第55話 パーティーの準備をしよう!

 ──


 それから俺と花音ちゃんはクランハウスに住み込んで、部屋の掃除を続けたんだ……まぁ掃除をしていたのは、ほとんど俺だったけど。でも花音ちゃんは花音ちゃんで、料理とか買い出しとかを手伝ってくれたんだ。


 それは本当に助かったし……花音ちゃんが作ってくれた家庭的なご飯は、とっても美味しくて。それにどこか懐かしくて、感動ものだったんだ。


 俺が毎日掃除を続けられたのは、きっと彼女の力があったからだろうな……花音ちゃんのご飯はサイコーだったから、俺だけじゃなくてクランメンバーのみんなにも食べさせてあげたいな。きっと喜ぶぞ。


 ……それで。一週間近く花音ちゃんの傍にいて、気が付いたんだけれど。この子はすごく寂しがり屋なんだと思うんだ。もちろん、そんなあからさまな素振りはほとんど見せないし、聞いても絶対に否定するだろうけど。


 でも、こんな奇抜な恰好に独特な口調。突飛な行動に下ネタ発言……どれも人の気を引きたくて、わざと取っている行動のように見えたんだ。


 そして、花音ちゃんのそれを見聞きした人が怒ろうとも、困惑しようとも……『無視されるよりは断然いい』という気持ちが、彼女の根底にはあると思ったんだよ。


 だからきっと花音ちゃんは、寂しい幼少期を過ごしたんだろうなって。そんな気がするんだよ……まぁ、これはあくまでも俺の想像なんだけどね。


 でも。そのことに気が付いてから俺は、少しだけ彼女に優しい気持ちで接することが出来たんだ。花音ちゃんが少々下品な言動を言ったとしても、笑ってあげて。花音ちゃんがわがままを言っても、なるべくは容認してあげて……って感じで。


 そしたら『こいつは他の人とは違う』と思ってくれたのか、花音ちゃんは完全に俺に心を開いてくれたんだ……この時、気ままな猫が懐いてくれた時みたいな、それと似たような感動を覚えたよ俺は。


 ……んで、まぁ。そんな感じの生活が何日か続いて。


 そしてついに迎えた最終日────


「ついに掃除が終わったぞー!!」


「わーおめでとー! 神ちゃん!!」


 俺は全てのフロアの清掃を終えたのだった。まぁやろうと思えば、まだまだ出来るだろうけれど。とりあえず快適に過ごせるぐらいには片付いたと言えばいいだろうか。


「でも、掃除が終わったということは……今日で神ちゃんとお別れになるってことなんだよね……ううっ、せっかく仲良くなったのに、ウチは寂しいよぉ!」


 花音ちゃんはオーバーな泣き真似を見せながら、俺に言う。


「うん、俺も悲しいよ……でもまだ一応、花音ちゃんのお仕事は残ってるよ?」


「えっ……ウチ、まだ働かなきゃいけないの?」


「花音ちゃん、本音出てるよ?」


 そう指摘すると彼女は「にへへー」っと笑い、ぴょこぴょことケモ耳を揺らした。なんだかんだこの子の仕草だって、とっても可愛いんだよなぁ。


「それで……これから花音ちゃんには、最後の仕事をお願いしようと思うんだ」


「うん! 一部の内容を除き任せてよ!」


 花音ちゃんはポンと胸を叩き、自信満々に言う。


「君の場合、一部では収まらないとは思うけどね……でもまぁ安心して。今回は花音ちゃんの得意な料理をお願いしようと思ってるから」


「おおー! それだったらウチにお任せあれ! 今日は神ちゃん、何食べたいの? パスタ? うどん? 焼きそば?」


「麺の気分なの? まぁ、料理の内容は全部任せようとは思ってるけど……今日は七人分くらい用意してもらおうと思ってるんだ」


 それを聞いた花音ちゃんは目を見開いて。


「ええっ!? そんなに食べたら太っちゃうよ!? 子豚さんになっちゃうよ!?」


「誰が一人で食うって言ったよ……今日は俺のクランメンバーをここに呼ぼうって思ってるんだ。やっと集まれるくらいには、綺麗に片付いたしさ」


 そしたら納得したのか、ケモ耳を前後に揺らして。


「あー。にゃるほどにゃるほど。みんなでパーティーって感じかな?」


「そうそう。まぁパーティーって言っても、クランの作戦会議とかもしようって考えてるけどねー」


「作戦会議?」


「うん。俺ら作戦会議する時に毎回ファミレス使ってたんだけど。それじゃポイントもったいないしさ。これからはこの場所でやろうって思ってね」


「へーそうなんだ。なんかかっこいいね!」


「ふふふ、そうだろう」


 今日は今まで時間がなくて決められなかった、細かいことを決めていこうと思うんだ。クラン名とかちゃんと決めてなかったし、クランエンブレムとかもね。


 こういった細かい所を決めてる時が、一番楽しいんだよな……ゲームでキャラクリエイトにこだわって、一番時間をかけるアレみたいな感じで。


「それで今から仲間と……朱里ちゃんも誘ってみるけど、来てくれるかな? 流石に当日のお誘いは厳しいかなぁ?」


「んー? その子は仲間じゃないんだ? それじゃあ……神ちゃんの彼女?」


 俺の独り言を聞いた花音ちゃんが、そうやってイタズラっぽく俺に尋ねてきた。


「だといいんだけどね。今のところはただの友達だよ……今のところはね」


「……そうやって繰り返すところが気持ち悪いよ、神ちゃん」


 それは正論過ぎるな。


「うん。じゃあまぁ、そういうことだからさ。頼むよ花音ちゃん」


「分かったよ。じゃあ今から追加の食材買ってくるよ。足りなそうだしさ」


「ホント? それなら俺もついていこうか?」


「大丈夫だよ、ありがと。ちゃんとウチには乗り物あるし」


 聞いて俺は一瞬思考が止まった……えっ? 花音ちゃんの所有してる乗り物って。


「……もしかしてスケボー?」


「うん。思ったよりも速度出て、とっても便利なんだよ? みんな使わないのが不思議なくらいだよー?」


「……」


 誰でも簡単に乗れるものじゃないからだろ……まぁ、花音ちゃんは使いこなしてるみたいだから、止めはしないけどさ。


「そ、そっか。じゃあ気を付けてね?」


「ほいほーい。それじゃあ行ってきまーす」


 そう言って、花音ちゃんは部屋から飛び出して、素早く買い出しへと向かった。


 そしてそれを窓から見送った俺は。クランハウスが完成したというお知らせと、パーティーのお誘いのメッセージを書き……みんなに送信したのだった。

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