第2話 ゲームの適性能力

 ──そして半年後。


『本日はラッキーフェリー、西園寺学園行きをご利用頂き誠にありがとうごさいます。当船の到着時刻は9時を予定しています……』


 俺は用意された船に乗って、サイコー学園のある島まで向かっていた。その理由はもちろん受験の為である。


 サイコー学園は本学でしか受験が認められていないから、受験生は皆このように船で島に来るしかないのだ。実に不便だな。


 でもそんな厳しめな条件でも全国からぞくぞく受験生が集まってきているらしく、噂によれば他の場所からも船が出ているらしい。やはり一部では名の知れた学園なのかもしれないな。


 それで俺が今乗っている船も、サイコー学園の受験生でいっぱいだ。早速、友達作りを兼ねて色んな人に話しかけている奴もいるが……そもそも、この中の何人が合格出来るんだろうな?


 松田先生は「試験は相当難しいみたいだ」って言ってたけど。「……まぁお前ならいけんだろ」とも、腐った目付きで言ってたから大丈夫だろう。それに俺だって少しは受験勉強したもんな……ゲームしながらだけど。


 そう思いながら屋内の椅子に座っている俺は、持って来た携帯ゲーム機でしばらく遊んでいた。そしたら……


「おいっ、学園が見えてきたぞ!」


「マジかよ! 行く行く!」


 何やら船内がざわつき始めた。どうやらサイコー学園のある島が見えてきたらしい。


「んー。まぁこんな機会中々無いしな」


 折角だし俺も見てみようと考えた俺は、デッキに登ることにした。


 俺は椅子から飛び下り、ゲーム機を片手に外に出る。そして階段を上がった先の、その光景に……俺は今までに無い程の衝撃を受けたのだった。


「……ッ!? なっ、何だこれ……っ!?」


 離島にあるとはまるで思えない……高層ビルと何ら変わらない位に天まで高く建てられたサイコー学園の姿が、この船の上からでも見えたんだ。


 思わず俺は笑いが出てしまう。


「ははっ……写真もマジだったんだな」


 ホームページにあった校舎の写真も、多少なりは加工していると思っていたんだが。どうやらそんなことはなかったらしい。


 ということは……他にも。学園にある遊園地もカジノも、写真通りのモノを期待していいのだろうか?


 まぁとにかく……未だに少しの疑いを覚えていた俺も、あのバベルの塔を見てしまえば、そんな気も完全に無くなってしまうワケで。一層、この学校に通いたいという気持ちがフツフツと湧いてきたんだ。


 そしてしばらく冷静になろうと、外のデッキの柵にもたれて風を浴びていると。島に到着した合図の大きな汽笛が鳴って。


 俺はその不思議が溢れるこの島に足を踏み入れ、サイコー学園まで歩いて行ったんだ。


 ──


 サイコー学園内、受験会場教室。


 ガラス張りの床や大量に設置されたエレベーターやエスカレーター。あちらこちらに吊るされたモニター等々、色々と目が回りそうな校内に翻弄されながらも何とか受験会場に辿り着くことが出来た。


 ……少しでも気を抜くと学校ってことを忘れてしまいそうだよな、ホントに。


 そしてしばらくシャーペンを回しながら、自分の席で待機していると……ここの教師であろう試験監督のスレンダーな女性が、ガラガラっと教室に入って来て。


「えー、只今から入学試験を開始する。最初の問題から気を抜かないようにしっかりな」


 と言ってテストを配り始めた。


 そのテストを配っている間に俺は、電子黒板に書かれた試験科目と時間を眺めてみた。


『1.数学 9:30〜10:20 2.社会10:30〜11:20 3.理科11:30〜12:20 4.英語12:30〜13:20 昼休憩13:20〜14:20 5.国語14:20〜15:10』


 話には聞いていたが、どうやら数学から試験が行われるらしい。中々変わっているな。これも何か意味があるのだろうか?


「よし、全員に配られたな。それでは試験開始まで注意事項を読んでおけ」


 言われて俺はそれに目を通してみるが、特におかしなことは書かれていなかった。まぁ当然っちゃ当然だよな。


 そして数分後。試験監督の「始め」の合図で、受験生が一斉に紙をめくる音が聞こえてくる。


 俺もみんなと同じように問題用紙をめくって解こうとしたのだった。


 ……まぁ、この時は問1から度肝を抜かされることになるなんて、全く思わなかったんですけどね。


「……」


 問1『1+1を解け』だと……?


 ──


 それから試験は順調に続いていって、最後の科目の国語に差し掛かろうとしている所だった。


 試験の内容は最初の数学の問題を除いては、普通のレベル……いやそれよりは少し上かもしれないが、それくらいの問題が立て続けに出題されていた。


 まぁ普通に手応えはあるが、最後も気を抜かずに頑張っていこう。


 そんなこんなで伸びをしていたら、長かった休憩時間も終わったようで。あの女教師が教室に入って来た。


「次は国語の試験だ。最後の問題まで気を抜かないようにな」


 と言いつつテストが配られ、さっきまでの要領で試験が開始された。


 ……国語も問題は至って普通だった。強いて変な点を上げるなのなら、漢字の問題が『騙す』とか『疑う』とか不穏な物が多かったということぐらいかな。


 そして最後の問題も解き終わり、俺が問題用紙を裏返すと……何やら小さな文字で、何か文が書かれてあった。


「んっ?」


 目を凝らしてよく見てみると。それが『ててえんうわえ゛かこたとくん』と書かれているのが分かった。


 何だこれ? 印刷ミスか何かだろうか?


「……」


 いや……それにしてはハッキリと書かれてあるし。それにあの女教師は「最後まで気を抜くな」と言っていたよな。


 まさか。最後の問題というのは、この国語の問題ではなくて……この謎の文字列とでも言いたいのか?


 ……あっ、ちょっと待て。確か最後だけじゃなくて、最初の数学の問題も「気を抜くな」って言ってたよな? 『1+1』なんて気を抜いても解ける問題なのに……


 というかそもそも、試験監督がこんなことを言うだろうか? 「気を抜くな」なんて受験生は言われるまでもないし。それにあの女教師は、そういうことを言うようなタイプではなさそうだったよな。


 だから……わざわざそうやって言うのは、きっと何かしらの意味があるってことだ。考える価値は充分にある。


 しかし……考えるにしても『1+1』と『ててえんうわえ゛かこたとくん』か……後者に至っては、言葉にすらなっていないし。


 うーんそれなら……これ。2つを組み合わせてみるんじゃないか? そう、例えば最初の答えを使ってみるとか……


「…………あっ」


 それに気がついてから俺の答えは早かった。俺はその文字列に『+2』をしつつ、シャーペンで答えを1文字ずつ書き上げていくと……


「……」


 ──意図的に隠された文章が浮かび上がってきたのだった。


 ああ、なるほどね。もしかしてこの学園は『学力』なんかじゃなくて、『ゲームの適性能力』を試験していたんだ。


 ははっ。全く、試験からゲームを入れてくるなんてな。流石にこれは俺も予想外だったよ。


 それでこの中で何人がこの暗号を解読出来るんだろうな……まぁ勘のいい奴ならすぐに解けるかもしれないけど。きっと少ないだろうな。


 そしてホッとした俺はシャーペンを置いて目を閉じ……試験終了時間までこっくり、眠り込むのだった。

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