第45話 森の守護精霊トゥテラティ

 立派なツノを持つ喋る白い小鹿の登場により、辺りは異様な空気に包まれた。


 「も、森の守護精霊トゥテラティだと! き、貴様は当時の聖騎士長に滅ぼされたはず! 私がこの目で……」


 ——も、森の守護精霊トゥテラティだと!! 超可愛いじゃないか! しかも、喋るし! うちのトトは喋れませんが?!


 「そうだね、確かに僕はあの時、ザイオンに首を刎ねられて死んだよ。

 よくもあんな卑怯な真似をしてくれたね」


 トゥテラティがガラムにそう答えると、ガラムは驚愕の表情を浮かべ驚き、私はそれ以上に驚いた。


 ——ロ、ロン毛よ、どうだ、ビ、ビビっただろう……。


 冷や汗をかきながら、今、出来うる最大のドヤ顔見せるが、私自身引きっているのがわかる。


 「お、お嬢さん、これはどう言う事、でしょう」


 ——どう言う事か……、それは私が聞きたい! 


 困ったグラードを見かねてか、トゥテラティがそれに答える。


 「キミと僕は自由契約を結んだんだよ? どちらが上でも下でもない、僕はマナを貰って、キミに力を貸す、ウィンウィンの関係さ」


 「森の守護者たるトゥテラティ様と私が契約……、本当に宜しいのでしょうか?」


 トゥテラティ、お伽話にも出てくる最上位精霊の1匹であり、森の守護精霊である。

 リンク族やエルフ族から信仰され、神の一柱として祀る者たちもいる。

 そんな存在と契約を結んだグラードは当然の如く恐縮した。


 「良いに決まってんじゃん! だって……」


 「そんな話はどうでもよろしい! 何故貴方が転生出来たのか、何故そうも簡単に適合したかは知りませんが、所詮は1人と1匹、今ここでもう一度輪廻の外に封印して差し上げます」


 ガラムはそう言うと複数の光の矢を召喚し、トゥテラティに放つ。

 それに合わせるかの様に森に潜む何者かも攻撃に加わった。


 「トゥテラティ様!」


 襲い来る無数の攻撃、グラードはトゥテラティに向けられたそれに飛び込むと緑色のオーラを纏い、鞘から抜かれた2本の細身の剣で相殺する。


 「身体が軽い……、それにこの力は……」


 グラードは自身の変貌に驚き、ガラムはそれに気がつき、森からの襲撃者たちはグラードに攻撃を阻まれガラムの近くに姿を現した。

 

 1人は10代半ばの女、フードを深く被り、髪は鮮やかな金髪、瞳は凍える様に青い。

 1人は冒険者の様ななりをしている壮年の男、髪の色は赤みがかり、手には禍々しいオーラを纏うハチェットが握られていた。


 「マジかよ、あの爺さん1人で凌ぎやがった」


 「ええ、1人くらいはれると思ったのだけど、擦り傷すら与えられませんでしたね」


 驚きの表情を見せるガラムに対し、2人はそんな素振りを見せるどころか余裕させ見せた。


 「ファナ、モーガン! 何故手を抜いたのですか! 仕留められるチャンスだったのですよ!!」


 「おいおい、ガラムよぉ、俺たちはお前の部下でも何でもないんだぜ? それにお前だってそうじゃねぇか」


 「私の事情は知っているでしょう! このままだと全ての計画に支障が出るかも知れないのですよ?」


 「まあいいや、爺さんと精霊は俺がってやるよ、当然、精霊石は俺が貰うぜ?」


 モーガンが一歩前に出るとファナが静止する。


 「そのハチェットの力を使っても貴方では、あの方に勝てませんよ?

