第37話 ティファの覚醒

 「ゼスさん!」


 とある村、1人の老人を見つけた人間族の半分にも満たない小さな人族の青年が、その老人に声をかける。


 「ただいま戻りました、マスターは?」


 「あっ、マスターさんなら猫の大婆様の所に、いるはずだよ」


 青年の話を聞いたゼスは村の奥、民家へと足を向けた。


 ロンフェロー公国とファストーロの間、両国の取り決めによる無主地がある。

 その無主地には先住民であるリンク族の村があった。


 人口は300人ほど、その村には多種の人族が先住民であるリンク族と共に隠れる様に暮らしていた。


 コンコン。


 「ゼスでございます」  


 バカーン!


 扉が開き1人の男が飛び出す。


 「ぐ、グラードさん! リラたちは! トゥカーナのみんなは!」


 「マスター、色々あった様ですが、皆無事でございます、それと今は影、ゼスとお呼び下さい、何度言えばわかるのですか」


 「あっ、わりー、丁度、姫と婆さんと今後の事を話してた所なんだ」


 中には猫科獣人の老婆、モモンジャ・シャルトと赤いフードをかぶったローブ姿の少女が、小さな円卓の前に座っていた。

 

 「シャルト様、ソマリ様、ただいま戻りました」


 「おお、ゼスよ、ご苦労だったのぉ、して、状況は?」


 モモンジャは、落ち着いた口調で語りながらゼスを席へと促す。

 老婆のなりをしているが、その眼光は鋭く、強者のオーラを感じさせる。


 「はい、やはりソマリ様が懸念されていた通り、聖教の者が裏で動いておりました……。

 誠であるかはわかりませんが、現在トゥカーナ家に仕えるオースナー家の双子の拉致が目的と証言しておりました。

 今回の魔物大進行スタンピードも何かしらのかたちで関わっていると思われます」



 「やはりそうですか、ご苦労様でした、引き継ぎ探って下さい。

 私が動ければ良いのですが……、君たち『魔王の屋敷』を矢面に立たせてしまって申し訳なく思ってる」


 ゼスの報告にフードの少女が答える。

 その顔は、凛々しく、白銀の髪は胸のあたりまで流れていた。


 「いえ、貴方が捕まる事だけは避けなければなりません。

 それよりも、指示通り牽制までに留めておきましたがよろしかったのですか?」


 神妙な表情を浮かべるとゼスは少女に視線を送った。


 「私は転生して間もない、無理をして私が奴らに捕まる様な事があれば、抵抗も出来ずににえにされるだろう。

 そうなれば、この世界は……。

 我々にも時間が必要だ、やり過ぎは良くない。

 今は牽制だけで良い、神の種が降臨されるのを待つのだ。

 その為にも今は情報、気になった事はなかったか? 些細な事でも構わない」


 「はい、些細であるかは皆様に判断頂くとして、1つ、先程、オースナー家の双子と申しましたが、実際に拉致されたのはオースナー家の御令嬢とトゥカーナ家のメイドでありました。

 1人が男子であると言う事を知らなかったとしても、身なりから双子であると判断するのはいささか無理があるのではないかと、別の目的があった様に思います。

 それと拉致に関わったグループですが、私が接触した聖教の者たちではなく、別の者たちでした。

 拉致された者たちは途中で救出されましたが、その行き先はギルマルキン伯爵邸、バートリー子爵も関わっていた様で、事は複雑です。

 そして、実行犯の1人がウータン・ヘドロヘッド」


 ゼスがそこまで話すとマスターと呼ばれている男が声を荒げる。


 「ま、まて! ウータン!? アイツ、アイツが生きてたって言うのか!?」


 「はい、既にギン・ジャックマンと思われる者に殺されております。

 不可解なのはギルマルキン伯爵の方でしょうか、騎士団が到着した時には、ギルマルキン伯爵邸は何者かに襲撃を受けた後、ギルマルキン伯爵、執事のモリスは捕縛されましたが、廃人の様な状態らしいです。

