第41話 定番なのに久々なのか?

 家に帰った梨子は、鞍馬の希望していた肉じゃがを作ることにした。

「肉じゃがなら家にある材料で出来るから、他は何作ろっかなぁ。」

 ふと、パワハラ上司から逃げてきた次の日にイオンが作ってくれた卵焼きを思い出した。

「……。」

 梨子は、冷蔵庫を開けて卵を取り出した。

(イオンは私の卵焼きで元気出るかな。)

 最近のイオンは、はたから見るといつも通りなのだが、梨子から見るとどうしても元気が無いように見える。寂しそうにしているのも気になるし、どうにか元気づけてあげたかった。


「ただいまぁ〜。つっかれたぁ。」

 イオンが作業着のまま玄関に突っ伏す。

「おかえり。ご飯もうちょっとかかるから、先にシャワーしておいで。」

「了解〜。鞍馬・・もシャワーしてから来るってさ。」

 いつも「あいつ」とか「あんた」としか呼ばなかった相手を、今日は名前で呼んだイオンに驚いた。

「いつの間にそんな仲良くなったの。」

「それはお互い様でしょ。」

 梨子の問いかけに短く返し、シャワーに行ってしまった。

「お互い様。」

 イオンの言葉に、梨子はチクリと胸が痛む。

(もしかしてイオン、ヤキモチ妬いてたから元気なかった…?)


 イオンがシャワーから上がってから少しして、チャイムが鳴った。


ピンポーン


「あ、きっと鞍馬さんだ。イオン出てくれる?」

「ほ〜い。」

 イオンが玄関のドアを開けると、梨を持った鞍馬が立っていた。

「あ!梨!!」

「反対側の隣からのおすそ分けで貰った。」

 鞍馬の部屋のもう片方隣の部屋は、大学生の女の子が一人暮らししていた。たまに会うが、自分や鞍馬にはニコニコとするのに対し梨子にはそっけない態度を取るのでイオンは苦手だった。

「あの子、男には愛想いいよね。」

「そんな事言わないの。その子と鞍馬さんと仲がいいおかげで梨が食べられるんだよ?」

「でも梨子ちゃんには挨拶すら返さないじゃん。僕、そういう子嫌い。」

「よく言うよ、最初お前も俺のこと嫌ってただろ。」

「それは梨子ちゃん取られるかと思って警戒してただけ。」

「まぁとにかく鞍馬さんとイオンが仲良くなってくれて私は嬉しいよ。」

 梨子は出来上がった肉じゃがを食卓の真ん中に置いた。

「わぁ!おいしそう♡」

 梨子の手料理は毎日食べているが、毎回イオンは同じテンションっで喜んでくれる。ちょっと失敗した料理でも、同じく喜んでくれるが、食べた後は正直に「美味しくないね」と言う。そんな正直さと気遣いが出来るイオンが梨子は好きだった。

「はい、これは我が家定番のだし巻き卵〜。」

「やったー!久しぶりだ!!」

 イオンは肉じゃが以上に喜んだ。

「定番なのに久々なのか?」

「いくら好きでも毎日食べたら飽きちゃうでしょ?」

「…俺は毎日同じメニューでも平気かな。」

 鞍馬の知らなかった一面を知り、梨子とイオンは顔を見合わせた。

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