第62話 気になるみんなの返事は?

「……」


 俺があの宣言をしてからというもの、この場には長ーい沈黙の時間が訪れ。そして史上最大の重たい空気が、俺らに伸し掛かってきたのだった。


 ……いやそうだよな! あんな状況で『全員、俺と付き合ってくれ!』だなんて言うなんて、どう考えても頭がイかれてるし。こんなのみんなからキレられても、嫌われても……最悪、クランから離れられても。俺は何も文句は言えないはずだ。


 そんな脳内で反省会を行っても、言ってしまった言葉は取り消せるはずもなく。俺は覚悟を決めて、女子たちの反応を待つのだった……ううっ、お腹が痛いよ。


「…………あ、あのっ!」


 そんな中、最初にその沈黙を破ったのは……純白の天使、真白ちゃんだった。そして彼女は若干震えた声ではあったものの。


「わっ、私も!王子様のことが好きですっ!それで出来ることなら今すぐにでもお付き合いしたいのですが……王子様の言うトップになる日まで、私はずっと待ちますよ!」


 そうやって真っすぐな気持ちを、俺に伝えてくれたんだ。


「本当に!? ありがとう真白ちゃん!俺はとってもとっても嬉しいよ!!」


「ええ、私もですよ王子様! 本当に私は幸せ者ですっ……!」


 そしたら真白ちゃんは心の中に押さえつけていた何かが壊れたのか、勢いよくこっちに飛び込んできて……人目を全く気にすることなく、俺を抱きしめてきたのだった。


「うおっ!? ちょ、ちょっと!? 真白さん!!??」


「これからは合法的に触れられるんですね……本当に夢みたいですよ……!」


「ごっ、合法的って……?」


 いちいち発言が危なっかしいというか……そういや忘れがちだけど、実は真白ちゃんって結構変態チックな子なんだよな。まぁ俺が関わっていなければ、基本は常識人でいてくれるんだけど。


 ……というかもしかして、真白ちゃんはずっと我慢していたんだろうか。別に俺は抱き枕と同じくらいの頻度で抱きしめてくれていいのに……ってなんだか真白ちゃんの身体、すっごいふわふわでいい匂いがするぞ。


 なんだかこっちもイケナイ気分になってきちゃったぞ……ああっ……俺っちも男の子だってことを忘れちゃダメなんだぞ……


「おっ、おいっ!! ちょっと待てマシロ! こいつは……シュウイチは、この場にいる全員と付き合おうとしているんだぞ! それでマシロはホントに良いのか!?」


 突如、透子ちゃんの叫びに似た声が。危ない危ない、何とか正気に戻ったよ。


 そして真白ちゃんは、渋々俺を抱きしめていた手を放して。


「ええ、もちろんですよ。私はこうやって、王子様の傍にいるだけで幸せなんですから。それに……私はこのクランのみんなも嫌いじゃありませんからね!」


「そっ、そういう問題なのか……?」


「はい! よかったら透子さんも私と一緒に、王子様とお付き合いしませんか?」


 傍から見ると、とんでもないことを口走っているように聞こえるけれど……それを最初に提案したのは、紛れもない俺なんだよなぁ。


 そしてそれを聞いた透子ちゃんは、またまた顔を真っ赤に染めて。


「……ッッ!? ぼっ、ボクは認めないからな!? こんな一度に大勢と付き合おうとしてるクソなヤツなんて、こっちからお断りだからなっ!! ばーか!!」


 そうやって吐き捨てて、部屋から飛び出してしまったんだ。


「あっ、待って下さい透子さん!」


 それを追いかけるように、真白ちゃんも部屋から飛び出していった。俺もすぐにその後ろを追いかけたがったが、今の透子ちゃんには逆効果だと思い、俺はすぐに足を止めた。


「……」


 そして部屋に残った四人でまた沈黙が訪れる……かと思ったが、意外とそんなことはなく。


「……うーん。ウチも神ちゃんのことは嫌いじゃないけど。今すぐに付き合うだとか、そんなの簡単には決められないよ」


 花音ちゃんはサラッとそう言ったんだ。


「そっか。でもそうやって言ってくれるだけでも、俺は嬉しいよ」


 もちろん俺は、みんながみんな真白ちゃんのような答えを言ってくれるとは思っていなかったし、どんな返事も受け止める覚悟はできていたんだ。


 それにまだまだこれから俺のことを好きになってくれるチャンスはいくらでもあるし……俺は諦めたつもりなんかは全くないからな!! ……まぁわざわざそんなことは言わないけども。


 そしたら花音ちゃんは若干驚いたような表情で。


「なんだ、意外と物分かりは良いんだね。まぁ『今すぐ全員俺と付き合えー。さもなくばクランから追い出してやるー』なんて言おうものなら、ウチが跡形もないくらいボコボコにしようと思ってたんだけどさ」


