第61話 修一の宣言?

「……えっ、えええっ!? そそそっ、そんなのっ、言えるワケがないだろ!?」


 聞いた透子ちゃんは明らかに動揺しているらしく、顔を真っ赤に染めて、目玉をグルグルと回していた……というか透子ちゃんって好きな人いたんだね。その相手が羨ましいよ……というか、それが誰なのかは俺も気になるところなんだけど。


「あははー。王様の命令は絶対だよ、透子ー?」


 そんな透子ちゃんに向かって、朱里ちゃんはイタズラっぽく笑った。もしかして朱里ちゃんって、S気質があるのだろうか? ……たまらんね。


「ええっ……? そんなのメチャクチャだよぉ……」


 そして透子ちゃんは消えそうな声で言う。何だかこっちも需要がありそうな反応だけど……流石にちょっとかわいそうになってきたぞ。


「んーそっか。なら先に修一から言ってもらおうかな?」


 そしたら俺と同じようなことを思ったのか朱里ちゃんはこっちを向いて、そうやって俺に提案してきたんだ。


「ああ、それは全然構わないよ。俺が好きな人は……クランメンバーのみんなさ!」


 俺はビシッと決め顔でそう言った……が、二人の反応はどうもイマイチで。


「……えーっと。つまり?」


「そのまんまの意味だよ! 俺が好きなのは朱里ちゃん、透子ちゃん。そして藤野ちゃんに真白ちゃんに花音ちゃんだよ!」


 ……まぁこの中に蓮も加えてもいいかもしれないけど。蓮に対して恋愛感情はこれっぽっちもないし、二人に変な勘違いされても困るので、ハブっておくことにした。ごめんよ蓮キュン。


 そしたら、それを聞いた朱里ちゃんは若干つまらなそうに。


「んーそっか。修一はそういうタイプだったかー。それならさ、もし誰か一人だけしか選べないとするなら……修一は誰を選ぶの?」


「えっ?」


「一人だけ。修一が一番好きな子を上げるなら誰になるの?」


「……」


 俺は言葉に詰まる。誰かを一人だけ選ぶなんて……そんなの。そんなのっ!


 そんなの出来ないよ!!!


 だって! みんなそれぞれ個性があって! それでそれぞれ素敵な所があって! ちょっぴり癖の強い所もあるけれど、それを含めて俺はみんなが大好きなんだ!


 だから。世間の『常識』って奴に当てはめてしまうと、俺の考え方は蔑まれ、後ろ指を指されるものかもしれないけど。それでも!


 俺はみんなを心から愛しているから、一人だけを選ぶなんて真似は絶対に出来ないんだよ!!


「ごめん……それは選べないよ。俺はみんなに順位なんか付けられないし、付けようとも思わないんだ」


 俺は朱里ちゃんにそうやって答えた。そしたら朱里ちゃんはさっきと表情ひとつ変えずに。


「んーそっか。でもさ、その修一の答えって『逃げ』じゃない?」


「逃げ?」


「うん。修一はみんなを傷つけないようにって、上手く立ち回っているつもりなのかもしれないけどさ。それが結果的に『みんな』を傷つけてしまっているのかもよ?」


「……」


「だからスパッと言ってしまうのも、優しさなんじゃないの?」


 ……うん。確かにそうかもしれない。もしもこの中に俺のことが好きでいてくれる人がいたら、きっとさっきの俺の言葉は、嬉しいものではなかっただろう。誰だって、好きな人からは誰よりも好かれたいはずだから。一番になりたいはずだから。


 ……でも。それでも。


「それでも俺は、みんなが! 透子ちゃんが、藤野ちゃんが、真白ちゃんが、花音ちゃんが……そして朱里ちゃんがこの世で一番大好きなんだよ! 俺の中では、これ以外の答えはありえないんだ!」


 俺はバカでどうしようもない人間だから、こうやって言ってしまうんだ。


「……」「……」


「とんでもないことを言ってるのは分かってるよ! 蔑まれても仕方ないよ! それでも俺はみんなが好きだから! 愛したいから! これ以外の言葉が思いつかないんだよ!」


「……」「……」


 こんなバカげた俺の演説にも、二人は口を挟まずに無言で聞いてくれた。透子ちゃんに至っては耳の先まで赤くして、今すぐにこの場を離れたがっているだろうに、俺の言葉を受け止めてくれたんだ。


「……でも。もしも、それを聞いて俺に失望した子が居たとしても、俺はその子を絶対に責められないよ。だって間違っているのは明らかに俺の方だから……」


 ……と、そこまで言ったところで。


「う、うわぁっ!!」「ひゃぁっ!」「あいててっ!」


 藤野ちゃん、真白ちゃん、花音ちゃんが扉から倒れるようにして、この部屋に入って……いや、なだれ込んで来たんだ。


「ええっ!? 三人ともどうしたの!?」


 俺は三人の方に駆け寄る。そしたら三人はみんな似たような、何とも言えないような表情で俯き、小さく呟くのだった。


「……えー、えっと。ウチら片づけが終わったからさ、神ちゃん達がどこにいるか探しに行ったんだよ」


「なるほど」


「そ、そしたらですね。この部屋から声が聞こえてきたのですけど……何やら盛り上がっていたようでしたので、入るに入れなかったのですよ」


「なるほど」


「だから悪いなって思いつつも、こっそり耳を澄ませて会話を聞いてたんだ。でも途中でバランスを崩しちゃって、それで……」


「なるほど」


 この部屋になだれ込んで来たって訳ね。


 まぁこの反応を見るに、さっきの俺の言葉はこの三人にも届いたらしい。それは別に構わないんだけど、なんかちょっと恥ずかしいな……って、待て待て!


 俺なんかよりも、この場にいる女の子たちの方が何倍も恥ずかしいし、なんかすっごい気まずいだろ!?


 だからこれは俺の責任なんだ。この場の空気は、この俺が何とかしなければならないんだよ……!


「あっ、あのさ。さっき言った言葉は俺の本心だし、曲げるつもりも全くないんだ。それで……みんなに言いたいことがあるんだけど、聞いてくれないかな?」


 だから。いつかみんなに言おうと思っていたこと。でもずっと機会がなくて、内に秘めていたこと。それを言うのは、宣言するのは……きっと今しかないはずだ!


「なっ、なんでしょうか王子様?」








「俺はこの学園でトップになるよ! それでもし、俺が誰もが認める最強のゲーマーになったらさ……全員、俺と付き合ってくれないか!?」

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