第45話 …本気で言ってるの?
木々の葉が全て落ち、木枯らしが吹く頃。梨子の違和感は核心に迫っていた。
(気のせいじゃない。イオン、私から距離を取ろうとしてる…。)
あんなに梨子にべったりだったイオンが、今では手すら握ろうとしない。それどころか、こちらから触れようとすると避けるくらいだった。
「…イオン、なんか最近冷たくない?」
「え?そう?」
「そうだよ。…手も握らせてくれないし。」
「……。」
イオンは一瞬困ったような寂しい表情を浮かべたが、直ぐに冷たく返した。
「…猫って、一度狩った獲物には興味を示さないんだよね。」
「えっ、それってどういう…?」
「鈍いなぁ。梨子ちゃんはもう手に入ったから、興味薄れちゃったんだよね。」
「っ!」
イオンは梨子の表情を見もせずに続ける。
「今鞍馬の反対隣の子が気になってるんだ。あの子、
先日「ああいう子嫌い」と言っていた女の子を、今は気になるという。梨子はイオンの考えていることが分からなくなった。ついこの間まで恋人で、とても仲が良かったのに。
「…本気で言ってるの?」
「冗談言ってどうするの?僕は本気だよ。今度、デートに行こうって誘ったんだ。勿論、おっけーもらった。」
「…そ、そう…そっか…。」
「…怒らないの?……それとも呆れた?」
「…そんなんじゃない。…私は、イオンが好きだから。だから…イオンが幸せならそれでいいよ。」
「…っ。」
今にも泣きそうな顔で梨子はイオンを見つめ、震える唇をなんとか持ち上げた。
「…今まで、ありがとう。」
「……。」
イオンは爪が食い込むほどぎゅっと拳を握った。
(駄目だ。気持ちを抑えるんだ…。)
「…こ、これからなんだけどさ。その、タダで住まわせてもらうのも悪いし、モデルの仕事始めようと思う。前に一回やった写真が好評らしくて、今度お店の看板に僕を起用したいって話があるんだ。それで…」
イオンはこれからのことを淡々と話していたが、梨子の耳には届かなかった。口ではイオンの幸せを祈りながらも、本心では悲しくて仕方なかった。
「えっと、ごめん。今日は頭が追いつかないから、これからのことはまた少しずつ教えてくれる…?」
「あ、うん、ごめん…。」
「…桃香ちゃんとのデート、楽しんできてね。」
「…うん。」
本当はデートの約束などしていない。桃香という女子大生のことも、なんとも思っていない。だが梨子が自分への気持ちを諦めさせるには、理由がいる。イオンの、不器用ながらに必死に考えて出した答えだった。
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