第6話 猫らしくない

 目を覚ますと、夢と同じように品の良い顔が私を心配そうに見つめていた。でも髪は真っ白で、瞳はオッドアイだった。

「梨子ちゃん…大丈夫?」

「イオン…。」

 意識がまだぼーっとしているが、ここが現実世界だということはわかる。そして、自分が今どんな体制なのかも。

「…足、痺れてない?」

 私はイオンに膝枕してもらっている状態でベッドに横になっていた。

「全然。例え痺れたとしても梨子ちゃんの為なら平気。」

 私の額をそっと撫で、オッドアイを優しく細めるイオン。

「ふふ…。イオンって、猫らしくないね。」

「…は?」

「だって、猫ってこんな献身的なイメージ無いもん。自由っていうか、他所は他所、うちはうちって感じじゃん。」

「…もしかして、猫は冷たい生き物だとでも思ってる?」

 心外だ、というようにイオンは私を見下ろす。

「確かに猫は自由が好きだよ。誰かに縛られるのは嫌い。自分の思うときに行動したい。でもーーー。」

 イオンは私を抱き起こして額をコツンと当てる。

「好きな人の事は心配になるし、幸せにしたいし、自分のものにしたいって思う。」

「!」

 ギュッと抱きしめてイヴ様と同じ台詞を言う。

「…僕のものになってほしい。」

「…っ」

 夢でも同じ台詞を言われたのに、本家にときめかず飼い猫にときめいてしまった。

「い、イオン…。」

「梨子ちゃん…。」

 自然と近づく互いの唇。しかし、それを阻止するように呼び鈴が鳴った。


ピンポーン


「!!」

 我に返って慌ててイオンから距離を取り、駆け足で玄関に向かった。

「は、は〜いっ!」

 慌てて扉を開けると、呼び鈴の主は隣に住む鞍馬くらまさんだった。

「あれ?鞍馬さんこんにちは…どうしました?」

「いや、どうしたも…」

 鞍馬さんは心配そうに私を見つめた。

「なんか朝から言い争い?みたいなの聞こえるし、大きな物音はするし、かと思えば急に静かになるし…。もしかして強盗にでもあったのかと思って。」

「す、すみません…。えっと、朝から親と電話で口論中にGが出てパニックになってしまって…。」

 まさか飼い猫が人間になったなんて言えない。とりあえず当たり障りのない嘘を言って扉を閉めようとしたがーーー。

「待った。」

 鞍馬さんが乱暴に扉の動きを止める。

「!?」

「…Gにはホウ酸団子が効く。材料あるからちょっと待ってて。」

 ぶっきらぼうにそう言うと、自分の部屋に戻り直ぐに材料を持って戻ってきた。

「作り方はネットで調べればすぐ出るから。」

「ありがとうございます…。」

「…歳近いんだし敬語は要らない。んじゃ、なんかあったら遠慮せずに言って。」

 そう言うと鞍馬さんはガタイの良い体を翻し自分の部屋に戻っていった。

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