第14話 「オールイン、全賭けで」

 それから何回かゲームを繰り返したが、俺は1度も2人に勝てずにいた。最初は俺の運が悪いだけだと思っていたが……どうやらそんなことは無さそうだ。


「ノーペアだ」


「がはははっ! こっちはワンペアだぜ!」


「僕もワンペア。あれだけ大口叩いてた割には、大したことないですね。やはりクソガキはクソガキを呼ぶってことですかね?」


「……」


 相手は俺のブラフにも動じず、自信満々で勝負してきた。自分で言うのもアレだが、ポーカーフェイスには相当な自信がある。さっきのだって口調、目線、動き、表情……考えうる限りの全てに、気を付けてのレイズだった。


 なのに相手は全く物怖じせず、勝負に乗ってきたんだ。しかも『ワンペア』という勝負するには、些か心もとない役で。


 やはりこのゲームは、何かしらの『イカサマ』が行われている。そう思わざるを得ないのだが、如何せん確証がない。多分俺の役が筒抜けとか、そんな感じのイカサマなんだろうが……仕組みが分からなければ、指摘すら出来ないんだ。


「……」


 まぁ……まだ焦らなくていい。俺に無警戒な奴らは、いつか絶対に尻尾を出す。その瞬間を見逃さなければ、絶対に勝てるんだ。だから落ち着いていけ……


『コンコン』


 ……ん? 何かノックの音がしたような……誰かがテーブルの下でも叩いたのか?


「さぁて、そろそろ次のゲームに行くぜ? 逃げんなよ?」


「ふふ……あれだけカッコつけておいて、逃げれるわけないでしょう。無様ですね」


 そして急な2人の煽り口調。もしかしてさっきのは……何かの合図?


「ほら、早くアンディ(参加費)を出せよ」


「……ああ」


 どこかモヤモヤとした気持ちを抱えたまま、俺はチップを投げた。


「そう来なくてはねっ、あはははっ!」


 それを見た細身の二重人格先輩は、高らかに笑う。どうやら俺は完全なカモだと思われているらしく、次の勝負も煽れば乗ると思われているようだ。


 まぁ馬鹿にされるのは少し癪だが……裏を返してみれば、完全に俺に油断してるってことだ。これはチャンス以外の何物でもない。


「それでは、次のゲームに参ります」


 そしてディーラーがスピーディーにカードを配っていく……


「……!」


 その時に……俺は気が付いてしまったんだ。ディーラーが『ボトムディール』を行っていることに。


 ボトムディールってのはトランプを配るときに、山札の下のカードを取る技のことだ。要するに、好きなカードを好きな相手に配ることが出来る……れっきとした、最悪な反則技である。


 しかもボトムディールは上手い人がやってしまえば、気づかれにくい技なのもタチが悪い。さっきのだってディーラーの手元に注目していなかったら、俺はきっと気が付かなかっただろう。


 そんで……そのボトムディールによって配られたカードを受け取った相手は、俺の右隣に座っている細身の二重人格先輩だった。


 俺は脳内で大きなため息をつく……はぁ。ディーラーもグルだったって訳か。そりゃイカサマやられ放題だわ。


 でも多分、ボトムディールを行ったのはこれが最初だよな……ということはここで勝負を仕掛けて、大量のポイントを俺から奪おうって魂胆だな。


「まずは俺からだが……この手札は雑魚いな。今回は降りるぜ」


 ここで初めて大柄の男がフォールドした。きっと『今回は勝てるかもしれない』と俺に思わせたいだけなんだろうけど。


「じゃあ次は僕だね。ふふふっ、1万ポイントをベッドするよ」


「……コール」


 俺は二重人格先輩と同じように、1万ポイントのチップを投げた。


「あははッ! 降りないその度胸だけは褒めてあげるよ!」


「そりゃどうも」


 まぁ、そっちがズルするのなら……俺も遠慮しなくていいってことだよな?


「続いてドローです」


「僕は1枚交換」


 二重人格先輩は1枚カードを出して交換する。いくら好きなカードを渡されたからと言っても、1枚も交換しなかったら少し怪しいし、俺が勝負してくれないかもって思ったんだろうな。


 ……それでもどうせ、まだ強い役を握ってるんだろうけど。


「じゃあ俺は……5枚全部交換するよ」


 俺がそう言うと二重人格先輩は、過去イチバンの笑いを上げて。


「あはははっ!! 君はそこまで馬鹿だったのかい?」


「いや、大真面目だよ?」


 そして何食わぬ顔で俺は、持っていたカード全てを交換した。


「それでは2度目のベッドの時間です」


「僕は更にレイズするよ」


 二重人格先輩は更に、1万のチップを投げる。


「さぁどうする? 降りるかい? ふっ……まぁーあんなにかっこつけた手前、逃げるなんてダサい真似は出来ないですよねぇ?」


 そして分かりやすいくらい、俺を煽ってきた。


 向こうからしてみれば、強い役を握っている時点で負けはないと確信しているから、俺に勝負に乗ってほしいのだろう。もし俺が降りたとしても、取り分が少なくなるけど、プラスになるからどっちに転んでも美味しいと……思い込んでしまっているのだろう。


 ……だから。そんな勝ち確だと思い込んでいる、愚かなイカサマ野郎らに向かって。俺はこう宣言してやった。


「じゃあ俺は……『オールイン』、全賭けで」


 そして俺はチップに変えた分のポイント全部。約8万程のポイントを、このゲームに全て突っ込んだのだった。

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