第10話 それが男の子だ…!

 梨子ちゃんに髪を綺麗にセットしてもらい、いざ楽しいデートへ出発!

 …といきたいところだったのだけれど、拾われてこの方動物病院にしか行ったことがなかった僕は知らない人の多さ、そして知らない場所への恐怖でアパートから数歩歩いただけで足が動かなくなってしまった。

「…大丈夫?」

 心配そうに覗き込む梨子ちゃん。この時やっとさっき彼女が言った言葉を思い出した。


”「イオンの服を買おうと思うの。…一緒に来れる?」”


 あの言葉は、外に出ても平気かどうかを心配する言葉だったんだ。気づくのが少し遅かったが、二つ返事で外に出たからには頑張らないといけない。それが男の子だ…!

「…大丈夫!ちょっと、びっくりしただけ。…すぐ慣れるから。」

 そう言いつつも体に力が入る。怖い。今は僕も人間なのに、どうして同じ人間が怖いんだろう。

 顔を強張らせる僕を慰めるように、梨子ちゃんが手を握ってくれた。

「…どうしても怖かったら言ってね?あと、町中では私の顔だけ見ると良いよ。…知ってる顔が目の前にあると落ち着くでしょ?」

 後半少し口を尖らせながら梨子ちゃんは言った。僕は知っている。照れくさい時、梨子ちゃんは少し不機嫌な素振りを見せることを。

 握られた温もりと彼女の言葉に救われた僕は元気を取り戻し、無事買い物デートに向かうのだった。


***


「あ、これ似合いそう!イオン、これ試着してみてよ♪」

 梨子ちゃんは僕以上にはしゃいでいた。言われたとおり彼女の選んだ服を着てカーテンを開けると、「似合うぅ〜♡」と目を輝かせていた。

「梨子ちゃん、自分の服を買うわけじゃないのにすごい嬉しそうだね?」

「えー、だって一生のうちにイケメンを着せ替えするなんて事そうそう出来ないでしょ?イオンは私が選んだ服なら何でも良いって言ってくれるから楽しくって♪」

 そう言って満面の笑顔で次に着せる服を選んでいた。

(外での梨子ちゃんの姿を見れて嬉しいなぁ。ちゃんとデートって感じに楽しんでくれてるし。)

 彼女の様子を目を細めて眺めていると、店員らしき人が話しかけてきた。

「あの〜、もしかして、モデルさんとかですか?」

「えっ?」

「いや〜、お客さんめちゃくちゃ格好いいから。もしフリーのモデルさんなら、うちの店のチラシのモデル頼まれてくれないかなぁ?」

(モデル?チラシ?何の事…?)

 知らない人に声をかけられただけじゃなく何かを頼まれてるこの状況が理解できなくて固まっていると、梨子ちゃんが慌てて駆け寄ってきてくれた。

「あ、ごめんなさい〜、彼あんまり日本語得意じゃなくて。どうしました?」

 店員らしき人は納得し、梨子ちゃんにさっき言ったような内容を話した。

「うちのチラシのモデルになってくれる人を探しててねぇ。彼、めちゃくちゃ格好いいからお願いできないかなと思って声かけたんだ。勿論、タダじゃない。ちゃんとギャラも出るよ。」

 彼の言葉を聞いていた梨子ちゃんはチラッと僕の顔を見て、暫く考える素振りをしてから答えた。

「彼人嫌いなんで、モデルさんみたいな表情を作るとか出来ないと思いますよ?」

「いや、もう服着てポーズ撮ってくれるだけで十分!!格好良ければどんな表情も様になるからさ!」

 何やら食い下がる店員。僕はモデル・・・というものを詳しくは知らないが、梨子ちゃんの発言の中にもよく出てくる単語で、それが美しい人に対してよくかけられる言葉だということは分かっている。

「…モデル引き受けたら梨子ちゃん嬉しい?」

「え?」

「梨子ちゃんのためになるなら、モデルやります。」

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