第10話 これが超次元サッカー……か?

 それを聞いた五分はまた高笑いする。


「あはははっ! ゲームに勝つですって!? こっちは11人もいるのよ!?」


「うん、知ってる。だから藤野ちゃんのチームに俺らも入れてよ。たった2人増えるくらいいでしょ?」


 そしたら五分は腕を組んで、呆れたような表情を見せる。


「はぁ? そんなのアタシが許可すると思っているの? ゲームのルール変更だって、お互いが同意しないと認められないのよ?」


「ふーん」


 それならと俺は。わざとらしい口調でこう言い返してやったんだ。


「……あぁ。そっかそっか、怖いんだね」


「はぁ?」


「俺が怖いから、俺に負けるのが嫌だから入れてくれないんだね? だから初心者の藤野ちゃんを大勢でボコって、それでポイント稼いで。いやぁ、すっげー恥ずかしいっすねぇ、五分……いや、ゴブリン先輩?」


 そしたらゴブリン先輩は分かりやすいくらい、ピキピキっと顔をしかめて。


「はぁぁあん!? アタシが怖がってる訳ないじゃないのッ!」


「じゃあ俺らも入れて下さいよ。お強い先輩さんなら、俺らくらい簡単にひねり潰せますよね?」


「……いいわ。アンタらもポイントを失って、挑んで来たことを後悔させてやるわ」


 ゴブリン先輩はちゃんと煽りに乗ってきた……へへ、計画通りってね。


 みんなも覚えておくといい。どんなゲームだろうと一時の感情に身を任せる奴は、初心者以上に弱い。めちゃくちゃ行動が読みやすくなるからな。


 ──


 そしてゲームに参加すると、俺の持っているタブレット端末が自動的に『ゲームモード』へと変化して、ゲームのルール、ルール変更、賭けているポイントや勝利時に得られるポイント、対戦相手や仲間の戦績や勝率等々が見られるようになっていた。


「うおーすっげー。こういうの俺、好きなんだよな」


 俺は芝に座って、タブレットでそれを見ていると。


「ね、ねぇ神谷君! 本当に五分さん達に勝てるの!? そんなに神谷君ってサッカー得意だったの!?」


 藤野ちゃんがそばまでやって来て、質問攻めにされた。


「んー。まぁ超次元サッカーを少々ね」


「ちょうじ……えっ?」


 そしたら横から蓮も来て。


「おい神谷。本当に勝てるような策はあるのか。僕を勝手に巻き込んでおいて、しかも負けてポイントを失うようなことがあれば……多分僕は一生お前を恨むことになるだろう」


「ははっ、大丈夫だって。安心してよ」


 そう言いつつ、俺はまたタブレットに視線を移す。


 2人ともかなり不安そうだが、この作戦は仲間にすら教えられないんだ。歯痒いが、そのまま俺を信じていてくれ。


「ねえ、早くやりましょうよ? それとも怖気付いちゃったのかしら?」


 ゴブリン先輩は俺に向かって、煽ったように言う。


「はは、まさかー。これが面白くて色々見てたんすよ……おっ! これでサッカーゴールの色とか変えられるんだ! 超ハイテク! めっちゃテンション上がるよ、ゲーミングゴールに変えようよ!」


「はぁ? そんなのどうだって……」


「嫌だ!! 7色レインボーに輝かないと、俺はコートに立たないよ!!」


 俺は子供のように駄々をこね、芝をゴロゴロ転がる。相手チームからだけでなく、藤野ちゃんや蓮からの冷ややかな視線も痛いが、こういった役は慣れているんだ……いや、別に好きでやっているんじゃないからね! ホントだからね!


「あーもう分かったわよ!」


「じゃあ早く許可してよ! 俺はピカピカのゴールがみたいんだもーん!」


 俺は転がりながら、タブレットでゴブリン先輩に『ルール変更』の申請を送った。


「ほら、許可したから早く始めるわよ!!」


 そしたらちゃんと許可してくれたようで次の瞬間、両チームのサッカーゴールは、レインボーに光を放ち始めた。


「ははっ、すげー! ホントにゲーミングゴールに変わった!」


「眩しいわね……」


 今更だけどこれ、どんな原理なんだろうな。サッカーゴールに通信機器的なものが、仕込まれているのだろうか。でもネットまで光っているし……まぁ考えても仕方ないか。


 ともかく……これのおかげで、俺たちの勝ちは決まったようなものだ。俺は笑うのを我慢して、芝から起き上がる。


「じゃ、前半は俺たちボールからでいいよね? 後半はそっちからでいいから」


「ええ、いいわよ」


 そして各自サッカーコートに入り、配置につくのだった。


 ――


「チッ……奴ら、ゴールネット付近に固まってやがる。明らかにカウンター狙いだ」


 蓮の言った通り、ゴブリン先輩チームはディフェンスの強い形のフォーメーションをとっていた。色々と小癪な手を考えているようだが……俺の前では無意味だよ。


 俺は隣にいる藤野ちゃんに言う。


「藤野ちゃん、開始の合図で俺にパスしてね。それだけでいいから」


「えっ、うん、わかった!」


「もういいかしら? 始めるわよ!」


 そしてゴブリン先輩の合図で試合が開始され……全員の端末から一斉にホイッスルの音が鳴った。


「はい、神谷君!」


「……」


 藤野ちゃんから優しいパスを貰った瞬間、俺はくるくるっとターンをして……自分チーム側のゴールネットにボールを蹴り飛ばした。


「炎……トルネードッ!!」


「えええっ!!? かかっ、神谷君!?」


「おっ、おい馬鹿っ! 神谷ッ!!!」


 蓮が慌ててボール取りに行くが、間に合う訳もなく。俺の必殺シュートは、七色のゴールネットを揺らしたのだった。


 そしてそれを見たゴブリン先輩は高らかに。


「あはははっ!! オウンゴールするなんて、恐怖で気でも狂ったのかしら!」


「……」


 そんで俺が無言で立っていると、仲間の2人がとっても怒ったような表情でやって来て……


「ちょっと神谷君!? 真剣にやってよ!!」


「……駄目だ。僕はもうお前の奇行についていけない」


 蓮が俺の胸ぐらを掴み、殴りかかろうとした――その時。無機質な機械音声が、みんなの端末から流れてきたのだった。


『試合終了。チーム藤野の勝利です』


「……は?」


「……えっ?」




「へへへっ! やったね、藤野ちゃん!」

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