第48話 大好きで、大嫌いなんだ。
(私、どうしちゃったんだろう。)
イオンと過ごした楽しかった日々は変わらないのに、今それを思い出すと胸が張り裂けそうになる。
(楽しかった、はずなのに…。)
瞬きをすると涙がつぅっと頬を流れた。
(今頃桃香ちゃんって子と仲良くしてるのかな。手を繋いで、一緒に買い物して、それで…。)
想像をするだけで辛い。失恋がこんなに辛いなんて知らなかった。
(イオン…。)
心の中で呼んだその時、玄関のドアが開いた。
「梨子ちゃん!」
「イオン…?」
一番会いたいひとが、今まさに目の前にあった。
「その顔、どうしたの…?デートは…?」
「鞍馬と喧嘩した。デートなんて嘘だよ、梨子ちゃん以外の人となんてしてないしこれからもしない。」
「嘘…?じゃあ、今まで冷たかったのは?喧嘩って、なんで…?」
梨子の頭は疑問しか無かった。
「今まで冷たくしてごめん…。」
今まで見たこと無いくらいパンパンに腫れた顔で、イオンは梨子に頭を下げた。
「…分かった。とりあえずケガの手当しよう…?」
「梨子ちゃん…。熱出て辛いのに、ずっと冷たくしてた僕に優しくしてくれるの…?」
「だって、痛そうだし。」
「…ありがとう。」
梨子が優しい人である事を再認識したイオンだった。
「やっぱり梨子ちゃんは優しいね。」
「何言ってるの。そんなボコボコの顔で帰ってきたら誰だって心配するわよ。」
「…そうじゃなくて。」
「え?」
「自分のことより相手のことを優先する梨子ちゃんが優しいって言ってるの。」
「そうかな。」
「…僕ね、梨子ちゃんのそういう所が大好きで、大嫌いなんだ。」
「…。」
「いつも梨子ちゃんは自分をすり減らして相手のために行動する。僕はそんな梨子ちゃんが心配で人間になった。」
「イオン…。」
「人間になって、梨子ちゃんが気を使わなくても良いように守ってあげたかった。梨子ちゃんが我儘言えるような環境を作ってあげたかった。」
イオンは発熱で汗ばんだ梨子の前髪を掻き上げた。
「でもいつの間にか僕の願いばかり叶えてもらっていることに気づいて。結局梨子ちゃんに負担ばかりかけているんじゃないかって思ったんだ。」
「そんな事…。」
「だから離れる方が梨子ちゃんの負担が減るんじゃないかって。…でも鞍馬に怒られたよ。”間違ってる”って。」
「そう…それで…。」
「あはは。だからってこんなにボコボコに殴んなくてもいいのにね(笑)」
「…ねぇ、イオン。」
「うん?」
「前に聞いたかもしれないけど、イオンが人間である期間って決まってるの…?」
ようやく戻ったイオンの笑顔が固まった。
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