 おそらく七つ星の実力者、私がるわ。

 それにガラム、貴方、精霊が近くにいると困るでしょ? 他の者は貴方方にお任せしますわ」


 ファナの言葉に、ガラムは一瞬、思考を巡らせ辞めた。


 「ファナ、申し訳ありませんが、その提案は却下です。

 貴女には、精霊を呼び出したあの女の相手を、まだ、何かを隠しているかも知れません。

 貴女が彼女の相手を無難でしょう」


 「まあ、そうですね、わかりました、私が彼女のお相手を致します……、フフフッ、久しぶりに彼女を呼び出す事といたしましょう」


 「巻き添いだけは勘弁して下さい、我々が離れるまで待ってくださいよ」

 

 3人が話している中にあってもグラードは警戒を怠らず、パトとチャウシーを逃すタイミングを伺っていた。

 そして、一瞬の隙を見つける。


 「パト! チャウシー! 行きなさい!」


 突然、グラードがそう叫ぶと3人へと斬りかかる。

 しかし、それはモーガンのハチェットに阻まれた。


 「なっ、貴方はあの時のっ!」


 「おいおい、今更かよ、よお、あの時以来だな風の執事ゼスさんよ」


 「今回は見逃しませんよ」


 「別に前回だって見逃してくれなくて良かったんだぜ?」

 

 激しく交わる、ハチェットと2本の細身の剣、金属が擦れ火花が散る。

 そんな光景を尻目にガラムがパトたちを追う。


 「ま、待ちなさい!」

 

 グラードはそう声を上げると顔を私に向ける。

 きっと私の事を心配しているのだろう。

 

 「私の事は気にしなくて大丈夫だよ、行ってあげて」


 私にはトトもいるし、アレもある、そしてアレも……。


 グラードは一拍の沈黙の後、ガラムを追い、トゥテラティとモーガンもそれに続いた。


 《パーミル隊はグラードたちを追って!》


 先程までより冷たく感じる風がヒューっと私とファナの間を横切り、この状況を望んでいたのかファナの口元が緩む。

 

 ——余裕だねぇ、だけど、この状況は私も望むところ、悪いけど実験に付き合ってもらうぜ!!


 無言の時が少し流れ、グラードたちが十分に離れた事を確認するとファナが口を開く。


 「隠している力があるのなら出し惜しみをするのはオススメしないわ。

 まあ、どう足掻いても貴女に勝ち目はないのだけどね」


 ——上等だゴラァ! 私の力、思い知らしてやる!!



◆◇◆◇◆



 グラードは、パトとチャウシーを追っていたガラムに追いつくと攻撃を仕掛ける、が、それは容易く回避された。

 大振りで振われたグラードの攻撃は、当てると言うよりは足止めの糸があった様だ。

 ガラムもそれを理解していたのか、足を止めグラードに身体を向けた。


 「神珠は諦めるとしましょう、カルディナの身柄も大事ですが、今はトゥテラティを滅するのが先です」


 「俺たち2人が相手じゃあ、流石のあんたも簡単には行かねぇぜ?」

 

 後を追って来たモーガンが到着し、グラードとトゥテラティは、ガラムと挟まれる形となる。


 「まあ、ガラムにとっちゃあ天敵だろうが、俺は会えて嬉しいぜ! 俺のペットしてやるよ、ほら精霊石をよこしな、精霊ちゃん」


 グラードが身構える中、トゥテラティが深いため息を吐く。


 「はぁ、僕がキミのペットに? 状況を理解していない証拠だね。

 キミたちには万が一の勝ち目もないって言うのに……、ここは何処だか知ってる? 森の中だよ? そして僕は森の守護精霊。

 確かにキミは僕の弱点になり得た、けど今は適合者と契約を交わした、産まれたばかりでまだ力は弱いけど、それでもキミたちの相手なんか僕だけで十分なんだよ」

 

 トゥテラティは、小さな身体で堂々としたポーズを決め、緑のオーラを放つ。


 「っだと、テメー!」


 「モーガン落ち着きなさい、ハッタリですよ、それが真実であるなら、そんな事を言う前に制圧すれば良いのです。

 それを一歩も動かず口を動かす、飛び込ませカウンターを狙っているのでしょうが、そうは行きません。

 貴方は確実に殺して差し上げますよ」


 「はん! ハッタリかよ精霊ちゃん、オメーだけで十分なんだろ? ほら、来いよ」


 ドヤ顔を見せるガラム、挑発をするモーガン、そんな光景を見たトゥテラティは再度、深い、深いため息を吐く。


 「はぁ、僕が一歩も動かないのはね、動く必要がないから、そもそもさ、僕を殺そうとする事こそが間違いなんだよ。

 キミたちは逃げるべきだったんだよ、僕が現れる前にね」


 トゥテラティが話終えると、モーガンの後ろから物凄い勢いで迫り来る拳を握った影が飛んでくる。


 「はちょーー!!」

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