第46話 女王様のご帰還

 「隠している力があるのなら出し惜しみをするのはオススメしないわ。

 まあ、どう足掻いても貴女に勝ち目はないのだけどね」


 ——上等だゴラァ! 私の力、思い知らしてやる!!


 「あら、上等ブチかましです事、隠している力どころか、隠していない力すらお見せ出来ていないのに、程度が知れますわよ?

 まずは貴女の力を見せて頂けないと、オホホホッ」


 「あら、お気に触ったかしら、見せて差し上げてもよろしいのですが、一瞬で終わってしまうのも可哀想だと思いまして、オホホホッ」


 「「オホホホッ」」


 緊迫し、睨み合う両者、そんな状況を早くも我慢ならなかったファナが動く。


 「オホホホッ……、ふざけるな! 私はファナ・クルーゼなのよ! この国の女王になるんだから、 貴女風情が口を聞いて良い存在では無いのよ!!」


 ——逆ギレ!? 何言ってるの? この女……。


 「頭でも打ったの? それとも初めから頭がおかしいの? 女王様ゴッコは私では無く、お医者様とご一緒にどうぞ」


 「な、なんですって! ……まあ、貴女に恨みはなかったのですが、そう言う性格なら良かったわ。

 観客が貴女1人と言うのは寂しいですが、女王となる私の力、お見せ致しますわ!」


 ファナが、そう言うと首元から黒い大粒の宝石の付いたネックレスが浮かび上り、禍々しいオーラを放出する。


 「これはミュラー作のアーティファクト、聞いた事くらいはあるでしょう。

 古代三工の技術を今世に復活させ、その莫大な力、財力を元に、大国ファストーロの国王にまで上りつめた天才。

 ミュラーハルト・フォン・ローゼンマルク、そう、ローゼンマルク教国建国の父にして天才魔導具技師。

 そして、その後期に作られた最強、凶悪なアーティファクト、死のネックレスリビング・デスですわ!

 このアーティファクトは誰でも使える訳ではないの、選ばれた者しか使う事の出来ない意思あるアーティファクト。

 これを持った幾人もの者たちが命を落としたと言うわ、でも私は選ばれた。

 私は最強の存在になったのよ、フフフッ……まずは小手調べよ、起きなさい!」


 「「……」」


 ファナは転がっている死者に手をかざし操ろうとするが、一切の反応を見せない。

 急に動かれても何なので、こっそりターンアンデットの魔法をかけておいたのだ。


 「え? なんで!」


 「あっ、ごめん、それはもうご臨終かも……」


 「コホン……、彷徨う亡霊よ、影に身を潜めし亡者よ、我の声に応え……」


 ファナは気を取り直したかの様に新たなる死者を呼び出そうとするも……。


 「ターンアンデット」


 地中よりモゴモゴと何かが現れようとした、それは何事もなかった様に動きを止め、地に還った。


 「「……」」


 「ふ、ふざけないで! 対アンデットの魔法は光属性、しかも高位の司祭でも使える者は僅かなのよ?!

 光属性は聖教によって管理されているはず、何故貴女がそれを使えるの!!?」


 ——……、え? 光属性は聖教が管理? 何の話?! しかも対アンデットなんて別の属性でも色々出来るじゃん!


 「残念ながら私は光属性なんて持ってないわよ? 対アンデットなんて別の属性でも色々出来るし、魔法を使わずもと対処の仕方くらいあるわよ?

 え?! もしかしてアンデットを召喚出来る程度で、あんなドヤ顔で長々と最強話をしていた訳?! やだ! 恥ずかしい!!」


 ファナは怒り、恥ずかしさなどが加味かみし、顔が真っ赤に染まる。


 「なっ、何ですって! 良いわ! 私の国になる所を出来るだけ壊したくは無かったけど、もう良いわ! 最強を持って相手をしてあげる!」

 

 ネックレスより禍々しいオーラはやがて渦を成し、闇夜を更に暗黒へと導き、渦の中より大きな骨、ドラゴンと思われる骨が現れる。


 ——デカ! こんな物騒なネックレス、子供に与えちゃダメだろ! 

