第28話 頼もしいご友人ですね。
夏も盛りの暑い昼下がり、私達は手芸屋さんを実現させるための物件を探していた。
「んー、素朴な雰囲気にしたいけど、お客さんが来てくれないと商売にならないからなぁ…。」
提供された情報とにらめっこしている私に、イオンは一つ提案をした。
「難しいことは無視して、日当たり重視に考えてみるのはどう?猫が思わず日向ぼっこしたくなるようなさ。」
「なるほど、日当たりかぁ。」
「あ、それでしたらこちらなんかいかがでしょう?ご自宅からは少し遠いですが、価格も抑えられてますし、元は駄菓子屋さんだった場所なので地元の方たちにも馴染みのある場所です。」
担当の不動産屋さんが新しい紙を見せてくれた。
「おぉ!いいじゃんいいじゃん!ねぇ、見に行ってみようよ?」
私よりも何故かイオンがノリノリだったので、その敷地を見に行ってみることにした。
「こちらがその物件です。」
案内された物件は、古い木造の2階建てだった。
「…うーん。」
確かに日当たりもいいし、人通りも程々にあっていい雰囲気ではある。でも建物が古い。
「…お店として使うなら、大掛かりなリフォームが必須ですかね。」
「え、えぇ…。築40年は経っているので、耐震のことも考えますと必要になってくるかもしれません。」
「うーん…。」
土地の値段が安くとも、リフォームにどれだけかかるかによって話が変わってくる。今まで貯めてきたお金で足りるか計算していると、聞き慣れたバイク音が近づいてきた。
ブルルルル…
「…七海?と、彼氏?」
「鞍馬さん!」
作業着姿の彼を見るのは初めてで、塗料等が付いているところを見ると建築関係か…?
「…あんた、仕事何してる人?」
珍しくイオンから鞍馬さんに話しかけた。
「俺?俺は大工だけど。」
「「大工!!」」
思わず私とイオンは声が揃った。
「な、なんだ…?」
驚く鞍馬さんに、私は店を開こうとしていること、この土地を気に入っているがリフォームが必要なこと、費用が心配なことを早口で説明した。
「…なるほどねぇ。」
顎に手をやり、元駄菓子屋の建物を眺める。
「この建物の情報見せてもらえます?」
鞍馬さんは不動産屋さんに用紙を見せてもらい、何処かに電話をかけ始めた。
「お疲れさまです。…はい。築40年木造。シロアリは…大丈夫そうです。…はい。見積もりいつ出せます?」
(おぉ…、鞍馬さんが仕事している…!)
いつも出勤時とゴミ捨てのときくらいしか顔を合わせていない人の別の姿を見て少し感動していると、横に居たイオンが脇腹をつまんできた。
「!?」
「……。」
人前で、と恥ずかしがる私とは裏腹に、イオンは不機嫌そうに顔を背けた。
「見積もり出してくれるって。ただ、家の細かい箇所の状態にもよるから値段は前後する。安くて500、高くて2000くらいだと思ってて。」
いつもどおり淡々と答えて、鞍馬さんは「じゃ。」と言ってバイクで颯爽と走り去っていった。
「…頼もしいご友人ですね。」
「え、えぇ。今日職業知りましたけどね…。あと、すみませんがリフォームの見積が出るまで保留させて頂いてもいいですか…?」
「えぇ、構いませんよ。こちらの物件は皆さん立地は気に入っていただけるんですが、リフォームや建て替えで迷われるケースが多いので…。すぐには買い手はつかないと思いますから、ゆっくりご検討なさってください。」
「ありがとうございます!」
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