんは地面を蹴って、スケボーを走らせるのだった。


「ああっ、ずるいぞ花音ちゃん!」


 勝負と言われちゃ俺も負けてはいられないので、急いで俺も体重を乗せ、ペダルをグルグルと回すのだった。


「うおっ!? 急に動くな馬鹿!」


「ならしっかりと掴まれよ、蓮!」


「はぁ……ああ。わーったっての」


 そしてやっと蓮も俺の腰を掴んでくれたのだった。全く、お前はいつも素直になるのが遅いんだよ……!


「……なぁ。お前のサドル低くね?」


「ああん!??!!?? てめえ振り落とされてえのか!?」


 ──


「透子ちゃん、私達も行こっか?」


「うっ、うん! 結奈、頑張って! シュウイチに負ちゃだめだよっ!」


「よし、私達も行きますよ、朱里さん! しっかりと掴んで下さいね……」


「ねぇ真白。ジャンプアクションって決めたら、本当に加速すると思う?」


「…………へっ?」

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