第35話 僕はいつでもハッピーだよ♬

 改札を出てすぐに出迎えてくれたのは、大きなマンボウだった。

「わぁ、おっきいね。これもおさかな?」

 マンボウを見たことがなかったイオンは目を丸くして指をさした。

「うん。魚だよ。マンボウはこう見えて弱い魚だから、ここまで大きく慣れるのはほんの一握りなの。」

「そうなの!?皆が皆大きくなれるわけじゃないんだね…。」

 感慨深そうに改めて目の前を泳ぐ魚を見つめた。

「…長生きしてネ。」

 次のブースに向かう際、イオンはマンボウに向けて手を降った。一見可愛い仕草なのだが、表情が何処か寂しそうだった。

「……。」

 今日はやけにイオンの言動に振り回される。さっきまで楽しそうにしていたのに、何故そんな表情かおをするのか。梨子には分からず、先程からチクチクと胸が痛い。

「ねぇ、イオン?」

「うん?」

「その…今日はやけに寂しそうな顔をするね?」

 私の言葉に一瞬眉を動かすが、彼はいつもの調子で答えた。

「寂しくなんかないよ〜!さっきのは、マンボウが弱いのが可愛そうだなぁって思っただけ。梨子ちゃんと居れば僕はいつでもハッピーだよ♬」

「…それなら良いんだけど。」

 私が何かに感づかないようにするためか、イオンは急かすように手を引っ張った。

「早くつぎつぎ!!外に出るみたいだけど、陸にお魚が居るわけじゃないよね?」

 マンボウを見た後は、一度外に出る仕組みになっているようだ。手をつないだまま外に出てすぐに、二人は目の前の黄色い建物が気になった。

「何この黄色いの…?」

 梨子はパンフレットを見てイオンの問いに答える。

「こんぺいとうハウスって言うみたい。この中にもお魚が居るんだって!」

 中に入ると、お菓子の金平糖そっくりの、少しとぼけた顔の小さな魚が水槽に沢山入っていた。

「なにこれ!コロコロしてて可愛い。」

 ふふ、と笑い、イオンは水槽に顔を近づけた。コンペイトウは彼に気づいているのか居ないのか、目線が合わないまま吸盤で流木にしがみついていた。

 小さな深海魚を見た後、イルカのプールに向かった。プールに着くと、壁面を四角くくり抜いたガラスから、絵画のようにイルカを横から見られる作りになっていた。

「おぉ〜!いるか・・・だぁ!こんなに大きいんだね!でも顔は可愛い!!」

 サービスをするように何度も目の前を泳ぐイルカに、イオンはすっかり心を奪われたようだ。暑さも忘れて見入っている。

「飲み物買ってくるから、もう暫く見てて。」

「うん、ありがとう!」

 少し離れて振り向くも、未だに目を輝かせてイルカを見ている。梨子は少しホッとして売店に向かった。

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