第36話 ルーク・クラリスの苦悩3
——腑に落ちません……。
こんにちは、ルーク・クラリスです。
クロイツ侯爵は侯爵家の寄子、レモント男爵の御令嬢をリラお嬢様の家庭教師にと差し向けて来ました。
この事は不思議な事ではありません。
クロイツ侯爵家と言えば反王族派、改革派の求心力として周知の事。
20年ほど前に起きたカラス事件、カラス盗賊団が起こした一連の事件は、当時の聖ローナン大聖堂のトルタル大司教に数名の神官たち、それに加え改革派の貴族が多く関わっておりました。
当然、多くの者たち、貴族たちが捕まり、財産の没収、爵位の剥奪、深く関わっていた者たちは、囚人鉱山に送られ、死罪となる者もおりました。
その時より改革派の勢力は弱まり、現在、表立った動きないと無いそうです。
そんな改革派であったが最近、王族派や中立派に鞍替えする貴族も現れ、改革派の貴族たちは国内外問わず人脈作りに
トゥカーナ家は騎士爵ながら広い人脈を持っております。
国内は勿論、国外にも広い人脈がある様です。
私もクラリスで少々国営に携わりましたが、トゥカーナ家の人脈は異常としか言いようがありません。
まあ、その話は置いておいて、クロイツ侯爵家がトゥカーナ家との復縁を望む事は理解しています。
しかし……。
腑に落ちないのはリラお嬢様。
いつもであれば、相手に付け入る隙を与えません、しかし、今回ミーシア嬢と交わした条件。
テスト授業。
正直、あんな提案をしなくても十分押し切れる状況、いえ、ほとんど終わっておりました。
にも関わらず、テスト授業と言う手をミーシア嬢に差し伸べた……。
——腑に落ちません。
しかも、リラお嬢様はミーシア嬢が言う、テスト授業の条件をほとんど飲んでしまったのです。
双方、見届け人を立てる事。
授業は密室で行わない事。
合否は基本トゥカーナ家とするが見届け人の意見は尊重する事。
授業の場所は王都内に限定されるが場所、日時はミーシア嬢に任せ、1週間前には連絡する事。
リラお嬢様が条件として出されたのは、
『私の知らない知識、尚且つ学び場では学べない授業』
『優秀な指導力と教養を兼ね備えいる事』
の2点、後者は指導する立場の者であれば当然の事であり、実質、リラお嬢様から条件は1つだけと理解しても良いでしょう。
——本当にリラお嬢様は何を考えておられるのか……。
ミーシア嬢がお帰りになられ、ドッと疲れた私たちは、複雑な思いを胸に休憩をとっております。
リラお嬢様は鼻歌混じりに、メアリーやアラン、ミランは疲れ果て、私はテスト授業に頭を悩ませ、同じテーブルを囲みます。
休憩を終え、リラお嬢様が自室に戻ろうとした時、私は声をかけました。
「リラお嬢様、お話が……」
いつまであれば「なぁに?」とその場で聞いて来るのですが、私の神妙な表情にリラお嬢様も思う所があったのか、自室で聞くと答えました。
部屋に入り、私は話を切り出します。
「リラお嬢様、お考え直し下さい! ミズリー高等女学院は紛れもなく名門です、しかも、優秀生が集まるAクラスのご卒業、人柄は兎も角、ミーシア嬢が優秀である事に間違いありません!
授業の内容によっては家庭教師として招かなくてはならない状況にもなり得ます。
それに、授業の日時を相手方に一任したのは明らかに失敗ですよ!
間違いなく、何らかの手を打って来るでしょう」
私は本心を真剣な表情でリラお嬢様にぶつけました。
「そぉっ」
——え?
私はこの感じを知っています……。
私がリラお嬢様に戦いを挑んだあの日、私がご両親に全てを報告すると言った瞬間のこの感じ……。
リラお嬢様の答えは……。
——家出!!
「ま、まさか逃げる事をお考えではないでしょうね!?」
私は声を荒げます。
リラお嬢様は自由を求め屋敷から逃走する様なお方、今回の行動はそれとは真逆、自ら鎖に巻かられに行く様な行為に等しい。
しかし、私の言葉に目の前のリラお嬢様は不敵に笑ったのです。
「ルーク、取引をしましょうか」
「なっ! と、取引……」
この屋敷来て間もなくの悪夢が蘇りました……、一年の時を超え、私の目の前にあの時の悪魔が降臨したのです。
リラお嬢様の目が怪しく光り、私を捕らえました。
「ルーク、それほど難しい事では無いのですよ、2つだけ……、他言無用に詮索無用。
それさえ聞いてくれるのであれば、私が逃げ出す事はありませんわ」
他言無用に詮索無用……、この言葉は1事案に対して使う事が多い……、しかし、リラお嬢様のこの言い回しは、今後起こりうる全て、リラお嬢様が今後行うであろう全ての奇行を指しての言葉。
こんな恐ろしい条件、認める訳にはいきません!
「お待ちください! 何をやらかすおつもりですか! そんな物騒な約束「メアリーが!」
私がきっぱりと断ろうとした時、リラお嬢様がそれを遮りました。
「メアリーが「リラ様は無才などではありません!」ってあの女に言ってくれた時、ルーク、貴方はメアリーを静止しましたわよね?」
——はい? なぜ今、そんな事を……。
「はい、ですがそれはミーシア嬢がメアリーに手をあげるかと思い……」
「いいえ、そこではありません事よ? おほほほほっ」
リラお嬢様はニヤリと笑みを浮かべました。
そう、いつも何かをしでかす前に見せる、あのニヤリです。
私は私の表情が固まる瞬間を自覚しました。
「ルーク、貴方あの時、メアリーの胸に腕を押し当てましたよね?
あれは偶然? それともわざとかしら?」
私はハッとし、顔が熱くなります。
「ぐ、偶然です! もちろん偶然に決まっているじゃないですか!」
「そうかしら? 初めは、もしかしたらそうかも知れません、しかし、ルークはその腕を下そうとはしませんでした……、貴方、ニヤけて鼻の下を伸ばしておりましたよ? 今の貴方の様に」
——え?!
私は両手で顔を覆い、揉みくちゃして表情を壊そうとしました。
「け、決してその様な事は!」
「まあ、これは私の主観でもありますし、例え私の言う事が真実であったとしてもルークは認めないでしょう」
「だ、だからその様な事は決して」
「だからね、第三者に聞いてみるのも有りだと思うの、誰が良いかしら?」
「ちょっ、ちょっと待って下さい!」
嗚呼、今回も結果が見えて来ました……。
そして、遂にリラお嬢様が、いえ! 悪魔が囁くのです!
「ルーク、取引……、しましょうか」
「はい、喜んで……」
こうして、私は遂に、リラお嬢様の逃走、家出を阻止しました。
私の完全勝利です!
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