第9話 こんなに柔らかかったんだ…。
「さて。今日は土曜日なわけだけど。」
「うん。」
「さっきも言ったように、イオンの服を買おうと思うの。…一緒に来れる?」
梨子ちゃんが聞いた最後の一文を僕は深く考えずに答えてしまった。
「もちろん!梨子ちゃんとデート出来るなんて嬉しい♪」
「…それなら良かった。じゃあ、私支度してくるね。」
僕の口説き文句を華麗にスルーして、彼女はシャワーに向かった。
(…僕もシャワーした方が良いかな?)
脱衣所に赴き、服を脱いだ。浴室への扉を開けるとシャワーの温かい雫と靄が体を包む。梨子ちゃんは僕が入ってきたことに気づいていないのか、ワシャワシャと頭を洗っている。
(…気づいたら怒るかな。)
”いつになったら気づくでしょうゲーム”を一人で楽しんでいると、梨子ちゃんは頭の泡を綺麗に流し、トリートメントをつけてはまた流した。まだ僕に気づいていない。
(ふふ。猫のときもこうやって楽しんでたっけ。)
人間になってもこのゲームが楽しめるとは思わなかった。迂闊にも嬉しさから声が漏れてしまった。
「ふふっ。」
「!?」
梨子ちゃんは慌てて振り向き、キャーっと叫びながら僕に勢いよくシャワーを浴びせてきた。
「バカッ!変態!!なんで居るのよ!?」
「ごめんって!猫のときのゲームがしたくなっちゃって…!」
「どーでもいいから出てってー!!!」
ずぶ濡れのまま浴室から追い出された僕は猫のときの感覚で体を震わせた。でも思うように雫は払えず、頭からタラリと水が滴ってきた。
(うーん。確か梨子ちゃんはシャワーから上がったら
キョロキョロとタオルを探すと、ふかふかのバスタオルが棚に収められているのを見つけた。
「あ、これこれ!」
顔に当てると想像以上の柔らかさに癒やされる。
(わぁ…。猫の時は自分の毛でそこまで気持ちよさが分からなかったけど、こんなに柔らかかったんだ…。)
僕がタオルに顔を埋めているところに梨子ちゃんがシャワーから上がってきた。
「ま、まだ居たの!?」
「うん…、タオルが予想以上に気持ち良すぎて…。」
うっとりしながら梨子ちゃんの方へ顔を向けると小さめのタオルを投げられた。
「こっち見ないでっ!…それに早く体拭いて。風邪引いちゃう。」
「梨子ちゃんのそういう優しいところ大好きだよ。」
「い、いいから拭きなさいっ!!」
いつの間にか服を身に着けた梨子ちゃんが僕からタオルを奪うと、優しく頭の雫を拭き取ってくれた。
「…ドライヤー平気かな。」
ドライヤー。猫の時は煩くて嫌いだったけど、人間に鳴った今はどうだろう…?
「うーん、わかんない。やってみる!」
あまり深く考えずに挑戦したが、やはり駄目だった。すごい音と勢いよく出てくる風が怖くて、反射的に逃げてしまった。
「だだだだめだった…。」
「…これは慣れが必要かもね。」
ある程度予想していたのか、梨子ちゃんは苦笑して新しいタオルでもう一度僕の頭を拭いてくれた。
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