第63話 デュエル開始の宣言をしろ、神谷!

「神ちゃん神ちゃん、せっかくメンバーも増えたことだしさ、みんなでゲームでもやらない? まだまだ夜の時間はたっぷりあるんだからさ!」


 それで花音ちゃんは正式な仲間になれたのが嬉しいのか、テンションを上げたまま、付け耳をぴょこぴょこと動かして、そう俺に提案してきた。


「えっ、こんな状況でか?」


「こんな状況だからだよ! さっきの神ちゃんの発言で、みんなが気まずくなるのも嫌だし、ウチはみんなともっと仲良くなりたいし! それに神ちゃんは、あの小っちゃい子と仲直りして欲しいもん!」


「小っちゃい子って、透子ちゃんのこと?」


「そう! 透子にゃん!」


「なるほど……」


 まぁ……確かに花音ちゃんの言う通り、仲間のみんながギスギスしてたら嫌だし、俺も透子ちゃんとは仲直りはしておきたいもんな。そもそもこんな状況を招いたのは、もとはと言えば俺のせいだし。俺がこの場の空気を戻す必要があるよな。


 花音ちゃんはその辺の意図を色々と組んで、そう言ってくれたのだろう。その提案には感謝しておかないとな。


「分かったよ、それじゃあ遊ぼうか」


「にゃははっ、やったー! ゲーム、みんなでゲームだー!」


 ……単に花音ちゃんは、遊びたかっただけなのかもしれないけど。それでもきっかけを作ってくれたのには、間違いないよ。


「でも、まずは透子ちゃん達を呼び戻さないとね」


「あっ、ウチが連れて来ようか?」


「いいや大丈夫だよ。俺が行くから……」


 ……といったところで。突然、この部屋の扉がガチャンと開かれて。


「おい神谷……ガキいじめんのはあんま感心しねぇぞ」


 夕食後から行方を晦ませていた(多分空き部屋で一人でいただけだろうけど)蓮が、いきなりこの場に現れたのだった。


「うわっ、蓮!」


 驚きつつも、蓮の方をよくよく見ると……蓮の後ろに透子ちゃんが隠れていたのに、俺は気が付いたんだ。


「えっ……どういうことだ?」


 俺が困惑してると、蓮は「はぁ……」と大きなため息をついた後に。


「……あのな。僕が二階でゆったり本を読んでいたら、急にこいつが……明智が泣きながら部屋に入ってきたんだよ」


「ええっ!?」


 泣いていたのか透子ちゃん……!? 俺はそこまでひどいことを言ってしまっていたのかよっ……!! ……ああ、早く切腹しなきゃ。


「訳を聞いてもお前を罵倒する言葉しか言わなくてな。それで困り果てていたら、汐月も部屋にやって来て……そっから何があったのかを、汐月から聞いたんだ」


「あ、ああ。そうなんだね……」


 いったい真白ちゃんはどんな説明したんだろう。蓮に曲解されてたら面倒なことになりそうだなぁ……いや。されてなくてもなりそうだけど。


 ……だけど。俺が予想していた反応とは違って、蓮は呆れ顔ではあったものの、声を荒げたりはすることなく、そこそこ穏やかな声色で。


「……別に僕はお前らの色恋沙汰なんて微塵も興味ないが。少しくらい人の気持ちを考えろよ、神谷。普通、何股もかける宣言して、喜ぶ奴なんていねぇんだからさ」


「は、はい。すいやせんでした……」


 でも普通に蓮からガチ説教貰うのも、何か心にくるものがあるなぁ……


「でもどうして蓮が連れて来てくれたのさ?」


「汐月の言うことを全く聞かなかったからな。だから仕方なく僕が連れて来たんだ」


「そうだったんだ。ごめんな、蓮」


「ああ、全くだ」


 そして寄り道をしていたのか、遅れて真白ちゃんもここに戻って来て。


「あっ、本当に戻ってました! どうして透子さんは、蓮さんの言うことは素直に聞くのでしょう……? もしかして蓮さんに懐いているんでしょうか?」


「フン、冗談言うな。単にこいつはお前らが嫌いなだけだと思うぞ」


 蓮はぶっきらぼうにそう言って、俺と真白ちゃんを交互に指さした。


「ええっ!?」「ええ、そんな!」


 ……こんな風にオーバーな反応はしたけども、蓮の言う通り俺が透子ちゃんに嫌われる要因は無数に思いつくよ。でも……どうして透子ちゃんは、真白ちゃんまで嫌っているんだろうか?


 うーん……あ、もしかして。透子ちゃんは俺が嫌いで、真白ちゃんは俺のことが……まぁ好きで。それで透子ちゃんは、嫌いな俺を好きでいる透子ちゃんのことも嫌いになっちゃったってことなのだろうか? ……何だかこんがらがってきたぞ。


 まぁ要するに三角関係ってことなのだろうか……ん、でもあれ? 確か三角関係って、矢印が俺に二つ向いていないと成立しないんじゃないか……?


「……」


 そんな風な考えを頭で繰り広げていると、透子ちゃんが真っ赤な瞳で俺を見つめていたのに気が付いた。とっ、とにかく! 今の俺がやるべきことは……謝罪だよ!!


