第67話 噴水広場でオーディション!

「水鉄砲?」


「そう! 実際の水鉄砲を使ったバトルロイヤルが……」


 と、ここで昼休みの終わりを告げるチャイム音が聞こえてきた。


「あらら。それじゃあ詳しい話は放課後にするから、広場の噴水前に集合してね!」


「えっ? どうして噴水前なんだ?」


「来たら分かるってば。それじゃあみんな待ってるよー!」


 そうやって発した俺は手を振りながら教室を出て、水鉄砲を買いに売店へと行ったのだった……もちろん、次の時間の授業にはしっかりと遅刻したんだけどね。


 ──


 そして迎えた放課後。俺は様々な種類の水鉄砲を手に抱えたまま、集合場所の噴水広場へとやって来たんだ。水鉄砲でほとんど前が見えていないが、どうやら仲間は既に全員集合しているらしい。


「遅いぞ神谷……ってなんだそれは」


 いつもの呆れた口調で蓮が言う。そんな蓮の前に、俺は抱えていた水鉄砲の山をドサドサッと置いて。


「見れば分かるでしょ、これは水鉄砲だよ! わざわざ色んな売店回って、全種類買ってきたんだからさ!」


「いやそうじゃなくてな。何かダンボールとかに入れて、運べば良かったんじゃないのかって思って……」


「……ああー! 蓮は天才だね!」


 その発想は無かったよ! 発送なだけに……って言ったらぶん殴られそうだから黙っておくけれど。めちゃくちゃ言いてぇなぁ……!


「……でもここは勇気の我慢だっ……!」


「何言ってんだこいつ」


 蓮は冷めた瞳で呟いた。クソッ、俺の気も知らないでっ……!


「それでそれで神谷君。私、昼休みの話の続きが聞きたいな?」


 まぁ。そんな俺も藤野ちゃんの笑顔を見てしまえば、一瞬でイライラも浄化される訳で。我ながら、なんとも単純な男である。


「うん、もちろんだよ! 今回の大会は水鉄砲を使った、三人組のバトルロイヤルゲームが開催されるんだ!」


「ばとるろいやるゲーム……?」


 藤野ちゃんは不思議そうに顔を傾けた。まぁ今じゃ世界的に大ブームなバトロワゲーも、ゲームに明るくない人にとったら『なんのこっちゃ』って感じだもんな。


「まー簡単に説明するとね、プレイヤー同士が殺し合って、最後の一人を目指すってゲームのことだよ。今回は一人じゃなくてチームになるけれど……」


 と言ったところで、チラリと藤野ちゃんの表情を確認してみると。


「こ、殺し合うって……!?」


 もうすっごい恐怖に怯えた顔をしていたんだ。多分これは、俺の説明が悪かったんだと思う。


「ちょ、落ち着いて藤野ちゃん! それはコンピューターゲームの話だってば! 今回は水鉄砲を使うって言ったじゃんか!」


 そしたら藤野ちゃんは頭の中の歯車が嚙み合ったのか。


「ああ、そっか。そうだよね! 普通そんな危険なゲームしないよね!」


 ちゃんと納得してくれたようだった。


「分かってくれたのなら良かったよ。それで基本的なルールは後でちゃんと説明するけど……とりあえずこのゲームは運の要素が強いってことを覚えていて欲しいんだ」


「運って?」


「ゲームの開始地点が完全にランダムだったり、落ちている武器がバラバラで好きな物が使えなかったり……安置だって完璧な予想は難しい」


「それで?」


「それでも俺達は優勝を目指している訳だから……実力でどうにか出来る部分は、今のうちにどうにかしておきたいんだよ」


 ここで俺は、足元に散らばった水鉄砲らを指さした。


「要するにね、ここにある水鉄砲全てを完璧に扱えるようにしておきたいってことさ。あっ、完璧ってのは、誤差なく確実に狙った所に放水出来るようにってことね」


「……」


 それを聞いた仲間は、互いに顔を見合わせた後に。


「神谷、それ正気か?」


 全員を代表してか、蓮が口を開いたのだった……しかし俺の返答は。


「うん、正気正気! 練習すればいけるってば!」


 変わらずにこうだった。もちろん、俺は本当に練習すれば出来ると思っているから、こんな提案をしているのである。


「でもさ神ちゃん、そのゲームは三人しか出られないんでしょ? 残りのメンバーはやる意味がないんじゃない?」


「うん、そうだね。だから今日は大会に出るメンバー決めを兼ねた、練習会をやろうと思っていたんだよ」


 そう、花音ちゃんの言う通り、大会に出られるのは三人だけなんだ。だから水鉄砲の練習に仲間が全員参加するのは、これが最初で最後なのである。


「ああ、オーディションってことだね!」


「そうそう、そんな感じ!」


「じゃあ神谷。わざわざここを練習場所に選んだ理由って……」


「うん! ここの噴水で水が補充出来るからね!」


 自由に水が使える場所なんて、ここしか思いつかなかったんだよ。意外と海の周辺は立ち入り禁止区域になってるし……まぁここも怒られそうな気はしないでもないけどさ。その時は別の策を考えよう。


 そしてそれを聞いた朱里ちゃんはゆるゆるーっと笑って。


「あははー。修一は賢いね。私もよくここの噴水にはお世話になっているよー?」


「えっ!? 朱里ちゃん…………この水飲んでるの!??」


「お前は何を言ってる」


 ……今更だけど、蓮がすっかりツッコミ役になっているのって、初期では考えられない話だよね。まぁそれはどうでもよくて……朱里ちゃんはすっかりツボに入ったのか、ケラケラと笑って。


「あははっ! 違う違うよー! ここの噴水はね、ポイントを払えば好きな時間に水を噴射させたり、光らせたりが出来るって話! ここでライブをやった時は、いつも噴水を使って演出するんだよー!」


「ああ、そうだったんだ。てっきりこの水をボトルにでも詰めて、節約していたのかと」


「あははっ! 修一の中の私のイメージってどうなってるんだろうねー?」


 朱里ちゃんは笑ってくれてるけど、俺これだいぶ失礼なこと言ってるんじゃないのか……じゃあ言うなよって話か?


 んで、そんな中。いち早く水鉄砲を手にした透子ちゃんは、目をキラキラと輝かせながら俺に向かって。


「なぁ、シュウイチ、早くやろう! もう水汲んでていいのか!?」


「……透子ちゃん、実は一番楽しみにしてたりする?」

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