「あ、あはは……」


 こっ、怖ぁー。戦闘力的な意味で言えば、多分この中で一番強いのが花音ちゃんだもんな……まともに戦ったら多分骨折られるよ。


「ま、でもウチは神ちゃんのことは信頼してるし。『好き』って言われたのは普通に嬉しかったよ。ありがとね」


「うん、そっか。良かったよ」


 さっきも言ったけど、そうやって言ってくれるだけでも俺は救われるんだよな。本当にこの子達はいい子だよ。


 それで次は誰だと、花音ちゃんがキョロキョロしていると。


「えっと……これ、みんな言う流れになってるのかな?」


 藤野ちゃんが不安そうにそう言ってきた。


「いやいや、別に何も言いたくないのなら、喋らなくて大丈夫なんだよ。そもそも人として間違っていること言ってるのは俺だからさ、存分に罵ってくれてもいいんだよ?」


 だから本来は透子ちゃんの反応が正しいもので、他のみんなは優し過ぎるくらいなんだよなぁ。


「いや、それは言わないけど……」


 そして藤野ちゃんは長い時間考える素振りを見せて……そしてちょっとだけ恥ずかしそうに。


「まぁ私も神谷君のことは……好きか嫌いかで言えば……す、好き? なのかもしれないけど。これが恋愛の感情なのか分からなくて……そもそも私は恋愛なんてしたことがなくて、よく分かんなくてそれで……」


 そして一呼吸置いて。


「だから私もまだはっきりと答えは出せないかな。ごめんね、神谷君」


「そんな謝らなくてもいいんだよ。それだけで充分俺は嬉しいんだからさ」


 ……とは言ったものの、藤野ちゃんにフラれちゃったのは少しだけ寂しかったりもする。今のとこ付き合いが一番長いのは、藤野ちゃんだし……まぁ! まだまだこれからチャンスはあるよ!! ファイトだ、神谷!!


 ……えーっとそれで、まだ返事を聞いていないのは。


「最後は私だねー?」


 朱里ちゃんである。朱里ちゃんはさっきまでの表情とは打って変わって、楽しそうな顔をしていた。何か思うことがあったのだろうか?


「まぁ修一の本気さがよーく伝わったし、本当にトップになれたのなら、付き合うのもありかなーとは思ったけど。それも難しいかもねー?」


「ど、どうして!?」


 ここまで食い気味に聞ける自分にちょっと引く。でも気になるから仕方ないだろ!?


 そして朱里ちゃんはポツリと一言。


「だって私アイドルだもん」


「……あ、そっか」


 確かにアイドルと付き合うというのはご法度だもんなぁ。それに朱里ちゃんのような人気のあるアイドルなら尚更……きっと彼女の集客にも影響が出るだろうし、俺なんかが邪魔できないよなぁ。


 そんな一番望みが薄いことを知ってしまった俺が、悲しみに暮れていると。


「……まぁー代わりと言っちゃなんだけど。私、修一のクランに入ろうかなって思ってるんだけど、どうかな?」


 そうやって朱里ちゃんが俺に提案してきたんだ。


「ええっ!? 本当に!?」


「うん。前に修一が言ってくれた通り、ここの人たちは良さそうな人たちばかりでさ。とっても落ち着くし……あかりんじゃなくて、朱里として受け入れてくれそうだから。こんな場所をずっと求めていたからさー。だから……」


 そして見慣れた小悪魔的な表情で。


「私を仲間にしてもらっていいかな、修一?」


「うんうん! それは大歓迎だよ!」


 遂に朱里ちゃんが仲間になってくれるなんて……それだけでも充分幸せなことだよ!


「……まーそれに、修一の恋の行方も気になるところだしねー?」


「あっ、あはは」


 やっぱり朱里ちゃんはコイバナが好きなんだなー、とかなんとか思ってると、隣で花音ちゃんが飛び跳ねながら。


「あっ、そうだ神ちゃん! ウチもウチも!」


「えっ? 花音ちゃんはもうメンバーの一員でしょ?」


「いやいや、一週間だけって決めてたじゃんか!」


「あー。そうだった、忘れていたよ」


 すっかり頭から抜け落ちていたけれど、花音ちゃんは俺が雇ったメイドなんだよ。もうすっかり仲間みたいな感じだけど、本当は今日でお別れするはずだったんだよな。


「ウチも許されるのならまだここにいたいし……そもそも帰る場所がないし! また一人ぼっちになるのは寂しいもん! ちゃんと頑張って働くからさ!」


「うん、そっか! もちろん花音ちゃんも歓迎するよ! 俺の仲間としてね!」


「にゃははっ、やったー!」


 ──とりあえず今のところは、真白ちゃん以外にはフラれてしまったけれど。正式に朱里ちゃんと花音ちゃんが仲間になってくれたことだし。


 俺らの最強への道へ一歩……いや、三十歩くらいは大きく進めた気がするよ。

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