第60話 王様ゲームをやろう!
「ん、王様ゲーム? なんだそれ?」
どうやら透子ちゃんはそれを初めて聞いたらしく、疑問の表情を俺に見せてきた。
「あれ、知らないんだ。結構有名なゲームだから、既に知っているものだと思っていたけど……じゃあ朱里ちゃんは分かる?」
俺が朱里ちゃんにそう聞くと、彼女は「んふふー」と嬉しそうに口元を綻ばせて。
「もちろん知ってるよー。透子に簡単に説明するとね。くじ引きで王様を一人決めて、その王様の命令に従うっていうゲームなんだー」
「……」
そしたら透子ちゃんは、無言で考えるような仕草を見せた後に。
「……それの何が面白いんだ?」
と冷たく言い放ったんだ。
……まぁ確かに、冷静に考えてみれば、王様ゲームってゲームって言ってる割にはゲーム要素はほとんどないし。さっきまでコンピューターゲームをやってた透子ちゃんからしたら、そんな反応になるのは自然なことなのかもしれない。
「でも、物は試しだよ! ちょっとだけやってみようよ、透子ちゃん!」
「はぁ、仕方ないな……」
そしたらどうにか納得してくれたのか、透子ちゃんは渋々頷いてくれたのだった。
「よーし、それじゃあ早速……」
「あ、待って修一。くじはどうするの?」
ああ。確かに王様ゲームには、くじは必要だな。それなら……
「俺が割りばしで作るから、待ってて!」
そう言って俺は部屋から飛び出し、リビングから割りばしを何本か取ってくるのだった。
──
「持ってきたよ! これで始められるね!」
俺は割りばしで作ったくじを、みんなに見せながら言った。くじはかなり安っぽい作りになっているが、身内で遊ぶ分にはなんの問題も無いだろう。
「あはは、ちょっとドキドキするねー?」
それで意外と朱里ちゃんはノリノリで、ゲームが始まるのを今か今かと待ちわびているようだった。まぁそれとは対照的に、透子ちゃんはひどくつまらなそうな顔をしていたんだけどね……ホントに分かりやすいな、この子らは。
「よし、修一やるよー!」
「うん、じゃあいくよ。せーの」
「「王様だーれだ!」」
そして俺と朱里ちゃんの掛け声によって、一斉にくじは引かれた。
「……」
すぐに自分の取った割りばしを見てみると、そこには『1』の数字が書かれていた。要するに外れである。まぁまぁ、最初はこんなもんかと顔を上げてみると。
「おいシュウイチ、なんかボクの赤いんだけど」
透子ちゃんが先端が赤く染まった割りばしを……つまり王様の証である割りばしを、俺ら二人に見せてきたんだ。
「おっ、いきなり透子ちゃんが王様だね! 俺らに命令してよ!」
「そんなこと言われてもな……」
透子ちゃんは困ったように頭を下げる……きっと透子ちゃんは優しい心の持ち主だから、人に命令だとかそんなことを考えるのが得意ではないのだろうな。
まぁ俺はいくらでもゲスな命令とか思いつくから、きっと相当心が汚れてしまってるんだろうな……悲しいね。
そして長い思考の末、ようやく透子ちゃんは口を開いたのだった。
「んー……じゃあシュウイチが……」
「あ、待って待って透子ちゃん。王様は番号で命令するんだよ。例えば『一番の人が二番にハグをする』とかね」
俺は例を交えて、分かりやすく透子ちゃんに細かいルールを伝えた。決してその命令をしてもらおうだなんて、やましい気持ちは一切ないからね! ホントだからね!!
そしたら透子ちゃんは、またまた困ったように。
「え、それじゃあ誰かを狙って命令が出来ないじゃないか!」
「うん、そうだよ。『誰が何番なんだー』って予想とかしたりする、その辺の駆け引きがこのゲームは面白いんだよ。まぁ今は三人だけだから、狙いやすいとは思うけどね」
「うーん。そういうものなのか?」
「そういうものだよ!」
そしたら透子ちゃんはあまり納得してないような表情を見せたものの、ひとまずルールは理解してくれたようで。
「じゃあ一番の人が……スクワット十回」
そうやって命令したのだった。
「よーし、一番は俺だね!」
俺はその場に立ち上がって、透子ちゃんに命令されたスクワットを行うことにした。
「はい、いーち、にーい」
「あははっ、修一、もっと曲げなきゃずるいよー?」
途中で朱里ちゃんのヤジが飛んでくる。
「ええー? 分かったよ。はい、さーん、しー」
とりあえず言われるがまま、俺は膝を深く曲げたのだった…………でも……なんか。女の子に見守られながら運動するのって、すっごいやる気が出るというか、力が湧き上がってくるね。誰かこんなゲーム作ってくれないかな。
「……きゅーう、じゅう!」
そんなことを思いつつ、俺はスクワットを終えたのだった。
「はい、おつかれー」
「ありがとー。いい汗かけたよ!」
「ええー、たったそれだけの運動で?」
「ただの引きこもりゲーマーと、朱里ちゃんの体力を比べちゃダメだってば!」
「あははー。それもそっかー」
そんな俺らの会話を尻目に、透子ちゃんは。
「……やっぱりつまらなくないか、これ?」
白けたような瞳でそう言ったのだった。
「あはは。でもさ透子、もう少しだけやってみない? きっとこれから、もーっと面白くなるからさー?」
そしたら俺が口を挟む前に、朱里ちゃんがそうやって言ってくれたんだ。
「えっ? ま、まぁアカリがそう言うのなら……別に。いいんだけどさ」
そしたら透子ちゃんはゲームを続けることを、あっさり承諾してくれたんだ。
うんうん……ちょっと透子ちゃんは、わがままな子だとか思われがちだけれど、本当は素直でいい子なんだよな。悪く言い換えればチョロい子。でもそこがたまらない……ってなんか前もこんなこと言った気がするぞ。
「んふふー。良かった。じゃあ続けるよー?」
そして朱里ちゃんは笑顔を見せて、みんなのくじを混ぜた。そして……
「じゃあいくよー? 王様だーれだ!」
また掛け声で、一斉にくじを引くのだった。
自分が引き抜いたくじを見ると、『2』と番号が書かれてあった。また外れたかーと思いつつ、周囲を見渡すと。
「あっ、私が王様だねー」
朱里ちゃんが赤色の割りばしを手に持っていたんだ。
「おお、次は朱里ちゃんが王様だね!」
さっき透子ちゃんにあんなことを言ってたから、どんな命令するんだろうと、少しだけ楽しみにしていると……
「んふふー。じゃあ一番と二番の人には……」
──朱里ちゃんは、いきなりとんでもない質問をぶっこんできたのだった。
「好きな人を教えてもらおうかな?」
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