第5話 初っ端からクライマックスなんですが!?

(「恋愛対象として見てないなら、見させるまで」って…イオンってばそんなSっ子だったの…!?)

 混乱しすぎて突っ込むところが若干違う私だが、このままやられっぱなしでは分が悪い。とにかく人間の先輩として(?)ここは冷静に対処しなければ…。

「い、言っておくけど人間の女の子はそう安々と恋に落ちたりしないんだからね!?キスごときで心掴めたと思ったら大間違いなんだからっ!!」

 冷静に対処どころか、なんだかツンデレキャラが言いそうな台詞になってしまった。イオンはそんな私の動揺を感じ取っているようで、くすくすと笑った。

「知ってるよ。でもね?梨子ちゃん。僕はずっと傍で梨子ちゃんのこと見てきたんだ。どうされたら喜ぶかとか、苦手なことは何なのかとか。それって、好きな子を落とすにおいて有利だと思わない?」

 私なんかよりずっと彼の方が冷静だった。本命の相手にキスしたというのに全く動揺せずに更に私に詰め寄ってくる。

(初っ端からクライマックスなんですが!?)

 綺麗な顔で甘い言葉ばかりかけられ、私の頭はパンク寸前、というかパンクしていた。頭の処理が追いつかず、段々と意識が遠くなってきた。

「あれ、…梨子ちゃん?梨子ちゃん!!」

 私はそのまま崩れ落ちるように気を失った。


***


 どれくらい気を失っていただろう。私は鳥のさえずりで目を覚ました。

「ぅ……ん…?」

 ゆっくり体を起こすと、そこにはシャンパンゴールドの髪を風になびかせた、綺麗な顔の青年が私を心配そうに覗きこんでいた。

「…目が覚めた?」

 青年は紫色の瞳を優しく細め、品良く微笑んだ。

「い、イヴ様…!?」

 驚いて飛び起きると、私はどこかの平原に居り、一本の木の下でイヴ様に見守られる形で寝ていたようだった。

「ここは…!?」

「良かった。もう目覚めないかと思ったよ。」

 イヴ様は笑顔のまま私の手を取り、甲にキスをした。

「!?」

「君が居てくれるから、俺も頑張れる。…これからも一緒に居てくれるかな?」

 あの夜乙ゲーで聞いた台詞だった。

「俺は勇者として孤独に戦ってきた。…でも君と出会って愛を知った。誰かを護りたいと心から思った。」

 イヴ様はスマホに映された姿と同じ表情で私を見つめ、設定された台詞を口にする。

「…俺のものになってほしい。」

(このシチューエーションが二回目だからなのかな、それとも夢って気づいたからかな…。)

 あんなにときめいていたはずの彼の言葉が、全く心に響かなかった。

「イブ様、私……。」

 彼に答えを言おうとするが、こちら・・・でも急激に意識が遠のいていく。

(あぁ、目が覚めるんだ…。…イオンになんて返したら良いんだろう。)

 そう考えながら、私の意識は現実へと戻っていった。

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