第39話 猫の気まぐれってやつだよ。

 あれから無言のままバズに揺られ、自宅近くのバス停に到着した。梨子は先程のイオンの言葉が頭から離れなかった。


「…鞍馬あいつは生まれたときから人間で、ガタイが良くて、これからも人間だから。」


(どういう意味であんな事言ったんだろう。私の質問にも答えてくれなかったし…。)

 アパートに近づいてくると同時に、鞍馬のバイクの音が聞こえてきた。今はなんとなく会いたくない相手ではあったが、今朝の見積書のお礼がまだだったので彼に声をかけた。

「こんばんは、鞍馬さん。お仕事お疲れさまです。」

「あぁ、どうも。…そっちはデート帰り?」

「そう。朝”みつもりしょ”くれてありがとう。」

 梨子が答える前に、イオンが答え、そしてお礼も言ってくれた。バスでの事といい、どうもおかしい。

「いや、いいよ。…それよりイオンあんた、俺と喋る気になったんだ?」

「猫の気まぐれってやつだよ。…これからも梨子ちゃんのこと助けてあげて。…ください。」

 そう言うと、イオンは梨子の手を引っ張って自宅に急いだ。

「あっ、ちょっと…。じ、じゃあまた!」

「…おう。」

 半ば引きずられる形で自宅の玄関に吸い込まれていった梨子を見ながら、鞍馬はため息を吐いた。

「…仲が良いこった。」


 玄関の扉を閉めたと同時にイオンは振り返って梨子に口付けた。

「んぅっ」

 力強く抱きしめ、唇を何度も重ねた。梨子は、様子のおかしい彼が心配だったが、どうすることも出来ないので彼に身を任せた。イオンは重ねた唇を話さないまま梨子を抱きかかえ、ベッドに向かった。そのまま倒れ込むよに梨子にのしかかり、いつもとは違って荒々しく服を脱がしにかかる。

「んっ、ちょっと…イオン…っ?」

 梨子の言葉が届いていないのか、無視したまま続けるイオン。噛み付くようなキスに変わり、乱暴に胸を掴む。

「痛っ…」

 愛撫なんて優しいものではない。本当の意味で食べられるかと思う程激しく、そして乱暴に貪られた。梨子は痛みを感じつつも、イオンを拒むことは出来なかった。抵抗することなく、イオンの気の済むまで体を預けた。


「…ごめん。」

 一通りの事が済んで暫くしてから、イオンは一言だけつぶやいた。

「ううん。…でもイオン、今日はなんだか変だよ。いや…今日だけじゃない、最近ずっと上の空っていうか、上手く言えないけど…、どっか行っちゃうみたいな雰囲気を出してるっていうか…。」

「……。」

 イオンは暫く沈黙した後、「気のせいだよ。」とだけ答えた。

 空はもう暗く、月の光が窓から差し込んでいた。彼の真っ白な髪が、淡い月光を反射してキラキラと輝いていた。

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