第11話 これは『ゲーム』なんっすよ?

「はっ……? 何が起こったというの……?」


 俺以外の生徒全員は何が起きたのか理解できず、ただただ困惑しているようだった。だから俺は蓮にびろーんと服を引っ張られたまま……ゴブリン先輩たちに向かって、こう言い放ってやったんだ。


「あははっ、ダメじゃないっすかゴブリン先輩。ルールはちゃんと確認しないと」


「ルールですって?」


 聞いたゴブリン先輩たちはコートを飛び出し、急いで端末を触る。そしてそれを見た瞬間。一斉に相手チームの表情が、絶望へと変わっていくのが分かった。


「なっ……!? いつの間にか『1点先取』に変わっている!?」


「それだけじゃないです五分さん!コートが……五分チームのコートと相手チームのコートが入れ替わっています!!」


「なぁあぁぁあっ!?」


 その慌てようが面白くて、思わず俺は笑ってしまう。


「そう、アンタらが必死に守ろうとしていたゴールは俺らのだったの。端末見ればすぐに分かったのに、だーれも気が付かないなんておバカだねー?」


「いっ、いつの間に!? ルールを変更する時間なんて……」


「ホントに俺がゲーミングゴールにしただけだと思ったの?」


「……ッっ!?」


 そう、あの時。俺が駄々をこねてゴブリン先輩にサッカーゴールの色を変える申請を送った時。同時に、ルール変更の申請も送っていたのだ。


 ルール変更の内容は、さっき言われた通り『1点先取』と『コートチェンジ』。そしてここからが面白いのだが……まとめて申請を送ると、変更内容を確認するページが増えるんだよ。だけどゴブリン先輩は、ページが増えたことにすら気が付かず、ノータイムで承認してくれた……この時点で俺の勝ちは決まっていたんだよ。


 だからみんなも最後まで警戒する癖をつけておくといいよ。契約書とかは大概、最後の方にエグイこと書かれてたりするから。


 そしてゴブリン先輩は諦めたのかと思ったのだが、全然そんなことはなく。プルプルと全身を震わせて……エリア全体に響くくらい、大きな声で叫んだ。


「なっ、納得出来ませんわっ!! サッカーはキックオフの時、プレーヤーは全て自分のエンド内にいなければならないのよ!! それなのにアンタらは、敵の陣地から始めた!! これは反則よッ!!」


「……あぁー。確かに」


 結構まともな反論をしてきたので、少しだけ驚いた。


「でしょ!? だからこれは反則……」


 ……だけどね、甘い。甘いよ。


「でもね、先輩。これはサッカーじゃなくて『サッカーゲーム』なんっすよ。そんな正式なルールが一々適応されると思わないことっすね」


 そのルールが書かれていないのは、既に確認済みなんだよ。


「……っ!」


「そもそも11対1をしようとしていた相手が、よく反則とか言えるもんだな……」


「おっ、さっすが蓮キュンいいこと言うね! ……あと、そろそろ離してくれない? 体操服伸びちゃうからさ!」


「……」


 そして俺は蓮から手を離してもらい、ゴブリン先輩の前に立つ。


「ふぅー。んじゃ、俺らの勝ちってことで。ゴブリン先輩達のポイント頂いていきますねー?」


「そっ、そんなっ……!」


 ゴブリン先輩は膝から崩れ落ちる。だけど俺はそんなのに目もくれず、芝のエリアを後にするのだった。


 ──


 そして試合後、俺たちはスポーツエリアのロビーに集まっていた。


「あのっ、神谷君! 助けてくれて本当に……ホントににありがとね! 私、神谷君がいなかったら、大変なことになっていたよ!」


「いやいやお易い御用だよ、藤野ちゃん。それでどうする? このポイントでまたパフェでも食べに行こうか?」


 試合に勝った俺たちは、各自端末にそれぞれ3万弱ものポイントが注ぎ込まれていた。多分、勝ったチームで山分けしているんだと思う。


「うんっ! でもちょっと汗かいちゃったから、一旦寮に帰って着替えたいな。その後でもいいかな?」


「あーおっけ、大丈夫だよ。じゃ、またあのレストラン前に集合ね!」


「分かった!」


 そう言って藤野ちゃんは、笑顔で手を振りながら去って行った。


「……さて。急に連れ出してごめんな、蓮。お前も後でパフェ奢ってやるから」


「要らん。それよりもコーヒーぶっかけたことの方を謝ってくれ」


「……」


「何でそこは頑固なんだよ」


 おお、素早いツッコミ。意外と蓮は、ツッコミの才能があるのかもしれない……これならお笑いコンテスト優勝も夢じゃないね!


「まぁ問題は、蓮が出てくれそうにないってことなんだけど」


「……何の話だ?」


「ああ、そうだった蓮。コーヒー台無しにしちゃってごめんね?」


 そしたら急に謝られた蓮は少し驚いた表情をしたものの、すぐに真顔に戻って。


「……まぁ僕も。お前の作戦に気が付かず、殴りそうになったのは悪かった」


 と、目を逸らしながら言った。きっと蓮も謝るタイミングを探っていたのだろう。かわいいやつめ。


「いいよ全然。藤野ちゃんも蓮も自信満々な顔してたら、きっと相手もおかしいと思って気が付いただろうし。だから2人のリアリティがあってこその勝利だよ」


「ふん、そうか」


 そして蓮は、さっき買った缶コーヒーを口につけて。


「奴らは今の僕らが賭けれる最高額のポイントで、あの女子に勝負を挑んでいた。だからもしも負けていたりしたら……あの女子は相当苦しい生活を強いられることになっただろう」


「俺らが今賭けれる最高額のポイントって、確か10万ポイントだったよね?」


「ああ」


 配布されたポイントとはいえ、一気に10万ポイント失うのはキツ過ぎるよな。


「……まぁ多分だけど。あの先輩らも入ったばかりの頃に、同じように年上に騙されてポイントを奪われたのかもしれないね」


「かもな」


「まぁだからと言って、その行為が許されるわけじゃないけどね」


「だな」


 新入生はまだ特待生しか入学していないが、それでも藤野ちゃんと同じように騙されてポイントを失う人もいるかもしれない。そんなの……俺は黙って見ていられないよ。


「決めたよ蓮」


「ん?」


「俺、明日から色んなゲームのエリアに行ってパトロールするよ。初心者狩りを止める為に。全部は止めるのは無理かもしれないけど……それでも俺がいるだけで、被害は抑えられると思うんだ!」


 そう言うと蓮はシラーっと缶コーヒーを飲んで。


「ふーんそうか。まぁ頑張れよ」


「おいおーい! そこは一緒に行くよ、とか言ってよ!」


「いや……僕はやりたいことがある。正式に学園が始まったら、きっと時間を取られて出来ないことだろうし、時間を有効に使いたいんだ」


 聞いて俺はちょっと驚く。どうやら蓮は既に、仮入学中の計画を立てていたらしい。


「そっかー。俺もこの仮入学の期間は一般生には無い、大きなアドバンテージだと思っているよ。だから……やりたいことがあるのなら、俺は無理には誘えないよ」


「ふん……物分りが良くて助かる」


「でもさ! 今日くらいは良いじゃん! 先に俺らでレストラン行こうよ!」


「えっ? いや、僕も着替えたいんだが……」


「いいってば、早く行こう! あのレストラン、モーニングもあるらしいから……混む前に急ぐよ!!」


「うわっ、引っ張んなっ!」


 そして俺らはレストランに行って……後から来た藤野ちゃんと3人で、仲良く朝ごはんを食べたのだった。

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