第59話 意外な組み合わせ?

 ……それで女子三人から台所を追い出されてしまった俺は、一人寂しく豚さんのポーズのまま、ぼーっとテレビを眺めていた……っておいおい。


「せっかくみんな集まっているのに……何をしているんだ、俺は?」


 こんないつでもできる老後の生活をするくらいなら、もっとみんなと交流を深めた方がいいよな。それに仲間のコープランクを上げとかないと、新エンドは開放出来ないもん……ってどこまでゲーム脳なんだろうな、俺は。


 そんな自分に少しだけ呆れつつ、俺はテレビの前から立ち上がって……クランハウス内をテクテクと歩いて行くのだった。


 ──


 そして俺が廊下を歩いていると……とある一階の部屋から、ゲームの音と光が漏れていることに気が付いたんだ。


「んっ?」


 気になった俺はこっそりとその部屋の扉を開けて、ちらりと中の様子を窺ってみたんだ……そしたらそこには。


「んふふー。また私の勝ちだねー」


「くうーっ! 悔しいよおっ!」


 意外や意外、朱里ちゃんと透子ちゃんが二人並んで、レースゲームをプレイしていたのが目に入ったんだ……この組み合わせは非常に新鮮だな。なんだかマニアックな二次創作でも見ている気分だよ。


 そんなことを思いつつ俺は、二人の様子を眺めていると。


「透子ー。よかったらもう一回やる?」


「うん、もちろん! ……って、あれ? シュウイチ、いつからそこにいたんだよ?」


 俺の存在に気が付いた透子ちゃんが後ろを振り返って、俺に話しかけてきたんだ。


「ああ、ついさっき来たんだよ。随分と盛り上がっているようだけど、そんなに朱里ちゃんって強いの?」


 バレたならもう隠れる必要もないと思った俺は部屋に入って、そうやって透子ちゃんに聞いてみたんだ。そしたら彼女は珍しく、無邪気に微笑んで。


「うん! ホントにアカリは強いんだ! 緑の甲羅でも絶対に当ててくるんだよ!」


 そうやって元気に答えたんだ。どうやら今の透子ちゃんは、相当機嫌が良いらしい……いつもこんなワンちゃんみたいに素直でいてくれたら、もう少し接するのが楽になるのになぁ。


 ……でもこのギャップがあるからこそ、透子ちゃんがデレた時の可愛さが何倍にも引き立つのだ、という主張もありますが……裁判長、これは?


『許可します』『よしっ!!!!』


 ……まぁ一人遊びはこの辺にしておいて。


「へぇーそうなんだ! もしかして朱里ちゃんって隠れゲーマーなの?」


 そう言いつつ、俺はぐるりと朱里ちゃんに視線を移した。


「いやいやー。まぁーそんなことはあるかもしれないけどー」


 そしたら朱里ちゃんは目を逸らしながら、恥ずかしそうにそう言ったんだ……でもここで謙遜をしないのが、朱里ちゃんらしくて何だか好きだな。


「……って今更だけど修一、勝手にゲーム使わせてもらってるけど大丈夫だった?」


「ああ、それは全然全然。ここにあるものは勝手に使っても大丈夫だよ」


 こんなことを言っているが、実はこの部屋にあるゲーム類は、前の住人の置きっぱなしにしたものがほとんどなんだ。まぁもう前の住人は卒業しているようだから、有難く使わせてもらうことにするけどね。


「あっ、本当にー? ありがとー」


「いやいや、お礼を言うのはこっちだよ。透子ちゃんと一緒に遊んでくれてありがとね、朱里ちゃん」


 そしたらシュバッと透子ちゃんが口を挟んできて。


「おいっ、ボクを子供扱いするな! それになんでシュウイチがボクの保護者ヅラしてるんだっ! 気色悪い!」


 どうやら、いつものツンツンフォルムに戻ってしまったみたいだ。まぁ俺は透子ちゃんがツンの状態でもデレの状態でも、俺は君のことを愛せるけどね……と口にしたら殺されるだろうから、心の中だけに留めておくけども。