 息子のベルゼードは死亡……、ギルマルキン伯爵子飼いの傭兵たちも同時に捕縛されましたが、彼らも証言を取れる状況にはないとの事でした」


 「そうじゃのお、ゼスの言う通り別の目的がありそうじゃ……、まあ、その辺詳しい事はローレンスから報告があってからで良いじゃろう。

 ファストーロ、アストレア、ロンフェロー、そしてワシら、勢力的には大きな組織に見えるが信用出来る者が少ないのも事実。

 魔族との同盟や、龍族との友好、長期的な目的はあれど、今は大きく動く事は出来ぬ。

 まずはソマリ様より教えを乞おた、古代魔法の鍛錬をし、個々の力をつける他あるまい」

 

 「そうですね、私も力を取り戻す事に集中しよう。

 ゼス、其方は一番、古代魔法の上達が早い、今鑑定を行えば七つ星クラスに届いているだろう。

 シャルトと並び、最強の一角……、有事の際は頼んだぞ」


 ソマリが真剣な表情をゼスに向ける。


 「はい、心得ております」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 

 お爺様からの刺客をサラリとやり過ごし、ルークとの取引を成立させ、私は自室にて次なる思考を巡らせていた。


 ルークが言う様に、何らかの手を打って来るだろう。

 しかし、あれは私がそう言う事になる様に誘導した。

 

 ——ああ言う輩は、少し叩いた程度じゃあ、すぐ調子に乗る……。


 やるなら徹底的にだ!!


 そんな事を考え、うずら笑み浮かべていた私は、また例のアレによって、その笑みが消える事となる。



 『リラは15歳』



 ……。


 また訳の分からない文字が私の頭の中に浮かんだ。


 私は好奇心を抑えつつ、王城に向かう準備をする。


 ティファの治療も私の手から離れ、最近は完治を目指しティファに瞑想の指導している。

 ゆくゆくは魔法の師匠になるかも知れない。

 学園が休みの時はメアリーも一緒なのだが、残念ながら今日は授業のある日だ。


 「じゃあ、行ってくるね」


 私は高級馬車に揺られ王城に向かう。

 御者は、ルーク。

 アランとミランが交代で御者をやる様な話も上がったのだが、アランとミランは高等学園に編入させる事になった。

 

 中等部卒業であっても多くの上級使用人がいますが、差別の対象になる事も多く、軽視される傾向があるとか。


 なので母様に言ってやりました!


 「学費は私が払うので、アランとミランを高等部に!」と。


 決して、私の自由な時間が脅かされる可能性を考慮した訳ではありません!


 しかし、その時には編入の手続きは終わってました、手続きもすぐに終わる訳ではありません。

 私が言わずとも母様はアランもミランも家族の一員として招いていたのです。


 そんなこんながありまして、現在は至ります。



 「ほら、ティファ、また気が乱れてるよ」


 「はい!」


 ティファの上達には目を見張るものがあった。

 多少の揺れはあるけれど、だった数日で、瞑想の極意は理解している。

 

 これならば完治までそれほど時間はかからないだろう。

 

 「リ、リラお姉様! 何か、何かが来ます!」


 「え?!」


 ティファの身体から蒸気の様なマナが溢れ出す。


 ——覚醒?! うそでしょ! まだ数日しかたってないのに!


 「ティファ! そのまま瞑想を続けて!」


 「は、はい!」


 ティファは目を閉じて集中する。

 

 蒸気の様に溢れ出すマナは次第に渦状になり、ティファの周りを徘徊、更に周りからマナが集まりはじめた。


 ——土属性に、風属性?! ダブル?! え! 光属性も?! トリプル……?

 

 マナはティファの体の中へと馴染んで行く。

 当の本人は気がついていないだろうが、他の子供に比べて所有するマナ量が桁外れだ。


 七つ還りを発症する子供は例外なく、多くのマナを保有する事は知っていたけど……。


 ——こりゃ、まいった。 

 産まれた時から鍛錬して来た私には少し劣るけど、馬鹿げた才能だなぁ。

 フッフッフッー! 色々教え込んで、みんなの度肝を抜いてやる!!

 

 

 リラは不敵な笑みを浮かべると、あらぬ方向に闘志を燃やすのだった。

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