第46話 鞍馬を見てたら身についたよ。
この日の夕食はやけに静まり返っていた。大好きな卵焼きが出ているのに、はしゃぎもせずに黙々と食べるイオン。そして元気のない梨子。鞍馬は、なんとも言えない居心地の悪さを覚えた。
「…お前ら、喧嘩でもしたのか?」
「え?なんで?」
「いや、だって静かすぎるだろ。梨子だって元気ないし…。」
「あ、わ、私はちょっと疲れてて…ごめんね、なんか気を使わせちゃって。気にしないで。」
はは、と力なく笑う梨子は気にせずには居られないくらいに憔悴している。
「…話したくないならいいけど、無理するなよ?」
「…うん。ありが、とう…。」
声を震わせながら俯いた梨子の肩は、強張っていた。必死に泣かないようにしているようにも見える。
「……。」
鞍馬はイオンの方を見る。イオンは、そんな彼女を見ようとせず、ただひたすらご飯を口に詰め込んでいた。
「………。」
これ以上何も言えず、鞍馬は乱暴に頭を掻きむしってから食事に戻った。
食事を終えた鞍馬は長居はせず、挨拶をして玄関に向かった。
「ごちそうさま。今日も美味かったよ。」
「今日はごめんね、なんか雰囲気悪かったよね…。」
鞍馬はチラッと部屋の奥でテレビを見ているイオンを見て、声を潜めた。
「…本当に大丈夫なのか?」
もしかしたら、イオンの寿命のことを知ったのかも知れない。だがそれを聞くにも、もし知っていなかった場合のことを考えると聞けなかった。
「…イオンね、他に好きな子ができたんだって。」
「は!?」
思わず大きな声が出てしまった。イオンがビクッと小さく飛び上がった。
「な、何?」
「お前…!!!」
帰ろうとしていた鞍馬はドスドスと部屋に上がりイオンに掴みかかった。
「ちょっと鞍馬さん!!!れ、冷静になって!!」
「冷静になってられるか!イオンてめぇふざけんじゃねぇぞ!!!」
「私なら大丈夫だから!!ね、お願いだから乱暴しないで!!!」
必死にイオンをかばう梨子。鞍馬は見ていられなくなった。
(なんて言えばいい?イオンのことだ、どうせ嘘に決まっている。だからって、梨子をここまで傷つけるのは許せねぇ…!)
「くっ…」
イオンは掴まれながらも抵抗せず、ただ鞍馬を見つめるだけだった。
「…いつの間にポーカーフェイス練習したんだよ。」
「鞍馬を見てたら身についたよ。」
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