「それに、ゲームに誘ってきたのはアカリの方からなんだぞ!」


「えっ?」


 その言葉に驚いて、俺はまたまたこっちに目玉を動かしてみると。朱里ちゃんは朗らかな笑みを浮かべていたんだ。


 ……ああ、もしかして人見知りしがちな透子ちゃんのことを察して、わざわざ自分から声をかけてくれたのかな。本当になんて良い子なんだろう、この子は……


「朱里ちゃん、ありがとね」


「だから何でお礼を言うんだっ!」


「あははー。いやいや、私はただゲームの相手が欲しかっただけだよー?」


 朱里ちゃんはいつもの抜けた声で、ふわふわっと笑った。まぁ朱里ちゃんがそう言うのなら、そういうことにしておこうか。


「よーし、それじゃあ修一もこれ一緒にやらない?」


 そして続けて朱里ちゃんは、余っていたコントローラーを俺に差し出してきた。


「……」


 だが……すぐに俺は、それを受け取ることができなかったんだ。


 なぜならば……俺はそのゲームを極めたことがあったからだ。まぁ要するに……もう一人の俺である『Kamiya』君が、ランキング1位を取ったことのあるゲームということである。


 このゲームは他ゲームと比べて操作が簡単で、運の要素絡んでくる……いわゆる『パーティーゲーム』の側面がかなり強いのだが。それでも初心者中級者と、上級者には明確な壁というものが存在するんだよ。


 まぁ何が言いたいのかと言うと……俺が彼女らをボコボコにしてしまう危険があるから、これはプレイしない方がいいんじゃないか、と心の中の俺が警鐘を鳴らしているということである。


 うん……なんかこんなんでイキってるって思われるのが、凄い嫌なんだけど……でも! 実際そうなんだから仕方ないだろ!! 俺めっちゃ強いんだもん!! 朱里ちゃんはともかく、透子ちゃんは絶対に拗ねちゃうよ! 嫌われちゃうよ!!


 え……じゃあ手を抜けばいいじゃんって? それは俺のポリシーに反するから無理だよ。俺はやるゲームは全て勝ちたいんだ……まぁ場合によってはわざと負けることもあるけれど、それは最終的な勝ちに必要な負けだから、それはセーフ。


 まぁそんな状況は滅多にないんだけども……要するに『勝ちに必要のない負けはしない』ってのが俺の自分ルールなんだ。だからゲームをプレイする時点で、俺は本気で挑まなきゃならないんだよ。


 なんか最強ゲーマーなのに手を抜かないのは大人げないって、声も聞こえてきそうだけど……そもそも手を抜くこと自体、相手に失礼だと思ってるからね、俺は。


 まぁ……その自分ルールを小さい頃から守っていたお蔭で、俺と一緒にゲームやってくれる友達はみんな消えていったんだけどね。


「修一?」


 ハッと正気に戻ると、朱里ちゃんが心配そうな瞳で俺の顔を見つめていた……ちょっと距離が近くて照れるというか、ドキドキしてしまうぞ。


「……あ、ごめんごめん。えっと、もちろんテレビゲームも良いんだけど。せっかくこうやって集まってるんだからさ、対面で出来るゲームをやらない?」


 そしてそんな中、俺が無双して空気を悪くするという最悪な未来を避けるために、別のゲームをしないかと二人に提案したんだ。そしたら二人は納得してくれたらしく、首を縦に振ってくれて。


「ああーなるほど。それもいいねー?」


「別にボクも構わないけど……どんなゲームをするんだよ?」


「そうだね。例えば……」


 あまり差が出なくて、みんなが楽しめて、対面でできる。かつ簡単で盛り上がるゲームと言えば、やはりあれしかないだろう……!





「王様ゲームとか、どうかな?」

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