第34話 鼻先日焼けしてるのにイケメンだね

 流水で丁寧に足の砂を落としてから、イオンの念願である水族館に向かった。海水浴場からそんなに離れていないが、長く緩やかな坂になっているので、夏の暑さの中を徒歩で向かうのは辛かった。

 イオンは海の家で購入したペットボトルのお茶を、こまめに飲んで乾きを潤していた。

「梨子ちゃん、水分取らなくて大丈夫?さっきから僕ばっかり飲んでる気がする。」

 初めての暑さに悶ながらも、大好きな彼女のことを気遣ってくれている。そんな彼がどれだけハイスペックな男性か、梨子は噛み締めていた。

「ありがとう、少し貰おうかな。」

 体力をなるべく消耗しないように会話は短くし、目的地へと向かった。大きく弧を描いたカーブを抜けると、ようやく建物の全貌が現れた。

「わぁ…。テレビで見た以上におっきい!!!」

 イオンは少年のように目をキラキラ輝かせ、先程までの疲れはどこかへ捨てたようにはしゃいだ。梨子は額の汗を拭い、日陰でもあるチケット売り場へ彼の手を引いた。

「売店でなにか買うの?」

「うん。水族館は中を見て回るのにチケットを買わないといけないの。」

 そう説明しながら大人2枚分のチケットを購入した。

「お金かかるのか…。今からお店開くために貯めなきゃなのにごめん…。」

「そ、そんなこと気にしなくて良いんだよ〜!!水族館は私も行きたかったし、イオンが楽しんでくれれば嬉しいよ。初めてなんだから、お金のことは気にしないで楽しもう?」

「…うん。ありがとう!」

 イオンはきゅっと口を結んで梨子の手を握った。

「よ〜し、余すことなく楽しむぞぉ〜!!」

「あ、でも休憩はちょこちょこ挟もうね?」

「勿論。梨子ちゃんも楽しくなきゃ意味がないからね♡」

 振り向きざまにウインクをしたイオンは、推しキャラだった・・・イヴ様をとうに超えてイケメンだった。

「…鼻先日焼けしてるのにイケメンだね、イオンは。」

 キュンが止まらない今日のデートは、きっと一生の思い出になるだろう。梨子はそう確信した。

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