第42話 もっかい!

「あっ!ちょっと、それ一番大きいじゃがいも!」

「芋ならまだまだあるだろ。お前は口が小さいんだから欲張らずに他の芋食え。」

 そう言って鞍馬は大きなじゃがいもを一口で頬張った。

 二人で囲む食卓も穏やかで楽しかったが、人数が増えると更に賑やかさが加わって良いものだな、とイオンと鞍馬の様子を見ながら梨子は思った。そして、この時間がもっと続けばいいのに、とも思った。

「梨子ちゃん、手が止まってるよ?」

「あ、うん。ちょっと考えごとしてた。」

「なーに?僕には言えないこと?」

「一人より二人、二人より三人だなって思っただけ!イオンも楽しそうだし、これからも三人で夕食を囲むのも良いんじゃないかなぁって。」

「……。」

「俺は助かるけど、イオンは嫌なんじゃないか?彼女との時間減るし。」

「…いや、いーよ。ご飯は皆で食べた方が美味しいし、梨子ちゃんがそれを望むなら!」

 イオンの意外な言葉に二人は驚いたが、鞍馬は少し納得したように視線をを食事に戻した。

「イオンが、そう言ってくれるなら…。ほんとに良いの?」

「うん。」

 イオンは眉を下げて笑った。梨子は、また胸がチクリと痛む。

「…遠慮してる?」

「え、どこが?っていうか、遠慮って何ってレベルだけど(笑)」

「…そう。」

 先程の賑やかさが失せ、しん、と気まずい雰囲気が流れる。


「…卵焼き、確かに美味いな。」

 沈黙を破るように、鞍馬がまた大きな口で卵焼きを二切れ同時に食べた。

「あっ!また一気食い!!」

「モタモタしてたら全部食うぞ。」

「だめー!!!」

 鞍馬のおかげでまた明るさが戻ってきた。鞍馬は、普段多くは話さないが明るい人なのだな、と梨子は思った。


 食後、鞍馬の持ってきた梨をデザートにしながらトランプをして遊んだ。二人では出来なかった「ババ抜き」を初めてやったイオンは、見事にジョーカーに好かれ負けていた。

「もっかい!もーいっかい!!」

 悔しそうに再戦を求めるも、またジョーカーに好かれていた。

「お前顔に出過ぎ。それじゃあバレバレだわ。」

「そ、そうかな…?」

「もっと俺を見習え?ポーカーフェイス。」

「鞍馬のは無表情っていうんだよ。」

「どこが。こんなに表情豊かなのに。」

「ウソつけ!」

 案外この二人は相性が良いのかもしれない。だがそれを言うとイオンは怒るだろう。梨子は言葉にはせずに、二人を見守った。

「もっかい!これで最後!さ、梨子ちゃん始めよ!」

「はいはい。ほんとに最後になるかなぁ?」

「梨子ちゃんまで!くそー、次こそ勝ってやる!」

 この夜は、イオンの「もっかい!」が何度も響いた。

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