第51話 問題メイドさん、ご登場?

 それから俺は勢い良く起き上がり、端末を手に取って『メイドハウス』に電話をかけようとする。メイドハウスってのは、この学園でメイドさんを運営している場所のことで……姉妹店として『執事ハウス』なる場所もあるらしい。本当にポイントがピンチになったら、俺も執事として雇ってもらおうかな。


 そんなことを思いつつ俺は、番号を調べてメイドハウスに電話をかける……そしたら数回のコール音の後に、男性の声が聞こえてきた。


「はい、こちらメイドハウスです。お名前とご用件をどうぞ」


「あっ、はい。俺は一年の神谷修一です。クランハウスの清掃を手伝ってもらいたくてですね、メイドさんを雇おうと考えていて、それで……」


「はいはい、なるほどなるほど……それでは神谷様、期間はどのくらいの長さで考えておりますか?」


「え? えっと、綺麗になるまでだから……まぁ一週間くらいですかね?」


「一週間ですね……はい、承知いたしました。それではメイドのご指名などはございますか?」


「ごっ、ご指名!?」


 ななな、なんだそのえっっっっ……なお店みたいなシステムは!? いいのか!? そんなことしていいのか!?


「はい。当店のメイドにはグレードのようなものがございましてね。ベテランの方をご指名されますと、少々ポイントはかかりますが……それ相応の働きは期待ができますよ」


「あっ、何だ、そういうことだったんすね。でも俺、あまりポイントに余裕がないんすよね……」


「ああ、でしたら一番格安のグレードの中から選ぶことをお勧めしますよ。ほとんど学生のバイトの子ですが、基本的なことなら出来ると思いますから」


「そうっすか! じゃあその中から、お任せで選んでおいて下さい!」


 そしたら少しの沈黙の後。


「……本当にお任せで宜しいのでしょうか?」


「えっ? あっ、はい、大丈夫っすけど……」


 え、なに、その含みのある言い方は?


「はい、かしこまりました。それでは今からメイドを向かわせますので、ご住所をお願いいたします」


「あっ、はい。寮エリアのA地区のですね……」


 それから俺は住所を言い、お兄さんから代金や注意事項などの説明を聞いて電話を切り……メイドさんの到着を待つのだった。


 ──


「……流石に遅くない?」


 はい。俺がメイドさんを呼んでから、はや三時間ほどが経過した。


 あんなにドキドキしてたのが、今は何だかちょっとイライラに変わっちゃってるよ。おかげで掃除もだいぶ進んじゃったよ。リビングの床はもうピッカピカだよ。超クリーンだよ。


 うーん……もしかして俺は住所でも言い間違えてしまったのだろうか? いや、そんなはずはないと信じたいが……はっ、まさか!


「来る途中に事故にでも遭ったのか!?」


 その可能性は十分にある。それなら店が連絡してこないのも、ここにメイドさんが来ないのも納得ができる……!


「た、大変なことになっちゃったぞ!」


 居ても立っても居られなくなってしまった俺は、もう一度メイドハウスに電話をかけてみるのだった。


「はい、こちらメイドハウスです。お名前とご用件を……」


 電話の相手がさっきのお兄さんだと気付いた俺は、食い気味に言う。


「あのっ、すみません! さっきの神谷です! メイドさんがまだ来なくて、俺不安になっちゃって、それで!」


「ああーそうでしたか。大変申し訳ございません、神谷様。彼女にはすぐに注意致しますので……」


「えっ、いや、注意とかじゃなくて……ほら、事故とかに遭ってないかが俺、とっても心配で! それで!」


「……」


 そしたら受付のお兄さんはしばらく黙って。そしてとても気の毒そうに、俺に言うのだった。


「あの、神谷様……実はですね。このメイドハウスのメイドは安全の為に、位置情報をオンにして仕事をしてもらっているのですよ」


「えっ? あの……いわゆるGPSってやつですか?」


「そうです。万が一、事件に巻き込まれたりするかもしれませんからね。だから私がパソコンでメイドの位置を把握し、もしもSOSを発信したらすぐに駆け付けられるように……と」


「は、はぁ。それは分かりましたが……それがどうかしたんですか?」


「神谷様のご依頼したメイドは。彼女の位置は……二時間ほど前から、ずっと某ファストフード店で止まっていました」


「…………えっ?」


 意味が理解が出来ずに呆然としていると、お兄さんは続けて。


「じゃあもうハッキリ言います。彼女、サボってました」


「あっ……えっ。えぇ……?」


 それを聞いた俺は安堵、怒り、疑問の混じった、よく分からない感情に襲われた……えっ、サボってたの!? そんなことしていいの!?


「ですが神谷様、朗報です。つい先ほど彼女はそこから動いて……神谷様のクランハウスに向かっております」


「ほ、ホントですか……?」


 というか朗報って言っていいのか、それは。


「ですから到着したら、彼女を叱ってやってください……それでは神谷様、大変申し訳ございませんでした」


「あっ、いや、なんかこちらこそすみません……」


「いえいえ、それでは」


「あっ、はい……」


 そして電話は切れてしまった……なっ、えっ? サボりってある? もしかして受付のお兄さんが「お任せでよろしいですか」って聞いてきたのは、こういうことだったの? もしかしたらとんでもない子に頼んじゃったのか、俺は?


 ……いやでももう、ポイント支払ったし。今更チェンジも出来ないだろうから、大人しく待つけどさ……何だか凄い損した気分だぞ。俺はどんな顔してメイドさんに会えば良いんだよ。初対面の子になんて怒れないってば……


『ピンポーン』


 ……えっ、来たよ。ホントに来たよ。サボりっ子メイドちゃんが来ちゃったよ。もうなんか違う意味でドキドキしてるよ俺。心臓止まりそうだよ……


『ピンポピンポピンポーン』


 れっ、連打!? 冗談だろ!? もう小学生でもやらないよそれ!?


「はぁ……」


 俺はため息を吐きながら玄関に向かい……その扉を開けた。そしたらそこには──


 金髪のショートヘアーで小柄な……具体的には透子ちゃんより大きくて、俺より少し小さいくらいの。ひらひらなメイド服を着た少女が立っていて。


 よくメイドのイラストとかで見かける、白いフリルの頭の飾り……まぁホワイトブリムって言うんだけど。その上には何故か……きつね色のケモ耳が生えていたんだ。

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