第7話 クールな同居人?

 ──


 それから俺は藤野ちゃんと別れ、学生寮へと向かった。


 この学園は全寮制、しかも学生の数も多いので、寮のエリアというものが存在している。その寮のエリアまでは学園から歩いて一直線にあるので、迷わずその場所にまで来ることは出来たのだが。


「な、なんだこりゃ……」


 俺はそのエリアや建物の大きさに圧倒されていた。


 そこから少し歩いてみると、生徒のたまり場になりそうな噴水の広場があり、そこから大量の建物が四方に建てられていて……


「って……ん?」


 そこで俺は、とある違和感の正体に気が付いた。


 学園付近にある建物は遥か高く、学園に劣らないくらいに高層のマンションが並んでいるのに対して。学園から離れていく事に家はどんどん低く、小さく、ボロくなっていたのだ。


「……設計した奴は随分性格が悪いなぁ」


 どうやらこの学園には、階級制度みたいなものが存在しているらしい……はぁ、初日にして学園の闇に気付いてしまうとはな。


 ……そして更に歩き、俺は端末で指定された寮まで辿り着くことが出来た。まぁ寮と言っても、この辺りのエリアはアパートみたいな構造になっているので大人数部屋にぶち込まれる、みたいなことは起こらないだろう。


 そして自分の部屋『428』号の前に来た俺は、端末をかざしてロックを解除した。


 造りに似合わずこの辺は結構ハイテクなんだな……と思いつつ、扉を開いてみる。


「……おっ?」


 そしたら入ってビックリ。既に誰かの靴が置いてあったのだ。


 ここのセキュリティーは結構しっかりとしているはずだし、そもそも入学したばかりなんだから盗むものなんてないはずだ。


 色々と気になった俺は、短い廊下を駆け抜けて扉を開いた。


 そこには。


「……」


 黒髪で細身の高身長、ジャージ姿の目つきの悪い少年が、ベットに腰を掛けて本を読んでいたのだった。


「ん? 君は……? というか、もしかしてこの部屋って2人部屋だったりする?」


「……見れば分かるだろ」


 不機嫌そうに少年は隣に置いてあるベッドを指した。


 ああ、既に家具とかは学園側が置いてくれてるんだね。


 俺は改めて部屋を見回してみる……小さな部屋にベッドが2つに、テレビと小さな冷蔵庫。それに細長い棚が各自2つあって、学習机とその前にはパイプ椅子。壁には時計とエアコンとカレンダー。


 部屋はテトリスの如く、かなりギチギチに物が詰め込まれていた。


 とりあえず俺はベッドに飛び乗って、その少年に話しかけてみた。


「ねぇねぇ君、名前は? どっから来たの? というか君も特待生だよね? 仲良くしない?」


「……はぁ」


 そしたら少年はため息混じりに本を閉じて。


「……五十嵐蓮いがらしれんだ。言っておくが僕はお前とつるむ気は、サラサラ無いからな?」


「えーっ? どうしてさ?」


「……お前。神谷は入学試験の時、試験の答えに辿り着けなかった女を連れて来ただろ」


 言われて俺は目を丸くする。


「えっ? それって藤野ちゃんのこと? というか何で俺の名前知ってんのさ?」


「既に話題になっている。仮入学生限定の掲示板でな」


「えーそんなもんあるの? 早く教えてよ!」


「……まぁ見れたもんじゃないがな」


 少年は目を逸らしてそう言う……あれ? もしかして俺に気を使ってくれてるの?


「というかそもそもね! 藤野ちゃんはちゃんと力があったから、音楽室に来れたんだよ! 『運』という何物にも変えられない、最強の能力がね!」


「……運?」


「うん! だから藤野ちゃんは『特待生』なのは間違いないし、もしも藤野ちゃんの悪口言う人がいたら俺、ぶん殴りに行くよ!」


 そう言って俺はシャドーボクシングをする。そしたら少年は天井を見上げて。


「……あっそう。好きにしたらいいんじゃねぇの」


 と。どうやらこの少年、噂になっていた俺を探っていただけで、敵意があるとかそういうのではないらしい。むしろ俺のことを気遣ってくれていたもんな……まあ、言い方はぶっきらぼうだったけど。


「それで蓮キュン、聞きたいことがあるんだけど」


「変な呼び方をするなっ……!」


 普通に睨まれた。こわっ。


「あっ、ごめんごめん。じゃあ蓮でいい?」


「……」


 そしたら次は無視された……いや、これは了承を得たという合図でいいのか?


「どうした。早く言え」


 ……どうやらそういうことらしい。


「いや、蓮は寮のエリア……高層マンションを見てどう思った?」


 そう聞くと蓮は、顎に手を乗せて。


「ああ、あれか。あれは学生寮なんて銘打っているが、実際は住んでいるのは殆ど大人じゃないか」


「大人?」


「ここは孤島。ここで働いている人だってここに住んでいる筈だ。教師、清掃員、調理師、医師……挙げりゃキリがない」


「なるほどね。そういやこの学園は島の大半を占めているんだったっけ」


 それならこの島の人も、寮を使うのかもしれないな。


「まぁポイントが貯まれば僕らもああいった場所に住めるのかもしれないが、難しいだろうな」


「えっ、どうして?」


「僕らは特待生だ。30万も配られる優遇されている立場であるのに、最初に与えられた部屋がこのレベルだ。だから学園が想定してうる『学生の最上限』がここなんだろうな」


「ああーなるほどね」


「まぁ僕はスグにポイントを貯めて、この場所から出で行くつもりだがな。2人部屋なんて真っ平ごめんだ」


「はぁ……そうですか」


 嫌がってる割には結構喋ってくれたんだけどなぁ。


「ふん。じゃあ僕はもう寝るからな。邪魔するなよ」


「えっ、早っ! まだ8時だよ!?」


 蓮は俺の有無を聞かず、部屋の電気を消したのだった。

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