第53話 メイドちゃんの妙案?

 そして花音ちゃんは俺に心を開いてくれたのか、物理的にも心理的にも俺との距離をグイグイと縮めてきて。


「それで神ちゃんはさ、どうしてウチなんかを選んでくれたの?」


「えっ? 選んだというか……受付のお兄さんにおまかせで決めてもらったんだよ」


 そう言うと花音ちゃんは全てを察したのか、納得したような表情を見せ……顎に手を乗せてウンウンと頷いた。


「ああ、にゃるほど、そういうことかー。そりゃわざわざウチを選ぶ物好きなんて、どこ探してもいないよね」


「そうなの?」


「うん、なんかウチの評判は最悪でねー。ちゃんと調べてみたら、ネットの掲示板でボロカスに書かれてたんだよ。『鳥咲花音は大外れ』って。『だから鳥咲を避ける為に指名は絶対にしろ』だって……ひどいよね?」


「……ああ。そうだな、ひどいな」


 正直、その書き込みをした人の気持ちは分かるけど……というか俺も進行形でそれを感じてはいるんだけど。


 本人を目の前にして、そんなことは言うつもりもないし……せっかく花音ちゃんが来てくれたのなら、誰も見つけられなかった花音ちゃんの良い所を探してみようって。俺はそう思うんだよ。


「まぁ別にウチはそんなの気にしてないし……そもそもそんな奴の相手なんて、こっちから願い下げだっての! ウチはただメイド服が好きで、メイドをやってるだけだもんね!」


「ああ、そうなんだ……って、じゃあメイドのお仕事は……」


「うん! 全然好きじゃないよ!」


 それは自信満々で言っちゃいけないやつだってば。そこは嘘でも「仕事も好きです」って言ってくれよ。


「……そっか。一応俺は、掃除を手伝ってもらおうと考えていたんだけど」


「ええっーそうなの? 掃除はウチが苦手な家事ナンバーワンなのに……というかどうして神ちゃんは、ルンバを買わずにメイドを呼んだのさ?」


「掃除ロボが清掃出来る場所は限られてるんだよ」


「それでも大体やってくれるし、そっちのほうが何倍も安く済むよ! わざわざメイドを呼ぶなんて……ってあっ、そうか分かった!」


「何が?」


「神ちゃんは……スケベだからメイドを雇ったんだねっ!!」


「……」


 少々……いや、かなりその言い方には語弊があるけれど。そういった理由も無いと言ったら噓になるんだよな……なんか言葉を濁した方がいやらしく聞こえるから、ハッキリ言うけどさ。『メイドさんを一目見たかった』って理由もあるのは確かだよ。


 ……でも来てくれたメイドは、想像していたメイドさんとは180度違ってたけれどね。だってケモ耳生えてるもん。


「えっと……一応俺はメイドハウスにポイント支払ってるんだから、君が手伝ってくれないのならメイドハウスにクレーム入れなくちゃいけなくなるんだよ」


 俺はその話は広げたくなかったので、無理やり話を元に戻し、諭すようにそう言った。そしたら花音ちゃんは苦い表情を見せて。


「うげーっ。アイツのお説教嫌いなんだよね」


「アイツって受付のお兄さん?」


「うん『もっとメイドの自覚を持てー』って、ウチにだけうるさいんだよね」


 それはごもっとも過ぎる……というかよくそのお兄さんも、未だに花音ちゃんをメイドハウスに所属させているよな。普通だったら、即クビになりそうなもんだけど。


「というかメイド服が好きなだけなら、個人で勝手に着ればいいんじゃないの?」


 俺はお互いの為を思って、そうやって提案してみた。そしたら花音ちゃんは、ヒラヒラのメイド服の裾を持ち上げて。


「これはメイドハウスの制服だよー。だから辞めたら返さなきゃいけないワケで……それでこの制服着てたら、変な目でも見られないからけっこー助かってるんだー」


「あ、そうなんだ……」


 どうやら花音ちゃんは、メイドハウスを辞める気はないらしい……ってスカート持ち上げすぎだよ。また大事なのが見えてるんだって。目のやり場に困るんだってば。


「……じゃあそろそろ掃除再開するから……花音ちゃんも手伝って?」


「おっ、いきなり名前で、しかもちゃん付けで呼ぶなんて、案外神ちゃんもやり手だねー? もしかしてヤリ……」


「それ以上はいけない」


 俺が口にするならまだしも、その単語は女の子の口からは聞きたくはない。


「えーどうしてさー?」


「普通に考えたら分かるでしょ……もう時間も少ないし、早くいけるとこまで掃除しようよ。俺は時間が惜しいんだ」


「ふーん、そっかー。でもまだ六時半だよ?」


 花音ちゃんは壁掛け時計を指して言う。


「まだ、じゃなくて、もうだよ。花音ちゃんが遅く来たから、もう外真っ暗だよ。君だって寮に帰らなきゃいけないだろうから、今日掃除できる時間は少ないんだ……」


 それを聞いた花音ちゃんは不思議そうに。


「えっ? ウチここに泊まるつもりだけど」


「……はっ? いやいや、ここはクランメンバーしか寝泊まり出来ないんだよ。君も知ってるでしょ?」


「えー。そんなこと言ったって、ここから女子寮は真反対にあるし……帰るの面倒なんだもーん。それとも神ちゃんは、女の子一人で夜道を帰れと言うの?」


「え、もしかして歩いてここまで来たの?」


「いや、スケボー」


「……」


 どんなメイドだよ。スケボー乗って移動するメイドって、どんだけワイルドなんだよ。悔しいけどカッコイイな。


「……とにかく。俺は校則を破って大変なことになった先輩を知ってしまってるんだ。だから君をここに泊まらせる訳にはいかない」


 俺はそうやってきっぱりと言う。それでも花音ちゃんはまだ諦めていないのか。


「んーだったらさ」


 そうやって手を自分の唇に当てて……フフンとイタズラっぽく言うのだった。







「ウチが神ちゃんのクランに入りさえすれば……寝泊まりするのは全く問題ないってことだよね?」

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