第49話 この話はおしまい!

「前に聞いたかもしれないけど、イオンが人間である期間って決まってるの…?」


 和らいだ心に緊張が走った。

 予め覚悟を決めて帰ってきたのに、いざ梨子に真実を打ち明けようと思うと中々口が開かなかった。

 しばらくの沈黙の後、イオンは振り絞るように答えた。

「…うん。実は。」

「やっぱりそうなんだ。…なんとなくね、そんな気がしてた。」

 梨子は椅子に腰を降ろしながら続けた。

「イオン、日に日に寂しそうに遠くを見つめることが多くなっていたから。」

「えっ、そ、そうなの?」

「ふふ、無意識でやってたら覚えてないよね(笑)。…だからね、なんとなく、イオンが何処かへ行っちゃうんじゃないかって怖かった。今回他に”気になってる子が出来た”って言われた時は、本気で信じちゃったもん。」

「…ごめん。」

「いいよ。でも、もう二度とあんな嘘つかないでね。すごく悲しかったから。」

「…うん。」

「じゃあこの話はおしまい!」

 梨子は手を大げさにぱちん、と叩いて話を締めた。

「安心したらお腹へっちゃった。御飯作るね!」

 熱が出ていることを忘れていたのか、勢いよく立ち上がろうとして梨子はふらついた。

「!」

 既の所でイオンが抱きかかえた。

「もう、梨子ちゃんは今病人なんだから安静にしてなきゃだめだよ。」

「えへへ。」

「僕が作るよ。出来上がるまで寝てて。」

「ありがとう。」


 イオンは冷蔵庫を空け、中身を確認した。

「…。」

 結局余命のことは打ち明けられなかった。安心した彼女を、再び不安に晒すことが出来なかった。

(僕があと半年で死ぬなんて知ったら、梨子ちゃんはどう思うだろう…。)

 考えただけで胸がギュッと苦しくなった。

(せっかく仲直りしたんだ、楽しい思い出を残さなきゃ。)

「よーし!明石焼き作っちゃうぞー!」

「明石焼き?よく知ってるね。」

「うん、前に鞍馬が”たこ焼きに似た旨いものがある”って教えてくれたんだ!」

「へぇ、鞍馬さんが。それにしても、ほんと仲良くなったねぇ。」

「まぁね。あ、鞍馬も呼ぶ?梨子ちゃんさえ良ければだけど。」

「勿論良いよ。私から連絡入れておくね?」

「よろしく〜!」



”イオンが明石焼き作ってくれてるよ!一緒に食べよう”


 梨子からの連絡を見て鞍馬は安堵した。

「とりあえず、仲直りはしたようだな。」

 ”了解”とだけ返し、工具を片付けた。


「おっかえり〜!」

 鞍馬が玄関を開けると、イオンが元気よく出迎えた。

「お前、猫のくせにさっぱりした性格だな。」

「それ褒めてんの?貶してんの?」

「勿論褒めてんだよ。」

 二人のやり取りに、梨子は思わず笑みがこぼれた。

「ふふ。仲直りしてるみたいで良かった。」

「それはこっちの台詞。」

「ごめんね、私達のことで心配かけちゃって。」

「別に…。」

「鞍馬は”僕達”じゃなくて、”梨子ちゃん”が特に心配だったみたいよ?」

 イオンはニヤニヤしながら鞍馬の言葉に付け加えた。

「馬鹿言え!」

「え?…あぁ、体調の事ね。お陰様でもう大丈夫、ありがとう。」

「いやっ…まぁ…、うん。」

 鞍馬は彼女の勘違いを訂正しようか迷ったが、杞憂で済んだことを掘り返すつもりも無いので飲み込むことにした。

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