第29話 天然にエロい。

 不動産屋さんを後にし、部屋に帰ってきた私達だったがイオンが一向に口を開かない。

「イオン〜?」

「……。」

 ずっと不機嫌そうに目を合わせてくれない。

「ねぇ、もしかしてヤキモチ妬いてる?」

「……。」

 頬を指で突くも叩き落とされ、お腹をくすぐっても無反応。

「ねーえ。そんな怒らないでよ…。」

「……。」

 まだ押し黙るイオンに、私は賭けに出る。

「…一緒にお風呂入ろ?」

「…っ。」

 よし、ちょっと反応あり。

「…洗いっこする?」

「…………ぅん。」

 ようやく心を開いてくれた。…代償は大きいけれど。


 物件見学で汗をかなりかいた私達は服を脱ぎ、一緒に浴室へ。涼しくなるためにお風呂にはミントオイルを垂らした。

「一緒にお風呂に入るのって初めてだよねぇ〜。」

「…厳密に言えば、人間になってから一回あるよ。」

 髪を洗って振り返ったら裸のイオンが居た事を思い出す。

「あ、あれは一緒に入ったとは言わないよっ。イオンが忍び込んだに近い!」

 数ヶ月前の私は、今の関係なんて想像もつかなかっただろうな。

「…で?洗いっこするんだよね?」

 後ろから密着して耳元で囁くイオン。

「…っ、う、ん…。」

「じゃー僕から先に洗ってあげるよ。沢山汗かいたし、早くスッキリしたいでしょ?」

 耳元で囁いたまま腕を伸ばし、ボディーソープを手に取る。手で軽く泡立てたかと思うといきなり胸へ手を伸ばす…。

「…っ」

 滑りの良くなった手でアンダーから先端に向けて絶妙な力加減でゆっくり押し上げる。

「あっ…」

 自分が思っている以上に大きな声が出てしまって焦った。声は浴室で反響し、いやらしくまた自分に返ってきた。

「…っ、ん…っ」

 鏡に映る姿が恥ずかしく、目を背ける。イオンは両手で執拗に私の胸を洗いながら、唇を背中へ滑らせる。ゾクゾクっと駆け巡る甘い感覚。下腹部がジンと熱くなる。

「…はぁっ」

 快感に身を委ねていると、急にイオンの手が止まった。

「はぁ、はぁ、……?」

「はい、キレイになったぁ。…洗いっこするんだよね?次は僕を洗ってよ。」

 イオンは鏡越しで意地悪く笑った。

「…ぅん…。」

 私はイオンと入れ替わり、ボディーソープを手に取る。その際、泡がついたままの私の体と彼の背中が密着してしまった。

「…!ご、ごめん…。」

「なんで謝るの?…気持ちいいからそのまま梨子ちゃんの体使って洗ってよ。」

「えぇ!?」

 それは流石に恥ずかしすぎる…!もじもじしていると、イオンが抱きしめてきた。

「!」

「…このまましちゃうのもありかな?」

 意地悪く呟き、私の体を軽く持ち上げた。

「ち、ちょっとまったぁ!!」

「うん?」

「あ、洗う、洗うからっ!」

 慌ててイオンから離れるが、イオンは特に気に触った様子もなくニコニコ笑っていた。

(ほ、ほんとに色欲旺盛というかなんというか…。)

 改めてボディーソープを手にとって泡立て、イオンの背中を洗った。

「体使ってくれないんだー…。」

「て、手だって体の一部でしょっ!」

 背中を洗い終わり、次は前を洗うことに。恥ずかしいので、前に回り込まずに後ろから洗うことにしたのだが、こちらの方が彼には刺激になったらしい。

「…っ、」

 ビクッと反応するイオンの体。後ろから手を伸ばして洗っているので、結局胸も彼の背中に当たっている状態だ。

「…梨子ちゃんってほんと、天然にエロい。」

「エロ…っ!?」

 イオンは徐ろにシャワーを出して二人の泡を流した。

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