第35話 淑女、反撃の狼煙
トゥカーナ家の玄関には何とも言えない空気が悶々としていた。
クロイツ侯爵家から送られて来た刺客は客人とは思えない暴言を撒き散らし、玄関に集まりしトゥカーナ家の使用人たちは、戸惑いの表情を見せる。
そして、ルークの背筋にツーっと冷たい物が走った瞬間。
遂にあの淑女が玄関に降り立つ!
優雅に階段を降りる淑女。
その姿はミーシアを除く者に不安を与え、ルークは更に恐怖も与えた。
淑女は皆の
「騒がしいですわね、あら、お客様? どちらの方かしら……、おば様」
淑女、反撃の狼煙である。
「お、おば!」
リラの一撃に言葉を失うミーシア、メアリーは青ざめ、アランとミランの時は止まり、ルークは天を仰いだ。
ミーシア・レモント現在21歳。
容姿端麗で理想に近いスタイル、口を開かなければ、美しい貴族のお嬢様と言う認識で間違いないだろう。
しかし、今のリラには当然、関係なかった。
——喧嘩は先手必勝! 出鼻を挫いてボッコボコが常套!
私に喧嘩を売ったんだ、骨の髄までガタガタ言わしちゃる!
「おば様、
アラン、ミラン、仕事に戻りなさい。
メアリー、貴女は当家のメイドなのですよ、おば様を玄関に立たせたままなんて、トゥカーナ家の名誉に関わります、早くこのおば様を応接の間へ。
おば様、当家のメイドがご案内しますわ、どうぞ足元にお気をつけになって、どうぞおば様」
リラの言葉にアランとミランはその場を離れ、メアリーは魂の抜けた様な様子でミーシアを促す。
「ど、どうぞ、こちらに」
ミーシアと目が合ったメアリーは、青ざめた顔が更に青ざめ、機械仕掛けの様な動きで応接の間へと案内。
リラとルークはミーシアに深々と頭を下げ歓迎?する。
ミーシアが応接の間に向かっている最中、リラはトドメとばかりに、ルークに問う。
「ねぇ、ルーク、あのケバいおばさん誰?」
ルークはそれはそれは深い深いタメ息を吐く。
◆◇
……。
……。
「リラ様?」
「なぁに? ルーク」
ミーシアを応援の間へと案内して20分ほど、リラは自室のベットに寝そべり。
ボケーっとしていた。
みんなには悪いが、これは必要な時間なのだ。
事前連絡無しでの訪問、当然、通常の手続きをして訪問して来る語るとは差別化しなければならない。
特に、ああ言う
「リラお嬢様、そろそろ限界かと」
メアリーを心配してかルークが私を促し始める。
「ルーク、あのおばさん怒って帰らないかしら?」
「クロイツ侯爵に指示を受けて参った節があります、帰る事はまず無いかと……」
——しゃーない、ラウンド2と行きますか。
「では、そろそろ参りましょうか」
私は徐に赤い大きなリボンを頭につけ、立ち上がる。
「リラお嬢様……、程々に……」
ルークは色々な思いを込め放った言葉であったが、リラは満遍の笑みで答え、ルークは手で目を覆い首を振る。
イライラがピークに達していたミーシアは目の前に出されたお茶とお茶菓子に手を付けていなかった。
メアリーは身体を強張らせ、メアリーの手伝いにやって来たアランとミランもその空気に飲まれていた。
そして、そこに再度、淑女の仮面を被ったリラが優雅に登場する。
「準備に手間取ってしまって、お待たせしましたわ」
堂々とそう言い放ち現れたリラ、先程と異なると言えば、頭に付けた赤い大きなリボンだけ。
ミーシアもこれに気が付き、当然、リラはそれが目的だった。
顔を歪ませるミーシアを確認すると、リラは更なる一手を投じる。
「先程は大変失礼いたしました、レモント夫人」
リラのキラーパスにルークは瞬時に相槌を入れる。
「リラお嬢様、夫人ではなく御息女です」
相手に攻撃の隙を与える事なく一方的に攻め、ご満悦のリラに対し、ミーシアは怒りに顔を歪め、身体を震わせ、湧き上がる感情を必死に耐えていた。
——効いてる! 効いてるよ! 足がガクプルだよ!
