女王様のご帰還

第42話 謎の美少女リリス

 「マ、マルスク管理官! また例の女が!」


 明るくなり始めた早朝、警備局の管理官室に慌てた様子で衛兵らしき人物が入る。

 彼の名はフーガ、元冒険者であり、現在は王都の犯罪を取り締まる警備局員にして第一班の班長である。

 警備局は第一守護騎士団管轄で、局長に団長である、ガレアス・エッグノック、管理官の1人に副団長補佐であるマルクスが兼任していた。

 故に、衛兵、自警団のトップは各班長であり、警備局の班長と言えばかなりの身分である。


 「はあ……、で? 今度はどんな奴を連れてきたんだ……」


 最近のマルクスは悩まされていた。

 そう、警備局にとある人物を連れて来た女に……。

 招かれざる客ではない、むしろ歓迎されるべき人物だったのだが、何事もやり過ぎは良くない。


 「それがですねぇ……、ファストーロで指名手配中の山賊、ドーゲン組の幹部、グッケンと以下11名……」


 「グッケンだと! 賞金500万の大物じゃないか! そ、それで……」


 多くの国々でなかなか捕まえる事の出来ない凶悪犯などに賞金をかけている。

 それは、冒険者や傭兵など、戦いを生業にしている者、更に賞金稼ぎを生業にする者も現れ、治安を維持させる一角をになっていた。

 

 思いの外大物の賞金首に驚いたマルクスは、更なる懸念を口に出そうとするが、フーガはそれを察した。


 「ああ、当然、生け捕りですよ、賞金3割増! 残る11名もご丁寧に、その中には賞金首も……。

 しかも、「これもお金になるでしょ?」と、グッケンをかくまい、共に不正を働いていた商人たちの名簿、それに伴う証拠……。

 正規にこれらを計算すると、1740万ガルドの賞金となり……、遂に局の金庫だけでは……」


 彼女はやり過ぎだったのだ。

 彼女が初めて現れたのは丁度1週間前、どんなに捜査を行っても尻尾掴むどころか影すらも見せない詐欺集団の黒幕7人を突如、捕縛して来たのが最初だった。

 賞金総額220万ガルド、殺人や暴行などを行う組織では無かった為、賞金首としては少なかったが、マルクスは礼金を上乗せ、300万ガルドを支払った。


 そして、それを後悔する事になるのに、そう時間はかからなかった。


 「な! 局の金庫には5000万以上あったはずだぞ! まさか……」


 「ええ、ここ1週間であの女に全部持ってかれましたよ、まあ、これで治安が維持出来れば安いもんなのかも知れませんけどね。

 でも、どんな情報網を持ってるんですかね、ちょっと早すぎません?

 で、どうします? 金庫には900万程しか入ってませんよ?」


 フーガは思考を停止させ、全てをマルクスに投げる。

 そして、数秒の空白の後、マルクスはボソリと口を開いた。


 「私が対応しよう」


 マルクスは、そう言うと局員を呼び、女を連れて来る様、指示をした。


 程なく、その局員は女性を連れて来る。

 

