第13話 ボクっ子少女に、リンゴジュースを!
「いいよね、ディーラーさん?」
「はい。勿論でございます」
テーブルの向こう側にいる、白のシャツに黒のベストを着た丸眼鏡のお兄さんが、俺に向かって優しく微笑んだ。見たところ生徒っぽくないから、ちゃんとした本職の人なんだろうな。
「それでディーラーさん。ここのポーカーって、どんなやつなの?」
「はい。ここでは最もスタンダードとされている、クローズド・ポーカーの『ファイブカード・ドロー』を行っております」
「あぁー確かそれって、俺がルイージと無限にやっていたアレだよね……」
「左様でございます」
あっ、通じるんだ……というかこれ、独り言のつもりだったんだけど。
そしてディーラーさんは、こちら側に座っている生徒全員に手を向けて。
「ただ、貴方様が相手なさるのは私ディーラーではなく……こちらの、他のプレイヤーの皆様でございます」
「へぇ……なるほど」
PvP……つまり、プレイヤー同士の戦いってことになるんだね。まぁ、こいつらとは協力なんかしたくなかったし、そっちのほうが好都合だ。
俺は少しだけニヤッとして、隣に座っている男の方を振り向いた。
「がはははっ! お前もポイント奪われてぇようだな?」
「それはどうだろうね。痛い目に遭うのはそっちかもよ?」
「ふふ、生意気な少年ですね……お望み通り、格の違いを見せてやるよ。特待生のクソガキが」
そして両者ともバチバチになって、今にもゲームが始まろうとしていた……その時。
「ぼっ、ボクも参加するってば! まだポイントは残っているし!」
これまでの一連の流れを見ていた、さっきまで涙目になっていた少女もチップを出して、ゲーム参加の意思表示をした。
「君、ボクっ子だったの? それは非常に萌えるけれど……君はこれ以上、このゲームをプレイしない方がいいよ?」
そう言うと少女はキッと尖った八重歯を見せながら、俺を睨みつけて。
「なっ、何だよ! オマエはボクの味方なんじゃないのかよっ!」
「味方さ。味方だから警告してあげているんだ。どんなプレイをしたのか知らないけれど……こんな短時間で5万ポイントを消すなんて、才能が無さすぎるよ」
「……っ!!」
「まぁ、ある意味では天才なのかもしれないけどさ……ともかく、君はプレイしちゃダメだ。大人しくそこで見ていて……」
――時に正論は人を傷つけるとはよく言ったもので。その少女はまたウルウルと泣きそうな目を見せて……キンキンと耳に響く声色で、俺の言葉を遮った。
「うるさいっ、ばか! ばーか!! あほーーっ!!」
「……」
俺は小学生の相手でもしているのだろうか。いやまぁ……俺が正論のナイフを彼女に突き付けてしまったから、泣いちゃったんだと思うんだけど。でも、これは君を守るために言ったんだ……だからどうにか堪えてくれ……
「ぼっ、ボクは……強いんだ! だからバカって言うなっ……!」
……いや、それは言っていない。というかこの子と俺が同い年で、しかも同じ特待生ってことが未だに信じられないんだけど。どうやって試験突破したんだろう……?
……まぁ、それは今考えることじゃないな。とりあえず、今の俺がするべきことは……この少女を落ち着かせることだ。
「ほら、りんごジュースあげるからさ。これでも飲んでてよ」
俺はさっき売店で買ったリンゴジュースと、筆箱に入っていたマジックペンを取り出す。そしてとあるメッセージをジュースのラベルに書いて、少女に手渡した。
「はい、どうぞ!」
「……」
すると少女は少し警戒する素振りを見せたが、市販のジュースだと分かるなりすぐに受け取って、ごくごくと飲み始めた。あぁ、何だ。静かにしていれば小動物みたいで、とっても可愛い子じゃないか。
「ん……? いったい何を書いたのでしょうか?」
「別に、ただのラブレターっすよ?」
二重人格の先輩に書いた内容を聞かれたので、適当にごまかしておいた。
「はっ、チビ同士お似合いだぜ」
「ああ、そりゃどうも。んじゃ……そろそろ始めましょっか?」
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