第12話 カジノエリアに行こう!

 そして次の日。俺は学園内のマップを見ながら、初心者狩りが行われていそうな場所を探していた。


「うーん、藤野ちゃんが狙われた『スポーツエリア』も多そうだけど……やっぱり1番危なそうなのは、この『カジノエリア』だよな」


 カジノ。この国に住んでいれば、あまり馴染みのない遊びだが……どうやらここではそんなことないらしい。調べたところによると、1番2番を争うくらいにポイントが賭けられている人気エリアだそうだ。


 そんなに大きなポイントが動くってことは……もしも初心者狩りにでも遭ったら、失うポイントも多くなるかもしれないよな。


「よし。今日はここに行ってみよう」


 そう決めた俺は、何故か部屋に用意されていた、サイズピッタリの制服に袖を通して、カジノのエリアと向かったのだった。


 ──


「どっひゃー。こりゃ凄いな」


 カジノエリア。入口はネオンだの照明だので、目が痛くなるくらいピカピカと輝いていた。昼なのに。本当にここが学園の敷地なのかと疑問を覚えるほどだ……まぁ、そんなの今更過ぎるかもしれないが。


 そんなことを思いつつ、俺はカジノに足を踏み入れようとする……


「あっ、そうだ。念の為に『アレ』でも買っておこうかな」


 今のところ使うつもりは無いし、ぶっちゃけ使えるかも分からないけど。それでも無いよりはマシだろう。


 俺はお守り的な意味も込めて、カジノの近くにあった売店で『それ』と飲み物を買ってから、カジノに入っていった。


 ──カジノ。


 入口付近の赤い絨毯の上には多くのスロット台が並んであり、右側にはルーレット。奥の方ではポーカーやブラックジャック等のトランプゲームが行われているようだった。


 そしてまだ朝早いのに、そこそこの人数がカジノにいた。確か今は春休みの期間だったっけ。だから2年も3年も暇しているのかもしれないな。


 ……しかしこれは面白そうだ。こうやってウロウロしてるだけってのも退屈だし、少しだけ俺もプレイしてみようかな?


 そう思った俺はポイントを丸いチップに交換して、トランプゲームが行われている場所に向かおうとした……その時。


「うああっ! また負けたぁ!!」


 あまりこの場所にはそぐわない、子供特有の甲高い声が聞こえてきた。どうやらこの先に声の主がいるらしい。俺はチップを抱えたまま、トランプゲームのエリアに急いで歩いて行った。


 ……そこで俺は。背丈の低い、黒髪ショートヘアの制服少女が、涙目でトランプをくしゃくしゃにしていているのを目撃した。


 そしてその少女の両隣には年上と思われる、大柄な男子生徒と細身の男子生徒の2名が椅子に座って、その少女を茶化して……いや、半分煽りみたいな口調で語りかけていた。


「へへ、嬢ちゃん。これで5万ポイントの負けだな。もう賭けるポイントも残ってないんじゃないか?」


「ぐぅっ、そっ、そんなことないもん!」


「それなら次のゲームで取り返すべきなんじゃないかい? これだけ負けているんだ。きっと次は勝てるさ」


「だっ、だよね! これ以上負けないよね!」


 おいおい……? これってかなりヤバい状況なんじゃないか?


 すかさず俺は、その場へと助けに入った。


「ちょいちょい、アンタら。その子に何してんのさ。無理にポイント使わせるのは校則違反だぞ?」


「んん……?」


「あぁ……?」


 男2人は俺をじっと見た後、顔を見合わせると……ゲラゲラと汚い笑いを上げた。


「がはははっ! 何だお前も新入生じゃねぇか! 驚かせやがって!」


「えっ? 何で分かったの?」


「君の制服に着いてる校章さ。それはそれぞれ学年によって、色が違うんだよ」


 俺は下を向いて自分の校章を確認した。確かに俺や少女の校章は赤色に染まっていたが、その男達の校章は黄色になっていた。


「へぇーそうだったんだ。じゃあアンタらは俺のひとつ上ってことになるの?」


「そうだぞ、お前も先輩には敬語を使うんだな」


「ふーん、でも断るよ。俺は尊敬している年上にしか敬語使わないんだ」


「はっ、生意気なガキだ」


 そして細身の方の先輩は、取り繕ったような笑顔で。


「それで……何か用かな? 見ての通り僕らはポーカーを楽しんでいるだけなんだ。プレイしないのなら……邪魔だから早くどっか行けよ。特待生のゴミが」


「アンタ途中で性格変わってない?」


 二重人格と言うべきか何か……こんな人、リアル世界で初めて見たよ。


「というかさ……楽しくプレイしているのなら、何でその子泣きそうなのさ? アンタらイジメているからなんじゃないの?」


 そしたらその少女は、目元を服で擦って。


「なっ……泣いてないもんっ……!」


「別に強がらなくていいのに……」


 あんまり人に弱みを見せたくない感じなんだろうか。結構プライド高そうだぞ、この子。


 そして俺の言葉を聞いた二重人格の先輩は、呆れたように。


「はっ、何を根拠に。その子はちょっと運が悪いだけさ」


「運が悪くて5万も失わないって……しかもカジノは開いたばかりだし。こんな短時間で、そんなにポイント減らす方が難しいよ」


 そしたら大柄の男は俺が鬱陶しくなったのか、追い払うようなジェスチャーをしながら言った。


「ペラペラうるせぇなぁ。早くどっか行けよ。マナー違反だぞ」


「あぁ……確かにそうだね」


 まぁ男の言うことも一理ある。ゲームをしないやつが、外からガチャガチャ言ってても普通に邪魔なだけだもんな。


 ……だけど、俺はここで引くわけにはいかないんだ。


「それなら」


 と俺は、隣の空いている椅子にドサッと座って。


「俺も次のゲームから参加させて貰うよ」


 そう言って俺は、持っていたチップのすべてをテーブルの上に置くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る