2章 仮入学編

第8話 ラブラブモーニングコール?

 そして次の日。俺はピコピコと何度も繰り返される、謎の電子音に起こされた。


「んん……うるせ……」


 蓮が目覚ましでもかけていたのかと思ったのだが、どうやらその音は俺の端末から鳴っているらしくて。


「なんなんだよ……?」


 俺は枕元に置いていた端末を何とか手に取る。そして細い目で画面を見てみると、何やら受話器のマークと『藤野ちゃん』と名前が表示されているのが見えた。


 電話……? 早速、藤野ちゃんが俺に連絡してくれたのかな。それはとっても嬉しいけども、早朝にかけてくるのは止めてほしい……でも折角かけてくれたんだし、これを無視する訳にはいかないよな。


 そう思った俺は電話を取り、ふにゃふにゃの言葉を発した。


「ふぁ……もしもし藤野ちゃん? ラブラブモーニングコールをかけてくれるのは嬉しいけれど、俺は朝にめちゃくそ弱いんだ……」


 そしたら藤野ちゃんは内容には全く触れず、俺の声を聞くなり焦ったように。


「あっ、もしもし神谷君!? 私、今ちょっと大変なことになっていて! それで神谷君に助けを求めようとしてて! それで!」


「えっ……なに? 全く意味が分からない……」


「とっ、とにかく神谷君! 今すぐ『スポーツエリア』に来てくれない!?」


「えっ……? スポーツエリア? どこだそれ……?」


「朝からこんなこと頼んで本当にごめんっ! でも私、神谷君しか頼れる人がいないの! だから……どうかお願いっ!!」


「──俺、だけ?」


 その藤野ちゃんの言葉で……俺はパチリと目を覚ます。


 状況は全く分からないけれど、藤野ちゃんがとても困っていて……しかも俺に助けを求めているんだ。


 ここで動かないのは、男じゃない。


「……分かった、すぐに行くから待ってて」


 そう言って俺は電話を切って身体を起こし……何故かボックス内に用意されていた、ビニールに入った新品の体操服を取り出して、それに着替えた。


「ったく。朝から騒がしいな」


 その時に、同室の蓮が既に目覚めていて、椅子に座ってカップでコーヒーか何かを飲みながら読書をしているのに気が付いた。


「蓮! もしかして今暇か!?」


「馬鹿を言うな。これは僕のモーニングルーティンだ。暇な時間ではない……」


「暇じゃんか! お願いだから蓮も来てくれよ!」


 そう言いながら俺は、もう1セットあった新品の体操服をブン投げた。そしたらそれは、飲み物を飲んでいた蓮の顔面にクリーンヒットして……次の瞬間、辺り一面に黒い液体がぶちまけられた。


「うあっっつっつ!!!! きっ、貴様ァ!!!」


「後でちゃんと謝るから!! 風邪ひく前にそれに着替えるんだ!」


「これはホットコーヒーだ大馬鹿!!」


 そして俺は洗面台で顔を洗いシャキッとさせている間、蓮はキレながらも体操服に着替えてくれたようだった。


「おっ、似合ってる似合ってる! じゃあ早速行こう!」


「貴様、本当に覚えておけよ……!!」


 ──


 俺は並走している蓮に問う。


「ねえ蓮、スポーツエリアってどこにあるの?」


「ふん、貴様はマップすら見れないのか? チンパンジー以下の知能だな」


「まだ怒ってるよこの人……」


 蓮が教えてくれなかったので俺は一旦立ち止まり、端末で場所を確認することにした。マップを開いて『スポーツエリア』と入力してみると……学園のすぐ隣にあるドーム状の建物に、赤いピンがぶっ刺さった。


「えっ? スポーツエリアって室内にあるの?」


「どうやらそうらしいな……まぁ、あの大きさだ。外でやるような競技だろうと、それをやるスペースは充分にあるんだろう」


「ホントこの学校は金がかかってるね」


 そんな会話をしつつ俺らはまた足を動かし……そして数分かけて、その建物へたどり着いた。その『スポーツエリア』は学園に劣らず立派な建物で、まるで野球場にでも来ているかのような感覚を覚えたのだ。


「やっぱでっけー……」


「おい、入らないのか?」


「ああ、待ってってば!」


 俺は蓮を追いかけるようにして、建物内に足を踏み入れたのだった。

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