第8話 何この可愛い生き物…っ!
12時ちょっと前に朝食兼昼食を二人向かい合わせに囲んだ。
「梨子ちゃんの手作り料理、ずっと食べたかったんだぁ。」
うるうると瞳を輝かせながらイオンは料理を眺めた。いつもなんとなく作っている料理に対して感動しているイオンの姿はなんだかくすぐったい。
「別に、大した料理じゃないよ。簡単なものしか作れないし…。」
イオンはブンブンと首を振って否定した。
「
嬉しそうにそんな事言われると照れてしまう。イオンは待ちきれない、といった様子で「早く食べよう!」と急かした。
「「いただきます。」」
二人で手を合わせて食べ始める。イオンは人間になりたてなのでフォークを用意したが、それでも口に運ぶのは難しそうだった。
「あれ、落ちちゃう…。うーん、いつも見てたのに。難しいなぁ…。」
眉間にシワを寄せながら集中して鶏ハムを刺す。無事持ち上げられた事が嬉しいようで、得意気に私に見せてきた。
「ほら見て!ちゃんと刺さった!」
なんだか離乳食を食べている幼児のようで微笑ましく、心が和んだ。
「着替えの服買わなきゃね。その服しか持ってないんだよね?」
「うん、そうだね。女神が『裸はいけないでしょう』ってとりあえずでくれた服だから。」
「…流石女神様。」
裸でベッドに居たら例えイケメンであろうと流石に通報していたかもしれない。慈悲深い女神様に感謝しつつ、イオンの食事を見守った。
「あー美味しかった!」
イオンは口の周りを米粒だらけにして満足そうにお腹をさすった。
「イオン、お米いっぱい付いてるよ。」
微笑いながら彼に手を伸ばす。イオンは素直にこちらに顔を向け、米粒を取ってもらう。
「ありがとう。お礼しなきゃね!」
そういってグイッと近づいてきたかと思うと、私の頬を舐めた。
「に、人間は人の頬を舐めたりしないのっ!!」
舐められた頬を押さえて真っ赤な顔で彼から逃げた。
「むぅ…じゃあ人ならこういう時どうするの?」
「人なら?」
「うん。恋人なら。」
「…っ、まだ恋人じゃないでしょ!」
「さっきキスしようとしてたくせに。」
さっき。とは鞍馬さんが来る前のことだ。分かっていながら私は必死に誤魔化した。
「な、何の事?私キスしようなんかしてないよ?」
目線をずらし、食器を片付けようとする。自分でもわざとらしいと思うような誤魔化し方だ。いつから自分はこんなに嘘が下手になってしまったんだろう。
「……。」
私の下手な誤魔化しに対して責めるでもなく嘲笑うでもなくイオンは黙って私の姿を目で追った。
(そ、それはどういう感情〜!?何か言ってよぉ…。)
食器を洗い終えてもまだ無言のイオンに、私は観念して頭を下げた。
「…ごめんなさい。キスしようとしてました。」
「……。」
まだ無言のイオン。私は恐る恐る顔を上げると、そこには真っ赤な顔の彼の姿が。
「…えっ?なんで顔真っ赤なの??」
「さっき言った時に梨子ちゃんが誤魔化したから寂しかったんだけど、改めて認められるとそれはそれで恥ずかしくなっちゃった…。」
イオンは耳まで真っ赤な顔を隠すようにテーブルに突っ伏した。
(な、何この可愛い生き物…っ!)
いつもならカーテン裏に隠れる彼が、それすら余裕がなく手っ取り早く隠れるためにテーブルに突っ伏したのだ。他の人間がやってもそこまでキュンと来なかったかもしれないが、イオンと私の間柄だからこその破壊力があった。
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