第54話 オカン化!?
「…………えっ? マジで言ってるの?」
花音ちゃんの突飛な言動に、俺は反応が遅れてしまう……いや、ちょっと展開が急すぎないか? 一応俺ら今日が初対面だよな? そうだよな?
「だってそうでもしないと、神ちゃんは認めてくれなそうなんだもーん」
すると花音ちゃんはふてぶてしく、そうやって呟いた。
「いやまぁそうだけど……俺はそんなすぐには、簡単には決められないよ。クランメンバーってとっても大切な仲間だからこそ、慎重に選ばなきゃいけないんだ」
それに……つい最近だって、朱里ちゃんを仲間にしようとして蓮に怒られたんだからさ。蓮を説得するのに、結構な時間がかかったんだよ?
そして俺の言葉を聞いた花音ちゃんは、納得したように見えたが……
「んーそっかぁ……じゃあさ、神ちゃんがウチを雇った一週間だけ! どうか! それだけなら! どうかな!」
「一週間だけ?」
「うん! だって極端な話、ウチをクランハウスに上げているんだからさ、もう半分クラメンみたいなもんじゃない!?」
「それはまた極端な話だな……」
……でもまぁ一理くらいはあるかもしれない。今のところ、俺の次にこのクランハウスに詳しい生徒は、花音ちゃんなのだから……いや一理も無いか?
「まぁそれは置いといてだね……どうして君はそこまでして、ここに泊まろうとするんだよ? ここの寝室の片付けだって、まだ十分に終わってないのにさ」
「そ、それは……」
すると珍しく花音ちゃんは口ごもった。どうやら訳ありのようらしい。
「君が全部言ってくれなきゃ、俺はちゃんと決められないよ」
「……うーん、そっか。あんまり言いたくはないんだけど、分かったよ」
そしたら渋々納得した花音ちゃんは、今までで一番低い声を出して……ポツリポツリと呟くのだった。
「実はウチ、同居人と仲がめちゃめちゃ悪くてね。しょっちゅう喧嘩してるんだよ」
「ああ、そうなんだ」
「うん、それでひどい時にはもう……足が出る」
「手じゃないんだ」
「ウチもキックの方が強いから、喧嘩は上等なんだけどね」
「……」
ふ、ふぇぇ……女子同士の喧嘩って、とってもコワイよぉ。
「で、まぁ他にも色々と問題があるから、ウチはほとんど寮には帰らずに……メイドの依頼があったら、基本的にその場所で泊まるようにしてたんだよ」
「そうだったんだ……それは大変だね」
「でしょー?」
まぁ……こんなハチャメチャな花音ちゃんとの相性が良い子なんて、中々いないだろうからなぁ。もちろん彼女自身にも問題……というか、自分自身に正直過ぎるところがあるから、本人のせいと言ってしまえば、それまでなんだけど。
……でも。自分に正直って、俺にもどこか似たところがあるし。欲望にどこまでも忠実なのが俺だから……もしも俺が女の子になったら、きっと彼女みたいな性格になったんだろうな……なーんて思ったりして。
「うーん……分かった。それなら許可するよ」
気が付いたら俺は、そうやって口にしていたんだ。
彼女と自分の性格を重ねてしまったのか、一人で夜を過ごすのが寂しくなったのか、痛い目に遭っては欲しくないと思ったのか……はたまた、なんとなーくで言ってしまったのか。真相は定かではない。
……だけど。決して嫌々で言った訳じゃないのは、確かなんだ。
「にゃははっ、ホントにいいの!? やったー! ありがとね、神ちゃん!」
そしたら花音ちゃんは許可されたことにより元気を取り戻したのか、身体を使って喜びを表現するのだった。
「じゃあ、まぁ……一週間だけだけど。仲間としてよろしくね、花音ちゃん」
「うん! よろしくね! ……じゃあまずは神ちゃん、夜ご飯にしようか!」
「えっ、ご飯って……花音ちゃん、料理出来るの?」
花音ちゃんは家事が大嫌いと言っていたので、かなり心配してしまったのだが……
「うん! ウチの唯一得意な家事だよ!」
「ええっ! そうだったの!?」
どうやら俺の杞憂だったみたいだ。もしかしたら花音ちゃんの料理は、期待できるのかもしれないぞ……?
「それで神ちゃん、何か食材ある?」
「え? まぁ、あるにはあるけれど……ほら、そこの大きな袋に入ってるやつ」
一応住み込みでクランハウスを掃除しようと考えていたので、まぁまぁ食料は持ってきてはいたんだが……
「げっ、カップ麺に袋麵、ポテチ、コーラ、モンエナって……こんなのばっかり口に入れたら、神ちゃん早死にするよ?」
花音ちゃんは食料の入った袋を漁りながら、心配そうにそう言った。
「でもこれらは簡単に食べられるし、普通に好きなんだよ」
「……はぁー。んじゃあ今日は許すけどさ、明日からはウチがちゃんとした料理を作ってあげるから、それ食べてよ?」
「え、でも食料も器具も調味料も、ほとんどそろっていないけど……」
「じゃあウチが買い出しに行ってあげるってば。こんなに立派な家なんだから、冷蔵庫くらいはあるでしょ?」
「まぁ、あるけれど……ホントにいいの?」
「うん。だって掃除するより、何倍もマシなんだもん」
「そ、そっか」
どんだけ掃除嫌いなんだよこの子……まぁせっかくポイント支払って雇ったんだし、出来ることは遠慮なくお願いしてみようかな。
「よーし、それじゃあウチ今からはラーメン作るから、出来るまで神ちゃんはちゃんと掃除しておくのよ?」
「オカンか」
「それで神ちゃんは味噌と塩どっちにする?」
花音ちゃんは二つの袋麺を取り出して、俺に聞いてきた。
「あー。じゃあ塩がいいな」
「そう、じゃあお母さんも同じのにしようかしら」
「……オカン化!?」
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