 歳は10代半ば、銀色にも近い光沢のある透き通る様なグレーのボブヘアに、透明感のあるセレストブルーの瞳、可愛らしく、幼さを残す美少女である。


 「リリスさんをお連れしました」


 「入れ」


 マルクスは驚きの表情を見せる。

 情報はフーガからの報告のみ、マルクスは、リリスの背格好を女戦士アマゾネスの様に想像していたのだ。


 リリスは入って来るなりキョロキョロとあたりを見渡し、フーガと目を合わす。


 「あっ、フーガ君! 査定終わった?」


 「フーガ君じゃねぇよ! 俺はそろそろ44だぞ! まあ、若くは見られがちだな、そこそこイケメンでもあるし……」


 フーガの返しに時が少し止まる。


 「いや、どう見ても40半ばのおじさんだろ、それよりも、キミがリリス君かい?」


 マルクスはフーガに相槌を入れつつリリスに話しかける……、が、リリスはマルクスの顔をマジマジと見つめた。


 「んー、んー……、あっ! マルクス君だ!」


 「「……」」


 「ゴホン……、キミとは初対面だと思うのだが、何処かでお会いした事が?」


 リリスはマルクスの言葉に考え込むと、思い出したかの様に答える。


 「あっ、えっとぉ……、初めてですね、間違いありません!」


 マルクスは納得出来ない様子であったが本題を切り出す。


 「リリス君、今回の賞金なのですが、額が額ですので、今日直ぐにとは、申し訳ありません」


 「わかりました!」


 「え? 出来るだけ早くお渡し出来る様に努力致します」


 「わかしました!」


 「……、心よく了承して頂き感謝します。

 ……、金額をまだ話していないのですが、気になりませんか? 他の方なら、真っ先に金額の事をお聞きになられるのですが……」


 「んー、気にはなりますね」


 「……、今回捕縛して頂いた者たちは他国で山賊をしていた者たちでした。

 盗品などを商人と結託し、お金に変えていた様です。

 情報によりますと、この大陸の多くの国で禁じられている人身売買に関与していた疑いもあります」


 「んー、なるほどですね」


 「……、賞金、気になりませんか?」


 「やだなぁ、マルクス君、それ2回目、まだボケる歳ではないですよ!」


 「「……」」


 「そ、そうでした、そうでした、いや、最近忙しくてね、ちょっと疲れているのですかね」


 「仕事のし過ぎは良くないです!」


 「……、ですよね、査定金額ですが、1740万ガルドになります」


 「そうですか、じゃっ、それで」


 「「……」」


 「もう帰っていいですか?」


 「あっ、はい、この度は治安維持活動にご協力頂きありがとうございました」 


 リリスはペコリと頭を下げると管理官室を出て行った。


 「……」

 

 「……」


 リリスの帰った管理官室は何とも言えぬ不思議な空気が流れた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ——情報収集にほとんどの子トトたちを使ったのは失敗だった……。

 

 私は就寝前、寝床に寝そべり今後の事を考えていた。


 ——兎に角、みんなの安全確保だ……、でも、1人1人に子トト付けるのも目立つし、監視させるのも限界がある。

 やっぱりまずは個々の能力向上か……。


 そんなこんな考えていると、例の如く頭の中に文字が浮かぶ。



 『精霊契約』



 ——え? 精霊契約? コ、コレ何か懐かしい感じがする……。

 私……、前世で精霊契約……してた!

 トトじゃない、もっとこう……、普通に会話してた気がする……。

 何で思い出せないんだろう、気持ちが悪い……。


 私は精霊契約なるものを知っていた。

 しかし、詳細までは思い出せない、大事な事だった様な気がして、胸が苦しくなった。


 ——は、そのうち思い出すって言っていた……けど……ん?


 ああああ! 手紙!!


 ——こりゃ、また忘れてるな……、まあいい、今は精霊契約だ。

 奴らを叩きのめせるなら何でも使ってやる!!

 も、あの坊ちゃん悪魔もトト、ケットシーの事を精霊って言ってたし……。


 私はトトを呼び出し精霊契約を開始する。

 やっぱり何故か契約の方法はわかっていた。

 マナを同化させ、念話で語る。


 《なんじが友、われは汝の友、マナに誓い、汝と偽りなき等価の絆を結ぶ》


 ……。

 

 《注:契約不可、契約する事は出来ません》


 ——……、はい? もう、契約してるって事かな? いや、だったら『既に契約しています』とかだよね? わからん、最近こればっか……、寝よ。



 私は思考をやめ眠りについた。



 少し寝ただろうか、日をまたいで間もない真夜中、子トトからの通信をキャッチする。


 《また、悪い奴?》


 王都周辺を巡回していた子トト、パーミル隊より情報が飛び込む。

 王都ミズリーから少し離れた西北、街道より外れた森の中で2人の人影が疾走し、多数の者たちに追われていた。


 そして、追っている1人の人影をタペタムGOで捉えた。


 ——なっ!


 青白い肌に白銀の長い髪、目は不気味に白く発光し、青い神官服の様なものを身に纏っていた。


 子トトから目から入って来た、その人物は即私に警報を鳴らした。


 《追われている人を最優先! 私が行くまで極力接触を控えて!》


 あの坊ちゃん悪魔の禍々しさとは異なる、寒気を感じさせるオーラ。


 ——アレは……人、なのか?


 私は暗闇の中、現地に走る。

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