「あら……」
リラは故意的に言葉を詰まらせミーシアを舐め回す様に凝視する。
言葉を詰まらせたのは数秒、未婚を意識させるのには十分だった。
「失礼しましたわ、ミーシア……、様、今日はどの様なご用件でしょうか?」
「……」
ミーシアの怒りは相当であった、これに耐えられているのはクロイツ侯爵家からの依頼と言う一点だけ。
無言のまま数泊の時を刻む。
「リラお嬢様、クロイツ侯爵様からリラ様の家庭教師をご依頼され参られた様です」
ルークがその数泊の後、口を開く。
「お母様は何と?」
「お耳にも入っていないかと……」
「では、お断り申し上げますわ、メアリー、
ミーシアが言葉を挟む間もなく流れるリラとルークの会話。
重苦しい空気の中、メアリーたちは何とも言えない汗をかいていた。
そして、ミーシアの怒りがピークを超え爆発する。
「お、お待ちなさい! 私は貴女のお爺様、ジェイガン・クロイツ侯爵様から直々にご依頼を受け参ったのですよ?!」
顔を真っ赤にして怒号を飛ばすミーシア、メアリーたちはビクッと身体を強張らせるが、リラに動じる様子はない。
「そう言われましても
そんな顔も知らない、お爺様からご依頼されたと申されても、正直迷惑です。
お断りしますので、その旨、お爺様にお伝えください」
リラの言葉にミーシアは言葉を失う。
ミーシアは引く事が出来ない状況にあった。
ミーシアは父トーレスより話を聞いた時、必ず期待に応えると伝え、意気揚々と王都へやって来たのだ。
「こ、侯爵様がお決めになった事に
追い詰められたミーシアが遂に暴論を口にする。
そして、ルークの表情がくもり、リラは待ってましたと言わんばかりにマウントに入る。
「決定事項? お言葉ですが、当家の主人にも許可を得ず、トゥカーナ家の血筋たるこの私に拒否権が無いとはどう言う事でしょう。
そもそも貴女から何を学ぶと言うのです?
教養のカケラもない者から物事を教わると言う事がどれほどの地獄か知るべきです。
いっそ貴女が家庭教師を雇ってはいかがでしょう。
それに私は家庭教師を必要としておりません。
魔法に関しては、まだ属性鑑定も行っておらず、基礎は日々、お母様に指導して頂いております。
その他武芸に関しても、当家にはお母様やお父様、お兄様にルークもおります。
勉学に関しては、当家は貴族と言っても騎士爵家、私は平民と何ら変わりません、学び場で学ぶ事は学び場で学べば良いのですよ。
そんな私に何をご指導するとおっしゃるのですか!」
リラはミーシアをそう捲し立てると、みんなに満遍のドヤ顔を見せる。
メアリーは思考を放棄し、無表情に。
アランとミランの眼差しはルークへと向かい。
ルークは天を仰いだ。
怒りを放棄し、今にも逃げ出しそうな様子のミーシアだったが、自身のプライドか、はたまた使命感からなのか、自身を奮い立たせ最後の抵抗を見せる。
「ま、魔法ですわ! 確かに貴女のお母様は優秀な方、しかし! 魔導科が専門ではありません! ねっ、そうですわよねっ、ルーク様!」
突如として振られたルークは戸惑いを見せた。
「は、はい、ミラ様は騎士科のご卒業と聞いております、「ほら!」ですが、ミラ様の魔法のご指導は魔導教師に劣る物でもありません」
ルークの語りの最中、ミーシアは一瞬笑みを零すも、後の言葉に沈黙、静寂を余儀なくされた。
場に静寂が流れる。
——え? この状況でまだ帰らないの?!
早く事を終わらせたいリラはそんな静寂を破り、自らファイナルラウンドに駒を進めるべくミーシアを誘導する。
「魔法、魔法ですか……、興味が無いわけではありません。
ですが先程も申しましたが、学び場で学ぶ事は学び場で学べば良いのです。
私は学び場の教師の指導力を疑ってはもおりませんし……。
もし、私が学び場以外で指導をお願いするとするならば、学び場では学ばない知識を優秀な教育者にご教授頂く事のみです。
ミーシア様に、その自信があると言うのであれは、私の教師に足るか、見聞させて頂く機会を与えましょう。
これがこちらからの最大の譲歩です。
それがお聞き届けられないのであれば、今回の件は、お諦めください」
終始、表情が曇りっぱなしのミーシアであったが、相当な自信があったのか、その表情は明るくなり授業テストを承諾した。
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