第43話 あんたはそんな事しない。

 時計の針は12時を指し、流石にお開きにしようと話になり、鞍馬は隣の部屋に帰って行った。

「鞍馬めー、勝ち逃げされた!」

「あはは。イオンはもうちょっと表情を変えないようにする必要があるね。」

「…そんなに僕って分かりやすい?」

「うん。だって、ジョーカーに手をやった途端すごい顔するんだもん(笑)」

 ババ抜き中のイオンの表情を思い出し、洗い物をしていた梨子はくすくすと笑った。

「…普段でも分かりやすい?」

 急に真面目な顔をするので面食らった。

「どうしたの?」

「いや。……普段から考えてることバレバレだったら恥ずかしいなって思って?」

 大げさにモジモジしながらイオンはふざけた。

「全部が全部丸分かりって訳じゃないよ。私はイオンじゃないし。…分かったら良いなって思うときさえあるよ。」

「…そう?」

「うん。」

「そっか!ならいいや♪」

 安心したようにイオンはベッドにダイブした。

「梨子ちゃんもおいで…?」

 仰向けのまま顔をこちらに向け、手招きした。梨子は、誘われるままイオンに覆いかぶさった。


***


「ちょっと、話がある。」

 夕方、梨子が夕飯を作りに部屋に戻った後イオンは鞍馬を呼び止めた。

「なんだ?彼女と距離近過ぎるってか?」

 真面目な話があまり好きではない鞍馬は、茶化すように言ったが、イオンには「違う」と流されてしまった。

「…急にこんなこと言って信じられないと思うけど。」

 イオンは、あの日梨子が助けた白猫が自分であることを話した。

「覚えているでしょ?あんたんちにお邪魔したんだし。」

「…覚えてはいるけど、そんなおとぎ話みたいな話をはいそうですかって信じるやつは馬鹿だな。」

「…猫の特徴覚えてる?」

「おう。真っ白で、左右目の色がちが…」

 その特徴そのものの青年が、目の前に立っていた。

「…いやいや、でもカラコンとかあるし。髪も脱色すればいける。コスプレってやつだろ?」

「じゃあその猫が梨子ちゃんちに居ないのはどう説明する?」

 何度か夕飯を食べに行っているので、猫のイオンが居ない事は鞍馬も気にはなっていた。拾ってくるくらいだから、捨てるような人には思えない。死んだとなれば、自分の耳にも入ってくるはず。今までは警戒して姿を隠しているのだとばかり思っていた。

「…仮にその猫が人間になったとして、お前は俺になんでそれを打ち明けたんだ?マスコミにネタ売るかもしんね−ぞ?」

「あんたはそんな事しない。」

「言い切るね。」

「人を見る目は持ってるからね。」

「そーかいそーかい。」

「…打ち明けたのには、理由があるんだ。」

 夕日で赤く染まった床を見つめながら、イオンは言った。

「…僕は、寿命と引き換えに人間になった。」

「寿命と?…何年引き換えた?」

「全部。…代わりに、人として一年間過ごすことを許されたんだ。」

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