「いやっ! 本当にごめん、透子ちゃん! いきなり俺があんなこと言ったら、混乱して訳わかんなくなるのも当然だよね!」


「わっ、私も良かれと思って、透子さんにあのような提案をしてしまいました……怒らせてしまって、本当にごめんなさい!」


 俺は真白ちゃんと一緒に頭を下げた……何ともまぁ、息も角度もぴったりなお辞儀である。


 こういった部分で、更に透子ちゃんを怒らせてしまうんじゃないかって内心ビクビクしていたけど、流石にそれは考えすぎだったようで。


「……オマエらのことはキライだけど。別にもうボクは怒ってもないから、早く顔を上げてくれ。なんか……ヘンな感じになるんだ」


 透子ちゃんは目を逸らしながら、不機嫌そうにそう言った……だけど。その言葉は確かに、俺達を許してくれる内容だったんだ。


「透子ちゃん……!」「透子さん……!」


「そもそも、シュウイチとマシロのヤバイ性格もとっくに知ってたし。だからあの程度で動揺してしまったボクも少しは悪いのかもしれない」


「いや……流石にそんなことはないんじゃないかな……?」


 藤野ちゃんが遠くからボソッと言う。それには俺も同意するよ。


「それじゃあ透子さんはまだまだ、このクランにいてくれるんですね!」


「まあ……な。悔しいけどボクを受け入れてくれる場所なんて、きっとここしかないだろうし。それに結奈やアカリはキライじゃないからな……」


 それを聞いて、俺は非常に安心したんだ。うんそうだよ、このクランに欠けて良い人物なんて、誰一人としていないんだから!


「そっか、良かった! やっぱり俺、透子ちゃんのそういう素直なところが大好きなんだよ!」


 そしてりんごちゃん……もとい透子ちゃんは、毎度おなじみ熟した果実のように、顔を真っ赤に染めて。


「……ッッっ!! だからぁ!! ボクはオマエのそういう所がキライなんだァ!!」


 全力グーパンを俺にお見舞いしてきたんだ。


「ああっ、痛ぁっ!!」


「ホントに、ホントに何も学習しないヤツだなオマエは……ッ!!」


 うん、これも一種の愛情表現だとは思うけれど……今時暴力系ヒロインは流行らないだろうから、いつかこの性格だけは改善して、俺の言葉を素直に受け取れるようになってたらいいんだけどな……


 それか俺が痛みに快感を覚える、真のドМに変わればいいのか……いや、それはダメだ。一応俺にだって、ほんの少しはプライドというものがあるんだから……


「うん、よーし。これで仲直りも済んだことだし、今度こそみんなでゲームをやるよ! さっきこの部屋で面白そうなボードゲーム見つけたんだ!」


「フン……じゃあ僕はこれで」


 そう言って蓮は部屋から去ろうとする……


「ああ、ちょいちょーい! みんなって言ってるんだからキミもやろうよー?」


「いや、僕はやらん」


「そんなつれないこと言わないでさー」


「……」


 そんな二人を見たのか、朱里ちゃんは。


「あっ、じゃあさ、このゲームで勝った人がこのクランの団長になるってのはどうかなー? 面白いと思わない?」


「おお、あっかりん、いいねそれっ!」


 ……何か俺が透子ちゃんに殴られてる間に、凄い話が進んでるんだけど……確かにそれは面白そうだ。


「そんなの、お前らで勝手にやればいいだろ……」


「おい、蓮! 負けるのが怖いのか!」


 突如、俺は蓮を煽ってみた。そしたら蓮はすぐに反応してくれて。


「……あ? 馬鹿を言うな」


「そういや俺らって、一度も戦ったことなかったよな! この際どっちが強いかはっきり決めてみようよ!」


 そしたら負けず嫌いな蓮は、俺の期待通りの返答をしてくれて。


「……いいだろう。言っておくが、僕はお前らとこの学園に来た覚悟が違うんだ。本気を出したら負けることは無い」


「へへっ、それは楽しみだ!」


「神ちゃん、ボドゲで使うカード配ったよ!」


 見ると、中央にあったテーブルの上には、既に全員分のカードが配られていた。


「よし! じゃあ透子ちゃんも! 続きはゲームで決着を付けよう! このままだと俺の身体が持たないからさ!」


「……分かった」


「じゃあ藤野ちゃん達も、みんな配置に付いて! それじゃあやるぞ!」


 そしてみんながぞろぞろと、テーブルに集まったのを確認した俺は、片手を上げてデュエル開始の宣言をしたのだった。


「デュエル開始ィィィ!!」


 ──


 それから何分と、何時間と……日が昇るまで、ゲームは繰り返された。もちろん俺は一度も手を抜くことはなかったので、毎回俺がいる陣営のチームが勝利したのだったが。


 それでも、みんなでやるゲームは本当に楽しくて、夢のようなひと時で、そしてこの場にいる全員は……次の日もちゃーんと平日であるということを、すっかり頭から消し去ってしまっていたんだ。




 第四章完

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