第32話 勿論、青いよ♡
日陰のない海沿いの道を暫く歩いていると、砂浜に人気が多くなり、そのうち建物が見えてきた。
「やった、日陰だ!!」
人間の身体に夏の暑さを見に染みて感じたイオンは、まるでオアシスを見つけたようにはしゃいで梨子の手を引っ張った。
「早く行こう!」
暑さを舐めてかかっていたイオンは、一刻も早く水分と日陰の確保をしたかった。梨子は苦笑しながらも、手を引かれるまま駆け足で海の家へ向かった。
「この家、壁が一部無いね。」
手で仰ぎながらイオンは店内を見渡した。
「海の家は大体そうだねぇ。海水浴に来てる人たちの休憩所でもあるから、砂を綺麗に掃き出しやすいようにするためかも。」
ふぅん、と然程気にする様子もなく、「早く飲み物こないかな」とばかり呟いている。
「おまたせしました、かき氷のイチゴとブルーハワイです。」
店員が赤と青のかき氷を持ってやってきた。飲み物を期待していたイオンはあからさまにがっかり。
「えぇ、僕お茶が欲しかったんだけどなぁ…。」
しょんぼりしながら初めてのかき氷を見つめる。どうやらこれが飲み物よりも体を冷やす物だとは気づいていないようだ。
「ふふ。まぁ、騙されたと思って食べてみなよ。赤と青どっちがいい?」
梨子は2つのかき氷を並べてイオンに選ばせた。
猫は通常、赤い色は認識しづらい。逆に、青、緑、黄色、白、黒などはしっかり見える。しかし今のイオンは人間。赤い色も分かるはず。
「んー、青!」
「あれ、赤は見えない?」
首をかしげる梨子に、イオンは頭を振った。
「ううん。赤はきれいな色だから、梨子ちゃんに食べて欲しい。それに、青は涼しい気分になるから僕はこっちがいい!」
無邪気に笑うイオンにキュンとしたのは言うまでもない。梨子は「そ、そう。」と短く返してかき氷に隠れるように体を小さくした。
初めてのかき氷をひとすくい口にしたイオンは目を丸くした。
「…!これ雪だ!!」
感動しながらパクパクと食べ勧めていたが、急に手を止めて悶絶し始めた。
「ゔぅ、頭の横らへんがズキズキする…痛いぃ…っ」
早く食べすぎたせいで、三叉神経が刺激されたらしい。イオンは頭を抱えながらうずくまる。
「ぼ、僕死んじゃうの…?いくらなんでも早すぎるよ…」
消え入りそうな声で遂に机に突っ伏してしまった。
「大丈夫だよ、かき氷食べると大体の人がそれ経験するから。だから死んだりしないよ、安心して。」
「…ほんと?」
イオンは涙目で梨子を見つめた。梨子はそんな彼の仕草でさえ胸がキュンと締め付けられる。
(うぅ、可愛い。猫とは違った可愛さ…母性本能くすぐられる…。)
動揺を隠すように柔らかく笑い、イオンを安心させた。
「ほんと。だから頭キーンってならないようにゆっくり食べるのよ。」
「わかった。ゆっくり食べる!」
頭痛から開放されたのか、イオンは元気を取り戻してにっこり笑った。
「あ、そういえばかき氷にはもう一つ面白いことがあってね?」
「?」
梨子はイオンに控えめに舌を出して見せた。
「
「!ホントだ、赤い!!…てことは僕は?」
んべ、と舌を出しながら手で四角を作り、梨子に写真を撮るよう促した。
「勿論、青いよ♡」
彼の横に並び、自分も舌を出してスマホで二人の姿を写真に収めた。
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