 これは簡単には滅せない!


 「恐怖に慄くがいいわ! 現れなさい! 彼女こそが不死の暴君、暗黒竜グリムヒルデで……」


 「ターンアンデット」


 アンデットドラゴンと化した、暗黒竜グリムヒルデが渦から現れた瞬間、私の魔法により大きな骨は音を立て崩壊し、粒子となり消え、顔の部分だけの骨が残った。


 ——……うん、難なく滅せてしまった……、アンデットってもっと厄介だった気がするんだけどなぁ。


 「「……」」


 ファナは、顔だけとなった骨から目を離す事なく、次第に壊れていく。

 

 そして、取り憑かれた様にリビング・デスに語りかけ始めた。


 「私は女王になるの、そして最強なのよ、そうお母様が言ってたもの、このネックレスがそれを可能にするって。

 お母様の言う事はいつも正しいの、間違った事なんて一度もない。

 目覚めなさいグリムヒルデ、目覚めなさいって言ってるの!!」


 ファナの目の下にはいつの間にか黒いくまが浮かび上がり、青い瞳は、数秒おきに赤く点滅していた。

 

 ——赤い瞳は悪魔堕ちの証……、って誰か言ってたっけ? 悪魔堕ち仕掛けてる……?


 「『アレスト』悪いけど拘束させてもらったよ」


 前世では土属性マナを持ち、土属性の魔法を一番得意としていた。

 アレストは地中に存在する様々な物質を生成し拘束する魔法。

 私はそれでファナの手足を拘束した。


 「な、何これは! 全然外れないじゃない!」


 「ゲンマメタルを生成したから、そんじょそこらの事では外れないよ、このまま国に引き渡す」

 

 「何ですって、外しなさいよ! 後悔するわよ! 私にこんな事するなんて、お母様が黙っていないんだから! え? お母様! はい、はい、よろしいのですか!?」


 ——はい? こ、怖い! 何この女……、!! 念話か!

 念話はそんな離れた距離で行う事は出来ない、って事は……《トト! 周囲を調べて!》


 「リリスって言ったかしら、貴女の事は絶対に忘れないわ、覚悟しておくことね」


 ファナがそう言うと、何やらぶつぶつと口を動かし、闇の中に吸い込まれていった。


 ——え? き、消えた? 気配は一切感じられない。

 トトに確認してもらったけど、周囲に怪しい人影や物もない……。

 転移だとでも言うの? 

 ……、まあ、考えてもしょうがない、グラードたちはまだ移動中か、間に合うな。


 私は超特急でグラードたちを追った。



◆◇◆◇◆



 「はぁ、僕が一歩も動かないのはね、動く必要がないから、そもそもさ、僕を殺そうとする事こそが間違いなんだよ。

 キミたちは逃げるべきだったんだよ、僕が現れる前にね」


 トゥテラティが話終えると、モーガンの後ろから物凄い勢いで迫り来る拳を握った影が飛んでくる。


 「はちょーー!!」


 私の拳がモーガンの背中に突き刺さる。


 「お、お嬢さん! 良かったご無事でしたか。

 して、あのファナとか言う者は?」


 「ああ、ごめん逃げられちゃった」


 私の言葉にいち早く反応したのはガラムだった。


 「嘘言うんじゃありません、ファナが逃げたですって!?」


 当然、嘘は付いてないので言い返す。


 「確かに逃げたのかはわからないけど、闇の中に消えてったよ?」


 「ば、馬鹿な、ファナがゲートのアーティファクトを使ったですって!

 モーガン、不味いですね、ファナがゲートまで使って逃げる相手……、モーガン?」


 モーガンは私の拳により、泡を吹き気絶していた。


 「モ、モーガン!」


 「ほら、僕がちゃんとヒントをあげたじゃない、キミは状況を理解していないって、なのに考えようともしないんだもん。

 警戒すべきは僕なんかじゃないんだよ?

 もう、誰の事だかわかるよね?

 我らが女王様はご帰還されたのだよ、ねぇ? 女王様」


 トゥテラティの眼差しは私を捉えて離さない……。


 「「「……」」」


 ——えええええ!!!? 

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