第2話 なんて破壊力…!

「い、イオンさんって言うんですか?ごめんなさい私疲れてて昨日のこと覚えてなくて…っ」

 慌てふためく私にイオンさんはむくれながら近づいてくる。

「!」

 腰に軽く手を当てられながら顔をぐいっと近づけるイケメン。

(は、鼻がもう触れ合ってますぅ〜!!)

 顔が燃えるように熱い。直視できずに居ると、今度は両手で顔をロックされた。

「僕の目を見て。」

 激しく照れる私とは真逆に、イオンさんは真剣な眼差しで見つめてくる。動揺しつつも見つめ返すと、彼の左右の瞳の色は、愛猫のイオンと全く同じ色だった。

「…!」

 驚きで目を見開く私に、イケメンはホッとした様子で手を離してくれた。

「…これで分かったでしょ?」

「わ、わからないよ…。もし仮にあなたが猫のイオンだとして、なんで今は人間の姿に??」

「ピノキオみたいなもんだよ。」

「え?」

「女神が魔法で僕を人間に変えてくれたんだ。しかも、イヴ様そっくりにね。」

 そう言うとイオンはウインクした。

(ゔっ、なんて破壊力…!)

「ほ、ほんとにイオンだっていうなら証拠を見せて!」

「…疑り深いなぁ。」

 人間のイオンはため息を付くと、白のTシャツをペラリとめくった。

「なっ、何してんですかアンタは!?」

「いつもお腹の匂い嗅いでるでしょ?だから今の僕のお腹の匂いも嗅げば分かるかなって。」

「ば、馬鹿言わないでっ!!男の人のお腹の匂い嗅ぐなんて変態行為出来るわけ無いでしょ!?」

「証拠見せろって言ったの梨子ちゃんじゃん!いいから嗅いで!!」

 無理やり腕を引っ張られ、顔にお腹を押し付けられる。

(この人無茶苦茶だ〜!!)

 初対面のイケメンに無理やりお腹を押し当てられるという奇妙な体験をどうしたものかと悩んでいると、頭に軽く何かが触れる感覚がした。

(あれ、これって…。)


ぽん、ぽん。


「…いつもお腹吸われてる時、僕こうして梨子ちゃんの頭なでてるでしょ?」

「……。」

「これでも、信じてくれない?」

 頭上から悲しそうな声が聞こえてくる。その声が、何故か昨夜スマホを頭で押し上げたときのイオンの声と重なった。

「…スー!」

「!!」

 彼のお腹の匂いをイオンにするように思いっきり吸い込んだ。

「…うん。同じ匂いがする。イオンだ!」

 お腹から顔を離し、ニッコリと彼に笑顔を向けた。

「…っ、分かってもらえて良かったよ…。」

 イオンは顔を赤らめ、そっぽを向きながら答えた。

「あれれぇ〜?自分で吸えって言っておきながら照れてるの?」

「う、ウルサイなぁ。くすぐったかっただけだもん。」

 イオンはまだ顔を真赤にしながら窓際へ行く。

(あ、この仕草もイオンだ。)

 イオンは油断してテーブルから落っこちたり、何かドジをして恥ずかしいときは必ず窓際へ行きカーテンの裏に隠れる。目の前の彼も、カーテンの裏に隠れてしまった。

「ふふ、人間になってもイオンは変わらないね。」

「僕は僕だもん。」

 イオンが照れているうちに朝ごはんを用意しようと思い立ったが、ふと疑問に思った。

「…ねぇ、イオン。見た目は人間だけど、食べるものはどうしたらいい?」

 カーテンの向こうに声をかけると、綺麗な顔を少しだけ覗かせた。

「梨子ちゃんが作ってくれるものならなんでも!」

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